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商用フォントベースのフォントが一般化 最新の「デフォルトフォント」事情

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和文フォントの世界の事情というのはここ20年ほどで大きく変わったのだけれど、一般には2007年以降、つまりWindowsにはメイリオが搭載され、Macにはヒラギノが搭載された時代以降のことは知らない、という人が多いらしいということを知った。

それはいくらなんでももったいないし、ましてウェブデザインを行う人であれば知らないようではスタート地点に立てていない。

せっかくデフォルトでインストールされているフォントなので活用したいところであるし、より美しい書体がフリーであるならばその利用も視野に入ってくるだろう。

ここではCSSを書く人、ウェブデザインをする人、そして美的感覚のある一般ユーザーまで役に立つ「デフォルトフォントとフリーフォント」の話をしよう。

大きなポイントは次の2点だ

  • システムデフォルトとして新しい商用フォントが搭載されている
  • 商用フォントをベースにした、あるいは商用フォントと同じ体制で制作されたフォントがフリーなライセンスでリリースされている

商用/商用ベースのフォントたち

游フォント

游フォントは字游工房によって制作された書体である。 ヒラギノも制作している字游工房は、制作者という印象が強いが、このフォントファミリーは字游工房自身が販売している。

なお、これについて話は意外と難しい。

まず、現在游フォントは游ゴシック体, 游明朝体ともにWindows 10, Mac OS X 10.15 Catalina共にデフォルトでインストールされている。 この両OEM版は少し違いがある。さらに、OEM版とリテール版との間でも違いがある。つまり、同名のフォントについてバージョン違いではなく、3種類存在している。

しかもフォントファミリー名が両OEM版の間で英語名のスペースの有無という点で異なっている。

フォントファミリー名に関しては非常に複雑であり、スペースの有無という違いがあるだけでなく、ウェイトによってフォントファミリー名の和名游ゴシックと英名Yu Gothicのいずれを持つかが異なり、ウェイトをまたいだ指定ができない上、同一に見えるフォント名を和名で指定するか英名で指定するかでウェイトが違ってしまう。以下はWindows 10のBashにおいてfc-list | grep -F -e "游ゴシック" -e "Yu Gothic"した結果である。

C:/WINDOWS/fonts/YuGothB.ttc: Yu Gothic UI,Yu Gothic UI Semibold:style=Semibold,Regular
C:/WINDOWS/fonts/YuGothR.ttc: Yu Gothic:style=Regular
C:/WINDOWS/fonts/YuGothM.ttc: Yu Gothic UI:style=Regular
C:/WINDOWS/fonts/YuGothR.ttc: Yu Gothic UI,Yu Gothic UI Semilight:style=Semilight,Regular
C:/WINDOWS/fonts/YuGothB.ttc: Yu Gothic:style=Bold
C:/WINDOWS/fonts/YuGothM.ttc: 游ゴシック,Yu Gothic Medium:style=Medium,Regular
C:/WINDOWS/fonts/YuGothB.ttc: Yu Gothic UI:style=Bold
C:/WINDOWS/fonts/YuGothL.ttc: Yu Gothic UI,Yu Gothic UI Light:style=Light,Regular
C:/WINDOWS/fonts/YuGothL.ttc: 游ゴシック,Yu Gothic Light:style=Light,Regular

また、MacにおいてはMarvericsから採用されたものの、Sierraではダウンロードフォント行き。 しかしHigh Sierraでは標準フォントに復活し、逆にヒラギノフォントがレガシー落ちとなった。

本題に戻ろう。 游フォントファミリーは伝統的・古典的なデザインを持つフォントファミリーで、游ゴシック体は角ゴシック体、游明朝体は本明朝である。 ただし、小がなで、可読性もやや高いデザインを採用しているほか、スクリーンフォント向けのデザインでありながらスペーシングは行間・文字間ともに非常に広く、なおかつ長体であるという特徴がある。

つまり、グリフデザインこそクラシカルだが、それ以外の点では非常にモダンな書体だ。

CSSで指定する場合は、ウェイトと互換性を鑑みて"Yu Gothic", "YuGothic", "游ゴシック"と指定することになる。

Pr6相当のフォントファミリーで、Windowsの他の和文フォントと比べ断然文字が出る可能性は高い。

源ノ角ゴシック, 源ノ明朝

AdobeとGoogleの共同プロジェクトで、Androidデバイスの新しい標準フォントとして開発されたフォント。

各国のローカライズされたフォントファミリーがあり、“Source Han Sans CJK”というのが東アジアのフルセット版だ。 “Source Han Sans JP”は韓国語、中国語のグリフを含まない日本語版になる。

Google側でも同一のフォントをリリースしており、“Noto Sans”がその名前である。 Noto SansはCJKフルセット版はないようで、日本語版は”Noto Sans CJK JP”になる。

ちなみに、Noto font familyがAdobeとの共同プロジェクトというわけではなくて、Noto font familyはGoogleがUnicode完全対応のフォントを作ろうというNoto projectの一環であり、 その中のPan CJKについてGoogleがAdobeに相談したという流れである。

源ノ角ゴシック開発に関するAdobeのインタビュー記事はどれも非常に面白い。例えばCnetの記事, ASCIIの記事など。

Noto projectとしては基本的な西ヨーロッパ言語のNoto Sansというフォントファミリーもあるものの、Source Han Sans JPの英字グリフはAdobeが元々持っているSource Sans Proである。 つまりAdobeから見ればGoogleのNoto projectがSource Sansのm17nのキッカケになったということになるだろう。ただ、Noto font familyと違い、Adobe側は西ヨーロッパ言語とCJKのフォントしかない。

SourceフォントファミリーはAdobeの初めてのフリーフォントであり、SIL Open Licenseになっている。

いずれにせよ、Adobeの西塚涼子さんを中心として、イワタ、サイノタイプ、サンドル、アーフィックが強力する形で生み出されたSourceフォントファミリーの拡張版である。 Adobeはデジタルフォントの世界では初期から中核的な存在であったので、世界最高峰のメンバーによって作られたフォントと言っても過言ではない。

字形はトラディショナル寄り。行間は広く、文字間はやや狭い。気持ち小がな。

コーディング用フォントのSource Code ProをベースにしたCJKデュアルスペースフォント「源ノ角CodeJP」(Source Han Code JP)フォントファミリーも存在する。 CJK Type Blogにインサイダー記事があるが、欧文が2/3幅になっているのが特徴的。 比較的詰める傾向があるものスペースフォントにあって、かなり広々とした感じのデザインになっている。

Windowsユーザーのみ、スペーシングを詰めたUI版も利用可能。

Windows, Macのユーザーを含めて、高品位なフォントが選択できる環境であっても、ドキュメントのフォントとしてあえて採用する人も多い、「商用フォント群と比較してもなお光る」フォントとして人気がある。

非常に高いクオリティで、なおかつSIL Open Licenseであるため、これらのフォントをベースにしたフリーフォントも高品位なものが揃っている。

小杉ゴシック

小杉ゴシックはAndroid 4/5用として、Googleがモトヤから提供を受けていたモトヤLシーダ W3等幅及びモトヤLマルベリ W3等幅のフォーク。 元フォントのライセンスはApache License 2。

小杉ゴシック, 小杉丸ゴシックとしてリネームされてGoogle Fontsで公開されているが、フォントファミリー名は変わっていない。

もちろん、モトヤが自身の商用フォントをベースに調整したものであり、そのクオリティは極めて高い。

シーダはフトコロのとても広いモダンなデザインで、角ゴシックでありながら丸みを感じる。 ウェイトが上がると角ばった印象になるが、W3だと若干丸い。 マルベリは非常に美しい丸ゴシック。シーダを丸っこくした感じで、高品位なフリーの丸ゴシックは他にない。 (改変丸ゴシックは本当に丸くするところまで行くのは大変なので、なかなかない)

スペーシングは行間方向に広く、文字間はつまり気味。源ノ角ゴシックと似たスペーシング。

その名前通りのデュアルスペースフォントである。ただ、英字デザインはコーディングに使えるようなものではない。

Androidで採用されていたので目にしたことがある人は多いだろうが、「モトヤフォントが使える」という事実を知らない人が多い。

なお、「小杉ゴシック」という名前は、恐らくシーダが「杉のようなフォント」をイメージして、cedar(杉)という名前をつけたからではないだろうか。

IPAフォント

IPAフォントは日本語文書のためにIPAが制作したフォントである。 納入元はタイプバンクで、TB明朝及びTBゴシックがベース。

初めて登場したのは2004年で、ここではソフトウェア同梱のみの配布。単体版は2007年に登場し、2009年にはまた異なるライセンスのものが登場したが、いずれも「SIL Open Licenseがあるのに」という批判もあり、またライセンスの自由度があまり高くないことに対しても批判がある。

日本語文書のために日本の行政機関が作ったものであるから、特に公的機関においては配布文書にはこれを適用すべきだろう。 それ以外にも文書においては広く使用すべきケースが存在する。

実効的な意味では必要性を疑問視されても仕方ないが、MSフォントファミリーはあくまでもMicrosoftのものであるし、「日本語の文字集合を十分に表示できる、誰でも自由に使うことのできるフォントがない」という事態は潜在的に極めて重大な問題に至る可能性があるため、「公的で自由で網羅的なフォント」というのは存在していなければならないのである。

デザインはTBフォントベースなので、トラディショナルで直線的。Windowsで描画するとクリアタイプとの相性なのか、横線が補足描画されてかなり汚い。 また、文字を表示するための十分なドットがない場合も割と汚くなる傾向にある。 デザイン自体は綺麗なので、印刷したり、4kディスプレイで文字サイズ上げたりするとその価値を見直すことになるかもしれない。 スペーシングはMSフォントファミリーよりは少し余裕があるものの、行間・文字間とも非常に詰まっている。TBフォントファミリーもその傾向であることや、MSフォントファミリーがスペーシングが狭いことを踏まえてのものかもしれないし、登場した時代はまだ普通にXGAとかの時代でスクリーンフォントを広くする傾向は出ていなかった。 ただ、「プロポーショナルフォントについては半角のラテン文字が全角並みに広い」というのはひとつの特徴。

Linuxユーザーの間ではファンがいるものの、一般的にはあまり知られてもいないし、したがって人気もないという状況。 TBゴシックの人気もあまりないので仕方ないかもしれない。

文字の収録数はかなり多く、IV対応版の明朝も出ている。プロポーショナルとデュアルスペースの2種類があるのも特徴的。

BIZ UDフォント

モリサワが開発したUDフォント。 しばらく前からモリサワはMORISAWA BIZで無料利用可能としていたが、Windowsの2018 Octのアップデートでついにデフォルト入り。 これに伴って「UDデジタル教科書体」を含めたモリサワの5書体(デュアルスペースとプロポーショナル)がついにWindows入りとなった。

あまり知られていないが、モリサワの非常に高品位なUDフォントが標準で使える、という事実は知っておくべきである。 なんといっても可読性に優れており、デザインも美しく機能的である。 CSSでフォントについてユーザーの自由を認めることなく強制すべきであるという思想の持ち主であれば、まず指定すべきは多くの人にとって読みやすいであろうこのフォントなのではないだろうか。

もちろん、あなた自身が文書を読み書きする場合でも、このUDフォントを使用することで負担から解放されるかもしれない。

デザインはシンプル化され、ディティールをわかりやすくしたクラシカルなもの。UD角ゴシックとUD本明朝である。 TBUDフォントがベースで、スペーシングはかなり狭め。

明朝に関しては世の中にある非UDな明朝と比べても格段に読みやすいが、英字部分は若干くどい。 ゴシックについてはモダンさや美しさに関しては游明朝体に譲る部分もあるものの、実際に長文として表示するととても読みやすい。 あまり知られていないのが残念である。

ヒラギノフォント

Mac OS Xの標準日本語フォントとして長く採用されてきたのがヒラギノフォント。 制作は字游工房で、SCREENグラフィックソリューションズ(当時の大日本スクリーン製造)からリリースされている。

和文書体は写植からグリフを引き継いでいるものが多く、「新しいデザインの書体」というのは結構珍しい。 そんな中、ヒラギノは1990年に「既存書体に類似しない書体」を目指して開発されたもので、ゴシック、明朝ともにモダンなデザインをしている。

フトコロは気持ち広め。ゴシックは線の両端にアクセントがあり、流れるような線の配置が特徴的。「い」の右側が短いというあたりに特徴が出ている。 「新しいけれどクセはない」「美しくて読みやすい」という書体で、組むとどことなく明るい印象を与える。

Mac OS Xに搭載されたこともあり、「モリサワでフォントを買うよりもMacのほうが安い」と話題になったりした。

Mac OS X High Sierra以降、レガシーフォント行きになっているが、游フォントファミリーとはデザインの方向性がまるで違うので好みの問題もありやや難しい。 ちなみに、Mac OS Xに搭載されているのと同じ、「ヒラギノ基本6書体セット」はAmazonでダウンロード版36,850円で販売されている。パッケージ版のほうは5万円くらい。 モリサワパスポートにも入っているけれど、こちらは素人が使うような金額ではない(年間54,780円)。

Macでもヒラギノはいずれ廃止になる可能性が高いが、美しいフォントである。 ラインナップは角ゴシック、丸ゴシック、明朝体、中国語、かな、行書体、欧文。Macに搭載されているのは角ゴシック、丸ゴシック、明朝体、欧文で、欧文は現在も標準収録。

スペーシングは文字間、行間ともに広め。 そして小がなである。

そんなに新しいフォントというわけでもないのに、新規にデザインしたためにモダンである上に読みやすく、美しく、 しかもUDフォントまで追加されていて結構隙がない。だが、純粋に商用フォントになってしまうとステージが変わってしまうので難しいところである。

その他システムデフォルト

MSフォント

リコーが制作したフォント。HG(P)ゴシックB, HG(P)明朝Lとして同等品の販売もしている

10, 12, 13, 14, 16, 18, 20pxに埋め込みビットマップがあり、7, 8pxにもかなのみ埋め込みビットマップを持っている。

古くからWindowsに標準搭載されてきたことで、なんだか当然に入っているフォントのような扱いを受けていたり、特別優れているかのような扱いを受けていたりするけれど、 「Windowsで最初に採用された和文フォント」という以上の意味は見出しにくい。

デザインは当然ながらトラディショナル。明朝体のほうは本明朝。

ビットマップグリフとWindowsのレンダラのせいで「すごく汚いフォント」みたいな印象を持っている人も置いのだが、グリフ自体は整っていてなかなか綺麗なフォントだったりする。 埋め込みビットマップを避ける方法がないので、24pxなどサイズを大きくしたり、印刷すると綺麗に感じられるようになる。 WindowsではClearTypeのレンダラによる調整も入っているので(DirectWriteなアプリなら)割と綺麗に出る。このせいで「印刷すると印象が違いすぎて同じフォントに見えない」という問題があったりする。

文字としては最低限整っているかどうかという問題がある中で、整った字形をしていることから「意外と美しいフォント」に入るが、 デザイン的な面で言えば近年より改良が進んだフォントは珍しくなく、特に可読性という点ではスクリーンでの可読性を「ビットマップグリフを入れる」以上には考えていないフォントであるためにやや読みづらい。

スペーシングは超つめつめ。ちなみに、MS UIゴシックというさらに詰め詰めなフォントもある。 デュアルスペースとプロポーショナル版がある。

Windows以外のユーザーの場合、フォントが18000円で、商用利用には追加17000円なので1台1書体35000円という屈指の高級フォントである。 商用利用のライセンスは今現在に至っても分離している例は結構珍しい。

Osaka

日本語部分はダイナフォントの「平成角ゴシック」。 平成角ゴシックはMac OS 9までMacに搭載されていた日本語フォントである。 また、年賀状ソフトによく同梱されていたフォントでもある。

フォントの方向性はMS Pゴシックに非常に近く、素人目には比較してもデザイン的な違いはわからないかもしれない。 特徴としては曲線部分のラウンドが弱く、直線的なフォントであるというところにある。 また、MS Pゴシックが欧文が非常にシンプルな線でできているのに対し、平成角ゴシックの欧文はデザイン的な要素が強く方向性が違う。 MS Pゴシックはグロテスクで、平成角ゴシックはヒューマニストサンセリフ…というか、もっとローマン寄りである。 しかしOsakaは欧文にネオグロテスクのGenevaを採用しているので、この差異もなくて、識別はだいぶ難しい。

スペーシングは文字間はMSフォントよりも少し広いが、行間は完全に詰めてある。欧文に関しては平成角ゴシックでは文字間も限界まで詰めてあるが、Osakaではもうちょっと普通に詰めている。

Macでは現在も利用可能なフォントである。

メイリオ

Windows Vistaで採用されたフォント。

ディスプレイのドット数が増えたので、スクリーンフォントとしても可読性が高いのはビットマップフォントではない、ということで、時代に合わせて変化したフォントといえる。

当時は読みやすいスクリーンフォントのトレンドはフトコロの広いフォント(やや丸いフォント)であったこともあり、フトコロの広いフォントデザインになっている。

欧文はヒューマニストサンセリフのVerdanaを再構築したもので、Verdanaに和文を追加するような形でデザインされたらしい。 新しいデザインを求めたフォントで、これを手がけた鈴木竹治さんがディレクターを務めるType C4では「ゴシックでも明朝でもないフォント」を掲げていることからも感じられるように、「新しいデザインのフォント」である。

ボックスを広く使うことでフトコロを広げると同時に、曲線の曲率を下げてつぶれにくくしている。 横組専用フォントであることも特徴的で、字形を単純化し、ユニバーサルデザイン的要素も取り入れている。

ただ、WindowsだとClearType向けに調整しているにも関わらず、ややかすれたように表示されてしまうことがある上に、 メイリオに限らずType C4のフォント全般で、ユニバーサルデザイン的要素を取り入れているはずなのに「読みづらい」という意見を結構聞く。 かくいう私も「ちょっと見づらい」と感じている。 メイリオが好きという人も多い一方で、メイリオが嫌いという人も多くて、だいぶ好みの分かれるフォントである。

システムフォントとしてはWindows 7がメイリオ、Windows 8がMeiryo UI、Widnows 10はYu Gothic UIである。 だが、依然として至るところにMS UI Gothicがいる。

スペーシングは文字間で狭く、行間は広い。MSフォントファミリーで行間の詰まったフォントに慣れていたWindowsユーザーで、はじめて行間の広いフォントに触れたという人が多く、戸惑った人も多いようだ。

基本的なトレンド

スペーシングが広くなった

スケーラブルフォントが出てきた頃というのは、画面のドット数は640x480で、みんなが親しんだWindowsとかの頃は1024x768の時代が非常に長かった。

この頃は画面が狭くて、画面に出せる文字数が少なかった。だから、詰め詰めに出さないと文字数が出なかったのだ。 画面自体が小さい携帯電話も当然文字の隙間なんかなかったし、ピクセル数も少なかった頃は文字間なんて1ピクセルあれば十分と考えられていた。

プロポーショナルフォントは「美しい」というのもあるし、イケてない等幅フォントだとiとかlとかがすっかすかだったりするが、それ以前にスクリーンフォントとしては「プロポーショナルフォントならより文字を詰められる」という事情のほうが大きかった。

しかし現在はディスプレイは十分に広く、1:1のドットでひとつのウィンドウを全画面にして使っている、という人はだいぶ少ない1

であれば表示空間に余裕があるため、詰め詰めでたくさんの文字を出すよりもゆとりある表示のほうが読みやすい。 こうしたことから、グリフのスペーシングは大きくなり、なおかつ余白が増える傾向にある。特に行間方向は前から広げる傾向があった。

現在はより読みやすさ優先で、文字間も余白が出るようになってきている。

ちなみに、古いフォントはスペーシングが狭いというのはあるのだが、あまり「スクリーンフォント」という意識のないモリサワなどの商用書体はもともとスペーシングが広い。 タイプバンクやダイナフォントの書体はスペーシング狭めのものが多い。

ちなみに、同様の理由で、スペーシング詰め詰めデザインのArialというのもスクリーンフォントとしては古い。 余裕があって読みやすいRobotoやOpenSansのようなフォントのほうが流行り。 ちなみに、こっちもネオグロテスク(Arial/Helvetica. 和文フォントなら丸ゴシック)よりもヒューマニストサンセリフのほうが流行りらしい。 Microsoftも今になってSegoe UI (スペーシングは詰め気味のヒューマニストサンセリフ。Microsoftロゴのフォントの亜種)を推してるし。

トレンドは丸ゴシックからユニバーサル角ゴシックへ

丸ゴシック…というか、フトコロを広くとった結果丸っこくなったフォントが流行ったのは同じスペーシングに対してグリフを広く取ることでグリフのディティールが書きやすくなり、読みやすいためだが、 ディスプレイの解像度が上がり、スケーリングを行うようになるとその必然性があまりなくなり、最近は丸ゴシックを目にする機会が減っている。

だが、物理的に小さいディティールは以前として読みづらいため、字形自体をシンプルにしつつ、情報を構成する要素は目立つようにするユニバーサルデザインフォントが台頭してきている。

ただ、その意図が明確なユニバーサルデザインフォントが当たり前になってきているということはなく、最近はWindowsにモリサワのUDフォントが搭載されたものの、 フリーフォント、デフォルトフォントともにUDフォントに置き換わる状況にはない。

ただ、フォントデザインが総じてUDフォント寄りになる傾向があり、UD角ゴシックのデザインが現在向かっている方向なのは確か。

デザイン自体は丸ゴシックや、(ヒラギノのような)モダンなデザインの字形よりも、伝統的・古典的なデザインの角ゴシックにUD要素を加えたものが現在の方向性。

「小がな」流行り

「小がな」というと、リョービの「本明朝」とモリサワの「リュウミン」くらいしかない話しになってしまうものの、実は「かなが漢字よりも小さい」というフォントはややトレンド。 明確に小さいわけではなく、気持ち小さいのだけど、漢字との間に抑揚がついて読みやすくなる。 漢字よりも単純な形をしているので、小さくてもディティールがつぶれにくいのもポイント。

游ゴシック体なども小がなになっていて、UDフォントも小がなのものが多い。

長体が流行ってる

スクリーンのドット数は随分増えたものの、ずっと「縦長になっていく」傾向があるのがスマホ。

スマホで文字を読むことが増えたこともあり、ウィンドウをタイルすることもあるので「ビューポートは縦長」というケースが増えている。

そうすると、「縦方向はたっぷり使えるけど、横方向はある程度詰めたい」という気持ちになったりする。 でも、単純に詰めてしまうと隙間がなくて読みづらい。

そこで流行っているのが長体。 日本語だと幅方向に情報量が多い文字が普通にあるのでそこまででもないけど、欧文だとめっちゃ流行ってる。

游ゴシック体/游明朝体は長体になっている。 今後和文フォントでも追従して長体が増えるのかは注目。

ウェイトはまちまち

「見やすいけど目が疲れる太め」「綺麗だけど見づらい細め」の間で割れているようで、標準ウェイトの太さはまちまち。

なお、游ゴシック体のウェイトは前述の通り指定の仕方で変わる。

フリーフォント界も商用フォントの波

以前はフリーフォントでも独自にデザインしたものが多かったものの、現在はSource Hanフォントの改変版が多く、元のフォントのクオリティが非常に高いためにフリーフォントのクオリティも顕著に向上している。

デザインそのものはそれが仕事でなくてもできるものだが、和文フォントの制作は途方もない労力が必要になるため、どうしても集中力的な事情も含めて「プロ集団」である必要があり、商用フォントのクオリティにはどうしても届かない。 Source Hanフォントの登場や、游ゴシックという新しいフォントのデフォルト採用は一般の人々に手が届く形でフォントが豊かになる形になっている。

もっとも、依然としてM+フォント(/VLゴシック/Migu)は好まれているし、「フリーフォントは劣っている」と一概に言うようなものではない。ただ、「商用フォントはさすがだな」という部分は否めないという話だ。

遠のく商用フォント

パッケージフォントの販売が減少し、基本的にはサブスクリプション制に移行しているため、一般の人が高品位な商用フォントを手にするのは難しくなってきた。 私も最後のダイナフォントパッケージを購入したが、もうダイナフォントは人々の手に届くものではなくなってしまった。

フリーフォントを中心に収録したようなフォントパッケージはあるが、大手メーカーのフォントはいささか入手しづらい。 インディーズメーカーのものは、クオリティが安定しなかったり、収録文字数が非常に少なかったりして実用的に厳しい。

デザインポケットなどで1書体単位で購入できるフォントもあるが、価格的に今までのパッケージ製品のように気軽に買える感じではない。 フォントが同梱されている製品というのも少なくなってきたので、ユーザーが「好きなフォントを選ぶ」というのがとても難しくなってきている。 (ちなみに、ヒラギノ基本6書体パックは、かなりお買い得な部類に入る)

Windowsのシステムフォントの変更ができなくなったというのも要素としてはある。

いずれにせよ、状況の改善に反して、ユーザーのフォント意識は必然的に低下する傾向にあるのだ。

依然として疎いスクリーンフォント

フォント全般の話をするとデザイン用、つまりはDTPなどを扱う人向けという色合いが強く、画面表示において適したフォントというのはかなり少ない。 スクリーン表示というのは特性的な様々な事情があり、デザイン性だけでは語れないのだが、現実問題としてスクリーンフォントとしての事情に対応したフォントというのはあまり作られていない。

前述のように、MSフォントファミリーやメイリオ、游フォントファミリーはスクリーンフォントとしての事情に対応した形のフォントになっている。 また、ヒラギノフォントは結果的にスクリーン上でも読みやすいフォントであった。(SCREENがそもそも写植屋ではなかったから、画面上で見ることに対する意識が強かったためと思われる)

スクリーンフォントは本ではありえないような長大な文章を一覧する可能性があり、文字に向き合っている時間も長い。 しかもレンダリングの問題もあり、フォントは理想的な状態で表示されない。

さらに言えば、デザインと違ってどんな文字を要求されるかわからないところでもあるので、収録文字数の多い「本文フォント」が要求される。

基本的にはUDフォントはその特性上、スクリーン上でも見やすい。特にイワタのUDフォントはスクリーン表示にもかなり気を配っているので大変見やすい。

スクリーン表示に最適化したフォントが少ないという状況はちょっと悲しいところである。 さらにいえば、スクリーン限定のライセンスで安く出してくれれば、エディタなどで読みやすいフォントを使うというニーズもあるのではないかと思ったりするのだが、現状では「スクリーンフォントとして使いやすいフォントを探す」というのは一苦労である。

コーディングフォント

昔は非常に単純な字形(すっごい小さいピクセルサイズでも識別できる)のターミナルフォントで、それ以降とか出版物ではタイプライター体(Courier)が使われてきた。

もう少しドットが書けるようになると、タイプライター体というか、要は「Serif系 monospace」が普通だったのだけど、人気のほうはというとターミナルフォントのほうが人気があったりした。 WindowsはスケーラブルフォントにはCourier New、ビットマップにはTerminalという形だったけれど、Macはターミナルフォント系のMonacoを使ってきた。

でも世の中のプログラマはセリフフォントをあまり好まなかったし、だんだんとターミナルフォントよりもサンセリフ系のモノスペースフォントが好まれるようになっていった。

そこでMicrosoftはConsolasを2007年に、AppleはMenloを2009年に投入している。 これはどちらも現在の基準で見ても非常に美しいsans-serif monospaceフォントである。

Appleは2019年にSF Monoを投入した。これは部分的に見ればターミナルフォントやセリフの性質を持つ情報量の多いタイプのフォントで、割と珍しいデザイン。 ただ、SF Monoを表現するのは非常に難しくて、「rやiやlとか一部の文字だけがタイプライターっぽくて、あとは純粋にサンセリフ」みたいなデザインになっている。 よく見るとちょっと奇妙だなと感じるものの、実際猛烈に見やすい。デザインはともかく、特徴的にはInput Monoに似ていると思う。

基本的には「ターミナルフォント派」(Monaco, Ubuntu Mono, mononoki, Sudoなど)、「セリフ派」(Courier)、「Fira Code派」(ちょっとセリフっぽい)、「サンセリフ派」(Consolas, Menlo, Input Mono, Roboto Monoなど)と分かれており、あまり「これがトレンド」みたいなものはないように思える。 ただ、より機能的なフォントを追求する傾向にはあり、「読みやすい」「把握しやすい」「識別しやすい」という観点から活発に開発されているようだ。