深めのキーボー道の話
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序
本記事はPCのHID(入力デバイス)である「キーボード」についてのものである。
ただし、よくあるキーボード記事のような内容を目指したものではない。 つまり、キースイッチの種類の話なんかは、しなくもないが、前提知識としての本当に軽い話でしかない。 どちらかといえば、キーボードを操作する人間側に着目した話が中心となる。
これは最終的にはキーボード選びにつながってくるが、従来間違った姿勢でキーボードを打っていて、この状態で良いキーボードを手に入れたとしても、正しい姿勢に矯正したら「なんか違う」ということになりかねないということだ。
しかし、正しい姿勢やタイピングに導くことを目的としているわけでもない。 そうではなく、キーボードの感覚や選び方に関わる要素についての話が中心だ。
キースイッチとアクチュエータ
よく混同されるのだが、キーの入力信号を生成するキースイッチと、キーの動作を制御するアクチュエータは別物である。 ほとんどの場合の、着目されているのはアクチュエータのほうであるにもかかわらず、キースイッチの話として扱われるのだ。
アクチュエータ
アクチュエータとは
アクチュエータはキーの押し下げ時の抵抗となるものであり、またキーを押し戻す機構でもある。 キータッチを決定する要素だ。
ラバー
最も一般的なのはラバードーム/ラバーカップだ。
形状にはある程度違いはあるが、簡単に言えば水回りの詰まりを解消する「すっぽん」みたいなものである。 このドームを潰すにはある程度力がいるし、力を加えるのやめれば反発して元に戻る。 だいたいこの原理で動いているものだと思えばいい。
形状を変えることで感触を変えることができる。
安いキーボードでは、キーボード全体で一枚のラバーシートを使っていて、キーのところにドームがあるようなものになっている。 一方、高級なキーボード、例えばLibertouchやRealForce, HappyHacking Keyboardなどではひとつずつのキーに個別にラバーが取り付けられていたりする。
ラバーアクチュエータは高価な機構を安価に代用できるというのが大きなメリットだが、ゴムはなかなか「だんだん潰れていく」とはならず、力を加えていくとある時点で「ボコッ」と凹んでしまう。 また、復元も押し返すような反発感がなく「ボコッ」と戻る。 これが好きという人もいるが、まぁ安っぽい感触である。
だが、ラバーの特性がキーボードのアクチュエータとして好ましいのも事実なので、ラバーを補助する、あるいは補助としてラバーを使うことで特性をチューニングする高級キーボードも多い。
なお、LibertouchとRealForceはどちらもラバーとスプリングを用いたキーボードだが、その形式はかなり違う。 Libertouchの場合はキースライダーにスプリングとラバーが取り付けられており、異なる特性の両者が複合して動作するようになっている。 対してRealForceの場合は円錐状のスプリングの上にラバーが被せられており、両者の抵抗が一体となるようになっている。 ただ、形は違うが、動作自体は似たものだ。
パンタグラフ
パンタグラフはアクチュエータとしての機能に乏しく、どちらかといえば支持機構である。
ラップトップの薄型キーボードなどで使われ、ストロークの少ないラバードームを採用することによる感触の悪さを、支持機構を追加することで安定させて成立させているものだ。
そもそもショートストロークラバードームというもの自体が割と可能性を秘めているもので、慣れもあるが、それを別としても好む人は多いため、「上質なパンタグラフキーボード」というジャンルもマイナーではあるが存在している。
私が知る限り、パンタグラフは常にラバードームと組み合わせられている。
スプリング
スプリングは原始的だが、もっとも理想的な抵抗と反発を発生させる装置だ。
ほとんどの場合、スプリングは補助的な機構として用いられるか、他の機構で補助的に用いられる。 メカニカルスイッチも大抵の場合はスプリングで反発を生じている。
稀な例では、座屈バネ方式をとるキーボードがあり、このタイプのキーボードはバネだけに頼る構造をしている。 ただし、その名前の通りバネをまっすぐ縮めるものではない。
スプリング自体を重視することはあまりないが、スプリングを用いているキーボードはそれなりに凝った、高級なキーボードであると考えて良い。 (ただし、スプリングに言及されることはほとんどない。)
ただ、スプリングが入っていると注意したいのが、反響音がしやすいということだ。 特に高級なキーボードでは底面に鉄板が入っているケースが多く、このようなキーボードは金属的な反響音がしやすい。 静音化がはかられているものは静かなので、スプリングを用いているからうるさいというわけではないのだが、逆に言えばスプリングと鉄板を用いていて、静音化を行っていないキーボードはかなりうるさいケースがある。
メカ
機械的な機構により動作を実現するもので、他の機構と比べると複雑度が高い。
メカニカルアクチュエータは大抵の場合、スライダーとスリーブで成り立っている。 この意味では「メンブレンキーボード」と呼ばれるジャンルにある、ラバードームとメンブレンシートを用いたキーボードであってもこのような構造を持っている
一般的に反発を生じさせるのはコイルスプリングだが、ラバースプリングが用いられるケースもある。 その意味で、ラバードームを用いたものと区別が難しいケース、スプリングによるものと区別が難しいケースがかなりある。
だが、実際に「メカニカルアクチュエータ」と呼ぶかどうかは、むしろ経緯に由来する。
まず、「メカニカルキーボード」というジャンルで、かなり複雑な機構を持ったメカニカルスイッチと呼ばれるものがある。このようなスイッチは動作機構にスイッチが組み込まれていて一体になっている。
この構造から接点部分を別のものに置き換えたキーは、メカニカルアクチュエータであるとみなされる。 それだけ「メカニカルキーボード」が一般的なものであるために、「メカニカルキーボードの亜種」とみなされるということだ。
キースイッチ
キースイッチは入力を検知するための機構である。
入力の感触には影響しないが、入力特性に影響を及ぼす。 例えば、オンとオフの位置が同じもの、異なるもの、可変のものなどが存在する。 また、入力時に2重に入力されてしまう「チャタリング」を発生しやすいかどうか、耐久性が高いかどうかといった差を発生させるのだ。 このため、シビアな入力を求められるゲーム用途などでは、キースイッチの構造は重要な意味を持ってくる。
メンブレン
メンブレンは2つの薄い接点を持つシートを用いたスイッチである。 両者の間にはスペーサーシートをはさみ、上側のシートが押されてスペーサーの分だけ沈むとシートが接触してスイッチが入る。
ほとんどの場合「メンブレンキーボード」といったら、ラバードームなどなんらかのアクチュエータを持っている。というのも、メンブレンスイッチだけだと、メンブレンシートの硬さだけが抵抗になるので感触が悪すぎるからだ。
ただ、現代ではタッチパネルのようなタッチフィードバックのない構造に慣れている人が多いから、ひょっとしたらメンブレンシートだけで成り立っているキーも案外押せる人が多いのかもしれない。
一般的にメンブレンシートの素材はポリエチレンテレフタレート(PET)である。
利点は安いこと、欠点は精度が高くないことだ。 文字入力用のキーボードとしては別に困るようなことでもないが。
あとは、メンブレンシートの耐久性がそんなにないというのもある。
金属接点
金属接点はそのまま、金属製の電極が接触することで動作するもので、世の中で「スイッチ」と呼ばれる一番一般的な形式だ。
原理は極めて単純だが、キーボードとして機能させるためには工夫が必要になる。 メカニカルスイッチと呼ばれるものも金属接点だが、より複雑な機構の中に組み込まれている。
複雑な機構の中に組み込むメリットとして、接触するときと離れるときの動作を細かくチューニングできるということがある。 欠点は割と繊細な構造であるということだ。
静電容量
接点が接近することによる静電容量変化を読み取り、静電容量が閾値を越えた場合にスイッチをオンにする構造のもの。
静電容量を用いることにはふたつの大きなメリットがある。
ひとつは、接点が接触しないため、摩耗しづらいということだ。 酸化するといった問題は考えられるが、それでも接触する構造よりはずっと耐久性がある。
もうひとつは、静電容量は接点が近づくにつれて変化していくものなので、スイッチが入る地点を可変にしやすい。 簡単にスイッチが入る地点と切れる地点を異なる閾値に設定できることから、比較的単純な機構でチャタリングを発生させづらい設定にすることもできる。
静電容量計測は接触を伴わないため、タッチには全く影響しない。
光学式
キーストロークによって光が遮られる、あるいは遮られなくなることによりスイッチが入る方式。
極めて単純な原理だが、一般化したのは結構最近のこと。
物理接触なしにスイッチ操作が可能なこと、消耗に非常に強いこと、反応が(もともと人間に知覚できるようなものではないが)極めて速いことなどがメリット。
光学計測は接触を伴わないため、タッチには全く影響しない。
可変スイッチにはあまり向いていない構造だと思うが、輝度センサーを用いて可変にする仕組みが確立されている。
磁気式
磁気式のスイッチは、磁石と磁気センサーを用いて、磁力の変化が閾値を越えたらスイッチを入れる構造のスイッチだ。 その仕組み自体は、静電容量を用いるのと良く似ている。
磁気式のスイッチが最近注目されるのは、ホール効果(ホールエフェクト)を用いたセンサーが一般化してきたことに伴うものだ。 ホール効果は東京大学の資料がわかりやすいが、その仕組みは相当難しい。
ホール効果を用いるセンサーは磁気センサーだが、単純な磁力測定のセンサーではない。 そしてホール素子が発生させるのは電流磁気である。
ホールセンサーは従来のセンサーと比べ高精度の測定が可能なため、より優れたセンシングを実現するスイッチとして注目されている。 といっても、単純にオンオフするだけならばそんな精度は必要ないため、主にゲーム用途でハイレベルなコントロールを実現するために用いられている。
キーボードの形状
まず、基本となる配列に様々なものがある。 日本ではJIS配列と呼ばれるものが一般的だが、日本語キーボードの配列として唯一というわけではない。 有名どころだと、親指シフトというJISとは異なる配列のキーボードがある。
この配列は、キーの数や形状、そしてどこになんのキーがあるかといったことに大きな影響を与える。
配列や細かなキー配置の違いを別として、おおよそ含まれているキーによって「サイズ」で分類することもある。
まず、テンキーまで含めたすべてのキーが含まれているのが「100%キーボード」である。 この100%にWindows(Super)キーやメニューキー、Fnキーなどはあったりなかったりするが、いずれも100%と呼ばれる。 なお、アプリケーションキーなど追加のキーを持つものは110%キーボードと呼ばれるケースがある。
ここからテンキーを除いたものが80%キーボードである。 これはテンキーレス(TKL)と呼ばれる場合もある。
さらにもう1セクション、カーソルキーやHome, PgUp, F1といったキーを取り除いたのが60%キーボード。
ここからめりこむようにカーソルキーやPgUpなどのキーを加えたのが65%キーボード。 依然としてF1キーなどはなく、形状は60%キーボードに近い。
60%から上段、つまり数字などのキーをなくしたのが40%キーボードである。
一般的なキーボードは100%と80%キーボードである。 60%キーボードはゲームでは使わないキーをなくしているが、カーソルキーすらないため普段遣いは結構しんどい。
65%キーボードは60%のコンパクトさを持ちつつ、よく使うカーソルキーなどを追加して実用的にしたものだ。 ただ、個人的には変換やショートカットなどでFキーは非常に多様するため、65%もしんどいけれど。
40%キーボードは日常的な入力に組み合わせ入力が必要になる。 ホームポジションから一切動かさずに入力できることを目指したもので、基本的にはカスタムキーボード、自作キーボードの世界で使われるワードだ。
エルゴノミックキーボードはキーを右手のエリアと左手のエリアに分け、それぞれを傾けたものだ。 これは、ホームポジションを維持したタッチタイピングを行うことを前提としている。
それよりさらに進み、左手と右手を分離したのが分割キーボード。 分割キーボードも自作キーボードの世界のアイテムだが、市販されているものもある。
押下圧とタッチフィール
アクチュエータは抵抗を持っているため、キーを入力するにはある程度の力でキーを押す必要がある。
キーが入力されるために必要な力をアクチュエーションフォースという。 単位は一般的にgf(グラムフォース)かcN(センチニュートン)。ただし、gfは慣例的にgで表記される。
表記がgとcNで揺れているケースがあるが、両者はかなり近いが異なる値となる単位である。 そして、gとcNで揺れているのは「みんなそこらへんハッキリしてないだけ」ということが多い。そこにこだわるほど工学的に精度が出てないということもある。 一応言うなら、cN相当の値をgfとして表記するよりは、gf相当の値をcNで表記しているケースのほうが多い。つまり、より一般的なのはgfなのだが、SI(国際単位系)にしましょうというのが世の中の流れなので、cNと書いてるだけということだ。
さて、アクチュエーションフォースがどれくらいかというのは簡単に表記できることだが、そこには特性がある。 0.1mm動くのにも45gf必要で、そのまま45gfでスイッチが入るのと、荷重に対してストロークがリニアで、その途中45gfの地点でスイッチが入るのでは全然感触が違う。
アクチュエーションポイント付近が重く、アクチュエーションポイントの先が軽くなっている(つまり、スイッチが入るとスコンと落ちる感じがする)ものを「クリッキー」と呼ぶ。 その程度が軽いものは「タクタイル」と呼ぶ。
そして、こうした特徴を持たないものを「リニア」と呼ぶ。 リニアはストロークに対して荷重が線形であるとは限らない。
種別とは別に、そもそも「スイッチが入るところにある抵抗感」を「タクタイル感」と呼ぶ。 タクタイル感が重視されるのは、「入力できた」ことに対する触覚上のフィードバックになるからだ。
ならタクタイル感は絶対あったほうがいいのかというと、タクタイル感は「入力に抵抗を受けている」感覚になるものであるため、入力を荷重で感じているタイプの人は必要ないと考えることもある。 また、タクタイル感が強いと勢いで底までタイプしてしまうことが多く、底付きのショックを嫌う人はリニアのものを使い、最小限の荷重でタイプするという人もいる。
展示場とデスクで感触が違う?
ところで店頭で試し打ちしたときは良かったのに、買って帰ったらなんか違ったという経験はないだろうか。
これは、入力の感触が体との位置関係に強く影響していることによる。 高い位置から打つとキーは軽く感じるし、低い位置から打つと重く感じる。
だから、高い位置に置かれた状態で試すと重いキーだと感じるし、低い位置に置かれた状態で試すと軽いキーだと感じる。
そしてこれはちょっとした違いでもかなり感じるので、自宅のデスクでもチェアを昇降させることで全く違った感触になるはずだ。
このため、キーボードを試すときは適切な高さに置いて試したほうがいいし、買う前に狙ったフィーリングを確認するときもまずはチェアの上げ下げで最適なポジションを確認したほうが良い。
角度の問題
高さだけでなくキーボードの角度も影響する。
まず、普通にタイピングすると指は直線上に動くのではなく、弧を描くように動く。 この力の方向とキーのストローク方向が異なっていると、斜めに力が入ることになるから重く感じられる。
これはキーボードを大きく傾けたときに影響してくる。 傾斜をつけられるデスクやボードを用いてキーボードを傾けることで、一見すると後傾姿勢などに合わせても通常と変わりないタイピングが得られそうな気がする。
だが、後傾姿勢にしても腕が大きく上を向くような姿勢には普通しないため、指の動きとあまり一致しない傾向にある。 仮に動きが一致しても、傾ける分だけ指が滑り落ちるような動きをするため、力が入りにくい。
体重の問題
前傾姿勢で作業している場合、要は肩が入った姿勢で作業している場合は指に腕の重さがのしかかるように勢いがつき、力も入りやすくなる。 このため、タイピングする指は強くなり、キーは軽く感じられる。
キーストロークとぶれ
概念的にはキーボードはある特定の方向にしかストロークしないが、実際にはそのストローク方向に力がかかるとは限らない。
ストローク方向と力の方向が異なっていると、キーが重く感じるだけでなく、スムーズにストロークしないように感じられて感触が悪くなる。
特に大きいキーの場合は軸から離れた場所を押すことにより、うまくストロークせずにタイピングしづらいということも良く発生する。
一般的なメンブレンキーボードでよくある対策はスライダーとスリーブを用いた構造にすることである。 これにより軸そのものが太くなるから、キーが傾いてしまうことが減るし、スリーブによってストローク方向がガイドされることから、力の無駄が発生してもストローク自体はちゃんとストローク方向に行われるようになる。
Cherry MXタイプのメカニカルキーでは軸が割と細く、接続も弱いため、キートップはやや傾きやすい。 しかしメカ自体はそれなりに太さがあって遊びも少ないので、ストロークのブレは少ない。
メカニカルキーボードの場合、こうした問題の解消にはスタビライザーを用いるのが一般的。
スタビライザーは単にバーによって片側が浮くような動きを抑制するものが良くあるが、それ以外にも抵抗の(ほとんど)ない軸を追加するものや、可動の軸に連結するものなどもある。 ちなみに、大型のキーには押し返し用のスプリングが仕込まれることもある。
正直、大型のキーにスタビライザーがないものは、とても打てたものではないくらいの感触である場合が多い。 しかし、極太の軸を採用しているものに関しては案外大丈夫だったりもする。
こうしたタイピングフィールに関しては、キートップの影響も多い。 一般的にキートップは真ん中がくぼんだ形をしているが、これはキーの位置関係をわかりやすくするためではなく、自然とくぼみに指が落ちることでキーの端を押してしまうことを防ぐようになっている。
EDGE201キーボードは平板で大きなキートップを採用していたのだが、驚くほど打ちづらかった。 逆にUltra Classicキーボードは極端にキートップの天面が薄く、しかもくぼみも強いようになっているが、こちらはタイピングフィールはいいが、指がかかりにくいのでそれはそれで打ちづらい。
キーボードを傾けていると、より捻るような力をかける機会が増えるため、ストロークがスムーズにできる構造になっているかという影響は大きい。
勢いの問題
勢い良く物体が落下してキーに当たった場合、その荷重に応じてキーはストロークし、物体は減速する。 アクチュエーションフォースは静荷重だが、実際のキータイピングは動荷重である。
キーに指を乗せた状態でスタートした場合、キーストロークは「指の力の大きさ」で決まるが、実際は異なるキーを押しているところから指が動いてくるため、指の勢いは無視できない。
基本的に指を高く上げてタイピングする人のほうが影響は大きい。 私は手全体を動かしながらタイピングするため、影響は非常に大きい。
指自体も可動のものなので、キーを押すとき抵抗によって指が持ち上がる力が働く。 指に力を入れていればこの力に抵抗し、指は形を保とうとするが、力が入っていなければキーのストロークと指の動きが相殺される形になる。
重いキーを入力しようとすると、ある程度キーの反発に負けないよう指に力を入れてタイピングする必要がある。
逆にキーボードを滑るようにタイピングする場合は、キーが軽ければ指に力を入れなくて済むということになる。
リニアの場合は押す力だけでなく、指の勢いまで含めていい感じにストロークするように狙っていくことも可能。
ただ、近年はキーストロークが短いキーボードが多いこともあって、指には力を入れずにフェザータッチでタイピングしていくことが増えている。 実際、私も以前はピアノを叩くようにタイピングしていたのだが、最近はキーを押すようにタイピングすることが増えている。
このタイピングスタイルの変化は好ましいキーの重さだけでなく、反発の強さにも影響する。
富士通コンポーネント
富士通コンポーネントはその名のごとく、富士通の製品の部品を作る会社であった。 この一部として入出力機器の製造があり、その中でもキーボードは富士通のユーザー以外にも広く知られていた。
富士通コンポーネント自体はその前身も1995年の創立と意外と新しいが、歴史的に富士通は入力にはこだわってきた。 そのこだわりの一端が、独自の入力方式である「親指シフト」であるが、まぁとにかく、実際にそれが良いかどうかはともかくとして、こだわりがある、思想強めな会社だったのは確かだ。
その富士通コンポーネントが作るキーボードは、まぁなにかとクセつよである。
Libertouchはその最たるものだろう。 非常に凝った構造で、登場した2007年には高級キーボードといえばメカニカルキーボードという空気が出来上がっていた。 そこに投入する、市場に響かない「メンブレンキーボード」。しかも凝った形状で高い。
だがまぁ、Libertouchはそれでも「知る人ぞ知る」という感じで人気のあるほうだ。 もっとやばいやつもある。例えばFKB8769/8811だ。
FKB8769/8811の構造は、スリーブとスライダー、さらにキーインナーがあってキーキャップを被せるという構造。めちゃくちゃ凝っている。 キーにものすごい剛性感があり、ブレは一切許さないというような構造だが、アクチュエータは普通にラバードーム。そして割と高い。
打ち心地は良いが、フィーリング自体は安物のメンブレンキーボードと変わらない。それでいて8000円とかする。FKB8811に関してはテンキーつきでありながらコンパクトという特徴があったけど、FKB8769は本当に誰が手にするのかという代物だった。 ちなみに、個人的には「しっかりしたうち心地」ではあるけど、なんともガッキョンガッキョンする感じだったので好みではない。
まぁとにかく、富士通コンポーネントはダイヤテック並にキーボード界ではなくてはならない存在だった。
しかし、FCLコンポーネントに変わったあたりからキーボード製品はどんどん縮小、現在ではほとんどキーボードを取り扱っていない。 LibertouchやFKB8811のような、変態的こだわりをもったキーボードはもはや手に入らないのだ。
Unicomp
Unicompはアメリカのキーボードメーカー。 LexmarkとIBMの元メンバーから構成されたUnicompは、座屈スプリング方式のキーボードの金型や設計権を購入し、以来そうしたキーボードを売り続けている。
そう、古代のIBMのキーボードが今でも買えるのである。
が、「本当に今でも買えるのか?」になりつつある。
というのも、まず以前はダイヤテックがUnicompキーボードを扱っており、この関係でUnicompキーボードの日本語配列モデルが(Ultra Classicだけだけど)存在していた。 しかし、現在はダイヤテックの取り扱いがなく、日本語配列モデルは入手できなくなっている。
そして、Unicompのほうでも多くのモデルの写真がなくなっており、ちょっと怪しい運営状態になっている。 New Model Mに一本化しようとしているのかもしれないが。
一時期キーボード業界はCherry MXスイッチと少数の互換スイッチ、あとは東プレの静電容量無接点のキーくらいしかなかったことがある。 その時期と比べれば現在は多種多様になったとは言えるものの、その機構は従来からメカニカルと呼ばれているものに準じるものがほとんどで、特殊な機構を備えたキーボードは本当になくなってしまっている。
そうした意味で、Unicompは希少な、「異なる構造を持った」キーボードである。 今やUS配列モデルを輸入することしかできないが、US配列を厭わない人は試してみても良いのではないだろうか。
そして後編へ続く
メイン環境が仕上がった今、メイン環境における最後の課題がキーボードである。
軽い後傾姿勢で作業できるデスクやディスプレイは用意できた。 だが、この後傾姿勢で最高のタイピングが実現できていない。
暫定的にHUNTSMAN TEを使っており、おおよそ機能的な不満はないが、タイピングがちゃちで気持ちよくタイプできない。
RealForce(45g)もLibertouch(45g)もHUNTSMAN V2(Linear)も、この環境だとちょっと重い。普通に打つことはできるが、肩が凝る。
Ultra Clasicも悪くはないのだが、Superキーがないというのがとても不便。 また、基本的にはワークルームの環境では軽いキーボードが望ましい。
そうして悩み抜いた末、新たなるキーボードの導入を決意した。 そのキーボードとは――――