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コンパクトキーボードのマストバイ、SKB-SL18

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SKB-SL18はサンワサプライのコンパクトキーボードだ。 要点をまとめると次のようになる

  • 公式の価格は5000円近くするが、Amazonでは1500円ほどで買える
  • カーソルやFキーを持つ19mmフルピッチの85鍵キーボード
  • 縁やキーの隙間がなく非常に
  • アクチュエータ・支持機構はパンタグラフ
  • キーボードを立てることができる
  • キーストロークは2mm

こうしたコンパクトなキーボードは珍しく、サンワサプライには同じようなメンブレンキーボードのSKB-KG3があるが、それ以前はセンチュリーからBLACKPAWNというキーボードが出ていたが、現在は日本語配列ではHHKBくらい。しかも、通常位置のCtrlを求めるなら35000円するProfessional Hybrid Type-Sしかない。

ここまでコンパクトでなくてもいいなら、ARCHISSのProgressTouch TinyキーボードやThinkPadキーボードもあるが、いずれにせよ希少なコンパクトキーボードであることは違いない。

打ち心地について

ポジション的には、机の前のほうに置き、スタンドを立てればいい感じになる。後方が高くなっているデザインではあるが、スタンドを立てずに使うのはちょっとしんどい。

打鍵感は、特段悪くはなく良い方ではあるが、良くはない。 2mmというのは昨今のキーボードとしては深いほうだ。 2mmのパンタグラフキーボードといえばLet’s Noteがある。

ちなみに、現行のThinkPad X1 Carbonのキーストロークは1.8mm。モバイルクラスのラップトップでは、おそらくLet’s Noteが最も深い。

そして、このキーボードは実際、タイピングの感覚としてはLet’s Noteに似ている。 深めのキーストロークで打ちやすい。だが、良好なフィーリングかと言われるとそうではない。

Let’s Noteのキーボードは確かにうち間違えにくく、効率的に打てる、ラップトップとしては良いキーボードだ。 しかし、デスクトップPCでもつかいたいようなキーボードかと聞かれれば、私は否と答える。 感覚よりも実利をとったというか、「気持ちいいキーボードではない」。

その点で言えば、1.8mmとストロークが随分と短くなった(初代X1は2mmあったし、もともとThinkPadは2.5mm のストロークがあった)とはいえ、ThinkPadのキーボードは以前としてデスクトップでも選択肢になるような、気持ちのいいフィーリングである。

キートップが削られており、見た目に反して正確な打鍵をしやすくなっているのもLet’s Noteに似ている。 みっしりした見た目をしているが、実際はアイソレーションキーボードに近いタイピング感だ。

だが、このキーボードが2mmというストロークをしっかりと活かしているとは言い難い。タクタイルポイントが非常に浅く、ほとんど動かないところで止まる。その先、つまりクリックが入った後にほぼ2mmのストロークが残っているのだ。メカニカルキーボードなどではストロークがやや短く、アクチュエーションポイントが非常に浅いキーボードが最近の流行りではあるが、このキーボードの場合あまりにも浅すぎて硬い、ペタペタ感が出てしまっている。

しかも難点として、タクタイルポイントは浅いが、アクチュエーションポイントはほぼ底付きしたところにある。これはどういうことかというと、確かにパンタグラフによってぐらつきは少なくなっているのだが、キーの端のほうを優しく押していくと、ぺこんと潰れた感覚はあるにも関わらず入力は入らない、ということになる。 現実的にはあまり発生しないように見えるが、端のほうにあるカーソルキーなどでは意外と現実的に発生するし、キーボードにのキャラクターとしてそこそこ叩くことを求めるものでもある。

このキーボードのタイピング感はほぼこれで言い尽くしたと思う。

つまり、ラップトップとしては深いキーストロークを確保し、タイピングミスも少なく、うち心地が良いと言われているLet’s Noteとよく似ている。それがすべてだ。

これは、タイピング感覚に特別な良さはないという意味でもある。

例えば、LenovoのTrackPoint Keyboard IIはまんまThinkPad X1 Carbonのキーボードだ。キーストロークは1.8mm。ワイヤレスになった関係もあり、先代からは大きく値上がりし、16000円ほどする。 求めるならば、まだ先代のTrackPoint Keyboardも購入可能だ。こちらは10000円ほど。

さあ、よく考えてほしい。 ThinkPadはラップトップとしては最高のキーボードを持っていることで知られている。一方、Let’s Noteのキーボードも打ちやすいことで有名だ。 このキーボードは、5000円ほどするが、Amazonで1500円ほどで買うことができ、Let’s Noteと同じようなフィーリングを持つ。一方、LenovoではThinkpadとほほ同じキーボードを買うことができるが、16000円する。

別の見方をすれば、ThinkPadのキーボードは、「16000円出しても欲しい」と思う人が普通にいるキーボードであるということだ。もちろん、ThinkPadには熱烈なファンがたくさんいるが、それにしても16000円といったら高級キーボードの域である。

ThinkPadのキーボードを、何の変哲もないパンタグラフキーボードだと思う人も、そりゃあいるだろう。 だが、実際、ThinkPadのキーボードは打っていてとても気持ちいい。長文を書くのにあえてThinkPadのキーボードを使うときもあるくらいだ。

どこに違いがあるのか説明せよと言われると難しいが、フィーリングには大きな違いがあり、明らかにThinkPadのキーボードは「お金を出しても欲しいキーボード」であり、SKB-SL18は「安価なキーボード」である。

大きな違いとなっているのは、パンタグラフ機構の使い方だと思う。 ThinkPadのキーボードはパンタグラフの支持機構が強く、アクチュエータとしてかなり強く働く。そのため、ラバードームの一瞬で「ぺこん」と潰れる感覚だけでなく、もう少し過渡的な感覚がある。 対して、このキーボードはパンタグラフの存在感をほとんど感じない。キーストロークの深さが、非常に浅い位置でぺこんと潰れた後の領域にあるため、ストロークを使ったタイピングにならないのだ。

もちろん、HHKBやARCHISのキーボードには敵わないだろう。あちらはあくまで小さいだけで、最高クラスのキーボードである。

昔のラップトップのような、深いフィーリングを求める人は、パンタグラフキーボードではなく薄型メンブレンを求めることになるだろう。昔のラップトップの深いキーストロークは2.5mm程度であり、もうこのクラスのパンタグラフキーボードはほとんどない。

どうしてもそれを求めるならば、バッファローにBSKBU14というキーボードがある。 あと、配列にかなりクセがあるが、サンワサプライにSKB-SL02というキーボードもある。

今ちょうど手元にEDGE201がある。 このキーボードはオムロン製のショートストロークのリニア特性を持つメカニカルスイッチを採用したキーボードで、キーストロークは3.0mmである。キーストロークが短いと感じるが、オンストロークは1.5mmあり、リニアらしく反発力を感じながら軽い力で気持ちよく打つことができる。さすがにこうなると比べるのが申し訳ない。

だから、ここで前提をはっきりさせよう。 このキーボードは、あくまでも「安価なコンパクトキーボード」という前提を必要とする。

「値段が違うんだから当たり前じゃないか」と思ってはいけない。 サンワサプライにはSKB-L1というキーボードがある。USBモデルとPS/2モデルがあるのだが、USBモデルはAmazonでまとめ買い対象になっており、なんと650円(!!!)である。 そしてこのキーボード、かなり良いフィーリングで、人によっては「これこそがベストだ」と言ってもおかしくないキーボードだ。ストロークは2.4mmと短く、作動力は65gとかなり重い。だが、「しっかりとした押し心地でカチカチっと入るキーボード」というフィーリングなのだ。

また、コンパクトさを要求しないのであればそもそもこのキーボードにこだわる必要はないが、ラップトップのペコペコしたキーボードになれた人はロングストロークなキーボードを打つと疲れるという人もいる。 メカニカルスイッチは作動力が軽く、アクチュエーションポイントを1mmくらいまで詰めたものもあるが、キーストローク自体は3mmはある。今この現行を打っているEDGE201はメカニカルキーボードとしてはショートストロークなほうだ。(作動力は重いが)

そうした人の場合、作動力が軽くストローク自体が短いキーボードを好んだりする。 人によっては(Macのキーボードのように)押している感覚のほとんどないぺたぺたキーボードが好きという人もいるだろう。それと同じように、「押してる感は欲しいがストロークは要らない」という人もいるだろう。そういう人にはこのキーボードはアリかもしれない。 キーストロークは2mm。ただし、作動力は50±20gという表記であり、別に軽くはない。

立てられることについて

予めコードを避けて溝に固定しておく必要がある。

立てれば安定感はかなりあり、機能的には悪くない。

携行性について

HHKBやProgressTouch Tinyは、あくまでも面積が小さいだけで、別に携行性はよくない。 非常に分厚いし重い。

これらのキーボードが小さいのは、接地面積を小さくするよりも、キーを密集させることでキーを押すときに指の動きを小さくするという意味合いがある。 カーソルキーなどを素早く押したいというプログラマーやゲーマーの要求に応じたキーボードであると言えるだろう。

SKB-SL18の携行性が良いということは間違いなく認められる。とてもコンパクトだ。

ただし、SKB-SL18を携行する魅力があるかという点は疑問がある。 なぜならば、そのタイピング感は至ってラップトップ的であり、ラップトップに接続するキーボードとしての魅力に乏しいからだ。 このようなキーボードを携行したいケースというのはだいぶ限られるように思う。 キーボードがだめになったラップトップか、キーボードがだめすぎるラップトップと組み合わせるか、あるいは深いストロークが苦手で、会社のデスクトップで使うのにラップトップっぽいキーボードが欲しいか。

重量は260gと軽い。だが、荷物として気にならないほど軽いわけではない。微妙だ。 だが、携行性が良い中ではちゃんと打てるキーボードであるとも言える。これよりも携行性の高いキーボードはまともなタイピングはできない。

だから、スマホやタブレットなど、キーボードを持たないデバイスの入力に携行するのであれば、非常に良い選択になるのではないだろうか。

また、携行性の高い薄いキーボードであるため、サーバー用キーボードとして隙間に押し込めておくのにも向いている。

結論

非常にニッチな製品だ。

単純にパンタグラフキーボードが欲しいという場合に選ぶようなものではなく、どちらかというと前提として省スペース性が求められるときに買うキーボードだろう。しかし、リビングPCなどで使うキーボードというキャラクターでもない。それなら無線だったり、トラックパッド内蔵だったりするほうが良いからだ。

机が狭いから省スペース性を求めたい、という場合はあるだろうが、この場合ここまでコンパクトであることを必要とするわけでもないだろう。

私は今この原稿を寝室で書いている。 寝室の机は60x90というサイズで、奥に32インチの古いテレビを置いている。だから、手前にあるスペースは奥行き40cmもない。

小さめの机を使っていて、モニターを置いているので前後長がない、という人はいるだろう。 私の場合、キーボードの設置に困るわけではないが、何しろご飯を食べるときに寝室で食べているので、そういうときはキーボードが邪魔になる。だから、コンバクトで普段打つのが苦痛にならず、なおかつよけやすいキーボードがあると良いなと思ったのだ。

小さくて簡単に立てられる、たしかに良いキーボードだ。ある意味では、まさに求めていたキーボードだと言ってよいかもしれない。 だが、SKB-L1で思ったほどには、このキーボードは良くはない。不満があるわけではないが、「持ってないのはもったいない」とかいうクオリティではない。 コントロールキーのパンタグラフが安定しないのも気になる。

伝わるだろうか。別に不満もないし、「OK、理想的なキーボードだ」とまとめても良いのだ。良いのだけど、そう言えない。それは、「気持ちよくない」という一言に尽きるだろう。

勘違いしないで欲しい。安価なキーボードといえば、Lenovoのプリファードキーボード(安価といいながら4000円くらいするが)はフィーリングもよくない上に、指の関節が痛くなるしんどいキーボードだ。 FMV-KB325は良いという噂を聞いて購入したのだが、とにかく指が疲れる上にミスタイプが多くやたら重い。 ダイソーで1000円で打っている磁気研究所製のキーボードは、あまり長く打っていたいとは思えないキータッチで、何よりキーボードがとても滑る。

安いキーボードは高確率でハズレだ。マニアでないのならば、自分にあった高級キーボードを買ったほうが良い。 その点でいうならば、SKB-SL18はこの原稿の大部分の執筆に使い、特に苦痛を感じていない。 だから優れたキーボードと言って差し支えないだろう。

そして、このキーボードはその打ち心地にしても長文を打つのに苦痛があるわけではない。ただ楽しくないだけだ。SKB-L1ならばもっと気持ちよく打てた、と思う。 ここまで原稿を打ってきて、当初よりは印象がよくなってきたから、もしかしたらもっと打っていればやがてなれて、「これは良いキーボードだ」となるかもしれない。だが、「もしかしたらTrackPoint Keyboardに匹敵するようなフィーリングがあるのではないか」という期待をして購入したのは、いささか行き過ぎであった。

もちろん、意図としては適正に機能した。 非常に小さなフットプリントで、何かのお供にPCをつけていても(YouTubeやAmazon Prime Videoの最低程度に使っているのだとしても)あまり邪魔にならず、ちゃんとスペースが机上に残る。 そして、それでも邪魔であれば簡単に跳ね上げることができるのだ。 少なくとも今の私の要求に対してはぴったりのキーボードだったと言っていい。

だが、キーボードとしてはSKB-KG3のほうが良かったかもしれない。

SKB-KG3はAmazonでは1200円ほどで購入できるコンパクトキーボードである。 フットプリントはSKB-SL18とほぼ変わらない。

ただし、キーストローク3.8mm、作動力55gの「ごく普通のメンブレンキーボードである」という特徴がある。 幅30cmほどしかないフルサイズのメンブレンキーボードというのは、タッチは普通だとしても存在は普通ではない。 「フットプリントを詰めたい」というのが理由であるならば、もちろんフィーリングの好みの問題はあるが、SKB-KG3のほうが「買いな」キーボードなのではないかと思う。 370gと一回り重いが、案外携行性も悪くない。 まさかそんなことはないと思うが、HHKB Liteの代わりに購入するのも、もしかしたらアリという可能性もある。

もし、フットプリントが問題なのであり、なおかつ高くても良いと思っているのであれば、PorgresTouch TinyやHHKB、あるいはTrackPoint Keyboardを検討すると良い。それぞれ異なったフィーリングを持つが、値段の桁が違うだけあって、さすがにフィーリングも段違いだ。

私はEDGE201を寝室での普段遣い用に下ろした。フットプリントは大きいが、非常に打ち心地がよく、「もう汚れるのも覚悟でそこそこいい満足できるキーボードを使うほうが良いのでは」という気持ちでもある。SKB-SL18を通常設置にするのと、EDGE201を通常設置にするのは明らかにベクトルが異なり、どちらが良いとは言い難い。 やはりさっと交換できるようにするのが理想的かもしれない。 寝室PCでキータイプするという状況はそれなりに限られたタイミングなので、使い分けるのであれば通常設置はSKB-SL18になるだろう。

つまり、

  • 安価でちゃんと打てるキーボードが欲しい
  • コンパクトなキーボードが欲しい
  • 狭いスペースのデスクやテーブルで使う
  • ラップトップのキータッチが好き
  • 携行性の良いキーボードが欲しい

といった要素のうち、全部でないにせよいくつかを持っているのであれば理想的なキーボードだろう。 一方、このうちひとつだけが要求であれば、物足りないのではないだろうか。