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Keychron V3 Maxを使って静音キーボードを作る

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経緯を省略し、私はこう思った。

「そうだ、静音キーボードをビルドしよう」

なにせ手元にはFrozen Silent V2がある。 これをちょっと買い足せば静音キーボードをビルドするのにちょうどいいはずだ。 いや、元々は赤軸系キーボードをビルドしようと思っていたのだけど、赤軸系でいいスイッチを調べていたら、Frozen Silent V2は「最も静かなスイッチ」として紹介されていたからそう思ったんだけど。

もともとはPCMKのPre-built Midnight Silentを使おうと思っていたのだけど、実際にPCMKとEK87にFrozen Silent V2を載せて打ってみたところ、結構違う。 騒音計で測った限りだと音量はほとんど変わらないものの、音質が結構違ってPCMKだとちょっと響く感じがする。

なのでどうやらガスケットマウントである必要がありそうだ。

ベースの選定

JIS配列でホットスワップ対応キーボードというのは本当に少ないので、非常に少ない選択肢から選ぶことになる

  • Pulsar Gaming PCMK
    • Pre-builtは在庫僅少
    • スイッチによっては結構安価
    • プレートマウント
    • 有線のみ
  • Keychron C3 Pro
    • 高いほうだけホットスワップ対応
    • ガスケットマウントだけれど、一般的な浮いてる構造ではなく、フォームの上に乗っかってる
    • ものすごいたわむ模様
    • Nキーロールオーバー非対応
  • Keychron V Max Series
    • ガスケットマウントかつプラスチック筐体
    • TKLのV3 Maxで20000円くらいするので高め
    • V3 MaxのJIS配列モデルは公式サイトに記載なし
  • Keychron Q Max Series
    • Keychronの最高峰。バカ高い
    • すごいリッチなガスケット構造をしている
  • LEOPOLD FC750
    • 名前からすると75%レイアウトっぽいけど、TKL
    • 無線はBluetoothのみ
    • JIS配列でもかな印字が全くない
    • USB Type-Cポートは背面の深いところにあるタイプ。狭くはない模様
    • バッテリーはAAA乾電池
    • プレートマウントで、吸音パッドを挟んでいるタイプ
  • RK Royal Kludge M87
    • RKのJIS配列モデルの中で、ちゃんとJIS配列しているのはこれだけ
    • ファミコン風の配色
    • ノブが2つ、LCDディスプレイつき
    • Nキーロールオーバー非対応
    • レビューを見ると、割と信頼性微妙っぽい
  • Mongeese KB820
    • 75%キーボード
    • ノブがついている
    • ガスケット構造と描いてあるけど、違う気がする

というわけで、実質的に希望を満たすものとしてはKeychron V3 MaxとRK Royal Kludge M87しかない。 M87、ちょっと信頼性に不安を感じたので、消去法でV3 Maxに。

Keychron

Keychronは中国・深圳のメーカー。主にキーボードを出している。 世界的に有名なキーボードメーカー。

Keychron、ファンが多いのは知っているけれど、基本的にMacユーザーの印象。 Macレイアウトに対応してる高級キーボードってあんまりないので、必然的にKeychronに集約されているんだと思う。 Macレイアウトの高級キーボードが少ないのは、Macを使う人はApple信者なのでMacのぺたぺたキーボードこそが至高だと信じる人が多いからだろうか。

で、KeychronはデフォルトがMac配列なので、Mac用キーボードという印象が強い。 けれど、基本的にはMac/Windowsユニバーサルで、サポートにちゃんとLinuxも書いてあるタイプ。 プロファイルで配列を切り替えられるようになっていて、Windows用キーキャップが付属。

キーキャップ交換の効かないB Proシリーズとかは、キートップに併記。 まぁ、B Proシリーズは下段がだいぶクセのある配列をしているけど。 といっても、ソフトウェアでリマップ可能なので、印字を無視してオーソドックスな配列に変えることは可能。

オープンソースファームウェアを強調しており、微妙にLinuxユーザーにもアピールを欠かさない。

エルゴノミクスキーボードも出していたりする。

素のV3 Max

横から

レトロカラー。 いや、普通に黒グレーがよかったんだけど、Amazonでセールしてて、在庫がレトロカラーしかなかったので。

あんまり好きじゃないんだよね、レトロカラー。 この色が普通だった昔からあまり好きじゃなかった。だって、なんか汚くない? こう、汚れが目立たないようにしている色というか。

でも、本物のレトロはこんな色じゃない。 こんなにきれいに整形されてきれいに塗られているものにレトロを感じない。 UltraClassicの色を見るがいい!

それと、レトロカラーとバックライトは合わないと思うの。 EK87のときにも思った。

キーキャップはJIS配列も単品販売しているけど、なかなかのお値段。 カラバリがちょっとあったりする。

もうひとつ気になる点として、かな印字の存在感がすごい。 これは単品販売しているやつでも同じ。 その意味で黒グレーもださださなので、むしろレトロカラーのほうがマッチしている面はあるかもしれない。

いつも言っているけれど、JISかな打ちする人で高級キーボード買うような人はかな印字なくても打てる可能性が高いので、かな印字あんまりいらない。 キーを見ながら探さないといけない人には、高級キーボードあんまり需要ないので。

上から

標準ではMac向けのキーキャップがついていて、下段は「Control」「Option」「Command」「無変換」「スペース」「変換」「Commond」「Option」「Fn」「Control」になっている。

Windowsレイアウトだと「Ctrl」「Windows」「Alt」「無変換」「スペース」「変換」「Alt」「Windows」「Fn」「Ctrl」になる。

珍しいRWinキーがあるキーボードだけど、足りないキーに気づくだろうか。

そう、

「かな」キーがない。

キー数としてはそんなに特殊なわけではなく、Menuキーがないタイプなら一般的な数。 なので、RAltをかなに、RWinをRAltにすれば一般的な配列になる。

が、「かな」のキーキャップがない。なぜだ。 RAltに関してはRWinと同じ1.25uなので、ずらしてつければ良い。 「かな」キーキャップはないので、Commandキーキャップを採用した。

このリマップはKeychron Launcherでできる。

Keychron LauncherはLinuxでも使えるよ、とアピールされているのだけど、hidrawへのアクセス権限がないのですんなりとは使えない。

方法としては、Chromium系ブラウザなら

  • https://launcher.keychron.com でペアを設定
  • chrome://device-log を開く
  • Failed to open '/dev/hidraw13': FILE_ERROR_ACCESS_DENIED みたいなログが出る
  • sudo chmod 666 /dev/hidraw13 のように対応デバイスの権限を変更
  • Keychron Launcherをリロード

という感じ。 設定が終わったら戻そうね。

「かな」キーの所在がわかりにくいけれど、「スペシャル」の中にある。 「かな」が2つあるけど、後ろにあるほうが目的のキー。

「かな」キーは後ろのほうが正解

ノブがついてるんだけど、実際に使った換装としてはいらない。

まず、Keychron Launcherは現状KEY_MICMUTEを設定できないし、マイクコントロールには使えない。 スピーカーコントロールならデフォルトでショートカットキーも設定されているし、必要性は低い。 で、ノブがあるせいでFキーの位置がズレていて押し間違えることが多くて、あんま良くない。

KeychronこだわりのOSAプロファイルに関しては、特に悪くはないけど良くもない。 カーブのきついFKB8811やUltraClassicは明確に打ちづらいと感じるけど、そういう打ちづらさは特にない。かといって打ちやすいかと言うと、むしろキートップの面積が狭いという苦手要素に引きづられてやや打ちにくい。

ただし、速度はちゃんと出る。

80WPM/401ks

Jupiter Bananaの時点は精度は普通、速度は速いという感じ。 というか、10 Fast Fingersでの80WPMは私としては最高記録に近い。この記録は2回目の試技で出しているので、かなり速いと言っていいと思う。 Typoが多いのは、「キーが迷子になる」ことが多いため。

実際に文章をタイピングしていてもかなり速く打てると感じる。

カスタムのお時間

Gateron Jupiter Banana

V3 Maxで選択可能なのはGateron JupiterシリーズでRed, Brown, Bananaの3つ。

Bananaは作動力59±10gf、Pre-travel 2(±0.6)mm、総トラベル 3.4mmというスペック。 ちょっとPre-travel誤差大きすぎない? という気はするけど、まぁそこは置いとこう。

スペック上は「少し重め」「総トラベル少し短い」という特徴を持つタクタイルタイプ。 Keyhcronは “Similar to Panda switches” と記載している。

もう少し踏み込むと、Jupiter Bananaは0.5mm付近にpressure pointを持つアーリータクタイル。 スコンと抜けるストロークが長く、思い押し込みを過ぎると吸い込まれるような設定になっている。 ボトムアウトは45gfなので底付きしやすい。というか、実際は底つきしないように打つのはかなり難しい。

実際のタイピングとしては、アーリータクタイルというキャラクターもあって、Budgerigarに近い感じ。 Holy Pandaと同じようなって言ってて、私はHoly Panda使ったことがないので比べられないけど、Holy Pandaはボトムアウトがバンプより重いので多分ちょっと違うと思う。

Budgerigarはpressure pointは70gfくらいあって、ボトムアウトが60gfくらい。 最後ちょっと重くなるのだけど、これは勢いを殺す効果がある程度で、ボトムアウトはまぁ避けられない。 そして、Jupiter Bananaはそれ以上に避けられない。ラバードームのメンブレンキーボードくらい避けられない。

なんだけど、フィーリング自体は良好。 ちょっと安っぽいカチカチした音が鳴るんだけど、押してる実感が得られて、気持ちよくタイピングできる。 打ってて楽しいし、打ちやすくもある。

で、フィーリングは良好なんだけど、タイピングのキースイッチとして良いかと言われるとやや微妙。 初動が重いので力が必要で、長時間打っていたら腕が痛くなってきた。 あと、ゲーム用としてもちょっと微妙で、Muse Dashでは重すぎて明らかに遅れる。

音は69〜75dBあたり。タクタイルとしてはまぁ普通。そんなうるさくはない。

Jupiter Bananaは69〜75dBあたり

さて、Frozen Silent V2を載せるにあたってマストとした「ガスケットマウント」なんだけど、実際に打ってみると全く感じない。結構強めに押してもほとんど沈まない。 EK87とはえらい違い。若干不安を感じる。

で、載せ替え。 Jupiter Bananaは簡単に外れる。これは問題ない。

問題なのは、信じられないほどFrozen Silent V2が入らない。 「え、これ本当に入る?」ってレベルで入らない。 力がいるとかじゃなくて、なんか置き方とか力をいれる角度とか、いろいろ工夫し続けていたらそのうち入る。 1個のスイッチをいれるのに長くて20分くらいかかった。PCBの上のところのフォームにひっかかってマジで入らない。

Jupiter Bananaを戻すのは非常に簡単なので、相性なのかも。 入らないことはないけど、めちゃくちゃ大変。

そうやって苦労して入れたFrozen Silent V2だけど、音は41~46dBくらい。

Frozen Silent V2は極めて静か

明らかに静か。「ストッ」て音はするし、実際に静かな部屋で耳で聞いて打っている音が聞こえないなんてことはない。 けど、カフェとかだったら多分誰も気づかない。 ラップトップのマイクで拾うと机を叩くわずかな「コッ」ていう音のほうが響く。マイクをキーボードを打つデスクとつながらない形でマウントしたら通話してても気づかられない可能性は結構ある。

デスクに伝わる振動は明らかに小さいので、不安だったガスケットマウントもちゃんと機能しているみたい。

ただ、「無音」は明らかに言い過ぎ。 静かな部屋ならタイピング音はちゃんと認識できる。

まあ、聞いてみるのが早いと思う。 同じマイクセッティングで同じように打鍵したデータを用意した。ゲイン調整もしていない。

Jupiter Bananaの打鍵音

Frozen Silent V2の打鍵音

Frozen Silent V2はリニア軸としては割と打鍵実感のあるほうで、タイピングが認識しやすい。 さすがにわかりやすさではJupiter Bananaのほうが上で、Jupiter Bananaはかなり打ってて楽しいので、若干もったいない気はするけど、Frozen Silent V2もこれはこれでなかなか楽しいフィーリングになっている。 あと、軽いリニアスイッチの中では比較的打ちやすいので、赤軸系のスイッチに微妙に馴染めない人にもフィットするかもしれない。ただ、リニアスイッチの中でも特に軽い部類なので、軽さが苦手な人にはあまりマッチしない。底打ち時のゴム感が嫌いな人にも合わないと思う。

あと、結構高い。

けど、はっきりしておきたいのは「静かさに全振りしてほかを犠牲にしたようなスイッチじゃない」ということ。 さすがに極上のタイピングを追求したようなスイッチとは違うけど、一般的な赤軸系のスイッチ(例えばGraywood V3とか)と比べてもアドバンテージを持っている。 ゴム感は、ガスケットマウントのキーボードを使うとちょっと減る。

静音を極めたいわけではなく、実用的に静音キーボードが欲しかったので、特に改造等はしない。

総評

  • Keychron、かなり良い
  • 非Macユーザーでも使う価値は全然ある
  • かなり良いけど、微妙に気に入らないところがいくつもある
  • JIS配列出してくれてありがとうKeychron
  • バナナ軸は標準搭載するものとしては悪くないが、すごく良いわけでもない
  • Frozen Silent V2への載せ替えは大成功。ただし、載せ替えが超大変