Chienomi

メッセージングアプリの話

製品・サービス::software

メッセージングアプリについてちゃんとした考察はMimir Yokohamaに掲載したが、それと授業用に選定した過程を踏まえて、本音で簡単にコメントしていきたいと思う。

念の為に言っておくと、本記事は客観的指標ではなく、純粋の私の価値観から判断したものである。

なお、プライベートユースを想定しているので、ミーティング系のものは触れない。

LINE

不快な広告、使いにくいUI、安定しない通知、信頼できないプライバシーとセキュリティなど、かなり「出来が悪い」に属する。 大部分、かつての「良かった点」が「悪い点」に化けているのは興味深い。

個人的にはプライバシーポリシーにも、個人情報保護法にも明らかに反した運用1と、非常に不快な広告という点が容認できず、利用をやめた。

良い点として、かつては短所とされた通話品質の低さが、かなり優れたものになっていることが挙げられる。 おそらくだが、現状で最も安定しており、音質も良いのではないだろうか。

個人的にはLINEをやめるのは良いことであると感じた。

焦点は普及率、つまり皆がLINEを使っていて、LINEを使っていることを前提にしているということだが、これはLINEを使わないことで気が進まない相手と連絡先交換をせずに済むし、店舗でLINE登録を求められても断りやすい、 LINEの交換はストレス要因になりやすいので、交友関係を厳選しやすくなるのは結構なメリット。連絡先交換で「Telegramならあるよ」と言って、それで断る相手に気を遣うのは嫌だから、それ自体が厳選としても機能する。

もうひとつの方法として、LINEを掃き溜めにするというのもある。 つまり、LINEは教えるだけ教えるが、実際に交流を持つ相手はLINEとはやりとりしないということだ。 ただし、LINEには電話番号を握られる以上、プライバシーに対する懸念はつきまとう。

Telegram

機能、UI、安定性なににおいても優れている。 極めて優れているため、botを使ったりすると簡単に超強力なアプリが作れる。 どこをとっても最高である。

アカウントは電話番号ベースだが、電話番号に紐付けたやりとりを強制されるわけではない。 電話番号の代わりにIDを使う(誰もがアクセスできるようになる)方法と、QRコードを使う方法がある。 LINEのような感じであり、電話番号による検索を拒否することもできる。電話番号を公開しないことも可能だ。

現在は登録自体は電話番号が必要である。だが、電話番号を公開しない手順も案内されており、WhatsAppやSignalのような電話ありきのものとは一線を画す印象だ。

プライバシーの設定をちゃんと予めする必要があるが、かなり細かく制御できる。 UIに日本語がないのは難点と感じる人もいるだろうか。私は気にならないが。

Telegramがプライバシーに強いという短絡的な評価はやや危うく、どちらかといえばバランスを取っている。 通常メッセージは暗号化されず、安全に取り扱われるが、サーバーで同期も可能で普通に使える。 一方でシークレットメッセージは非常に堅牢なプライバシー保護となる。

グループチャットでプライバシー保護がないのはやや残念には思えるものの、そもそも「3人以上が介在する会話」というのはその時点でプライバシー保護として機能しない2ため、それほど重要なことではないとも言える。

プライバシー機能は他のメッセンジャーにいくらか譲りはするものの、非常に大きいのがアプリの秀逸さだ。 ステッカー機能の存在は大きいし、テーマ設定などもできるため、LINEに求める要素が細かい点に目をつぶればかなり叶う。 動作は非常に秀逸で、アプリとしての出来は比類ないといっていいほどだ。

さらにBot APIのUIが非常に機能豊富で優れているため、ソフトウェアのUIとしてTelegramを使うのはかなり現実的かつ優れた選択肢である。

ただ、画面共有のほうはテキストがつぶれがちで、カメラとは排他の関係にあり、授業での利用は厳しかった。

評価が分かれる点として、一定期間使われていないとアカウントが削除されるというのがある。 電話番号ベースであり、電話番号さえあればアカウントが使えてしまうため、第三者の手に渡ってしまわないようにするためにも有効な機能だと思うが、あまり積極的に使わないとアカウントが消えてしまう恐れがある。 不慮の自体で連絡がとれなくなったときにそのまま連絡手段を失う可能性も考えられる。 この期間は1ヶ月, 3ヶ月, 6ヶ月, 1年の中から設定可能で、無効にはできない。

私はメインの連絡先として使っているが、非常に使いやすく、一方アカウントが電話番号ベースでリセット困難であることから、非常に親しい相手とのみ交換している。

Signal

プライバシー重視のメッセンジャーだが、その方式は信用するかどうかはちょっと悩むものだ。

機能的にはTelegramほど充実はしていないが、安定はしているのでしっかりしたアプリだと見ることができる。 だが、問題はSignalの振る舞いである。

Signalは電話番号に基づいている上に、電話と非常に強く結合しようとする。 つまり、Signalは電話の一部であり、「クラウド電話」のような位置づけとなる。 電話内の情報(電話帳を含む)の利用を防ぐことができないし、むしろ「知り合いではないか」という相手と積極的に結びつけようとする。 人間関係に対する考え方がFacebookと似たものだ。これはWhatsAppにも言える。

このような振る舞いは非常に迷惑だと感じるし、日本人の多くが受け入れられないだろう。 電話番号を変えない限り電話番号を知っている相手とは切れないため、かなり致命的だと思う。

これはプライバシーに対する感覚の違いだと思う。プライバシーとして守られるべきラインを、Signalに決められるのはかなり気に入らない。 電話番号が可視かどうか、電話番号によってアカウントが可視がどうかを含めてホワイトリスト方式で決定したいのだ。

正直、機能的にいまひとつだと感じる一方、Telegramとの使い分けは不可能(電話番号を知っていればTelegramだろうとSignalだろうと繋がれる)であることから、利用価値はないと感じた。

Wire

プライバシーに優れたメッセンジャーであり、eメールによる登録が可能なため、本当にプライバシー重視の運用が可能なのはいい。 E2EEが常に有効であるため、説明の苦労がなく、「プライバシー面で安心である」と伝えることができるのは大きい。

Wireは以前は「仲間とのグループコミュニケーション」みたいなことを掲げて、大学のサークル向けみたいなSNSチックな感じを出していたが、最近はコラボレーションツールを名乗っているらしい。 だがこれは、Slackみたいなワークスペース機能が追加されたというだけで、個人的なメッセンジャーとしての使い勝手は基本的に変化していない。

ただ、機能はあまりなく、設定できる余地も非常に少ない。UIはおしゃれだが使いやすくはない。 メッセージに対するリアクション機能やスタンプ機能はなく、代わりにGIF機能がある。 だが、感覚的には非常に微妙である。 Ping機能

個人であるかグループであるかの区別があまりないのも特徴的だ。 基本的にダイレクトメッセージであっても、「チャットルーム」が作られ、ホストとゲストという扱いになる。

通知音が「カチッ」という小さな音なのはメリットともデメリットとも言える。

しばらく使っていないとログアウトされてしまうのは結構なデメリットだと感じる。

使い勝手は概ねよく、メインとして使うには物足りない部分もあるが、セキュアでプライバシーに対する安心感があり、教えやすいというメリットは大きい。 私はTelegramを教えるには至らないが、ある程度継続的にやりとりするような相手に対して教えているため、もっともよく使う位置にある。

なお、Windowsだと起動していると重くなるという声もあった。

Session

プライバシー保護も優れているが、なにより匿名性が非常に高い。 アカウント登録というものもない。この匿名性を歓迎するかどうかという問題もあるが、私は良いと考えている。

機能的にはメッセンジャーとして最低限のものを備えていて、安定性も普通に使える最低限のラインにある。 そんなに重要でなく、頻度も高くない相手であれば、ちゃんと必要な機能を備えていて、懸念点がないのは望ましいところだ。

だが、継続的に話す相手と使うのは難しいだろう。 もっとも大きな難点は、IMEに対応していないことだ。 PCで入力すると(WindowsでもLinuxでも)テキストが二重に入力されてしまうという問題が発生する。

稀に連絡を取る程度で、スマホだけで十分であれば利用に耐える。

私と連絡先交換をすると、まずSessionになる。

Skype

Microsoftに買収されてからひどくなりつづけているサービス。 電話番号登録が必須でないのは良いことだが、プライバシー上の懸念はかなりあるほうだ。 加えて、システムの電話帳を使う仕様であり、それ以外にコンタクトリスト機能がなく、履歴も割と消えるというのはかなり痛い。

どちらかというと会議プラットフォーム的な感じになっており、 通話品質も高くなく、途切れたり、音が悪くなったりすることは多い。

考えてみれば悪くなさそうだと思えるのだが、実際使っているとストレスが多く使っていたくないと感じる絶妙さ。

Tox

昔のSkypeのようなP2Pメッセージングであり、機能的にも昔のSkypeっぽい。 接続の確立にはサーバーを必要とするが、つながってしまえばP2Pでやりとりし、E2EEが機能する。 もっとも、Telegramも通話はそのような仕様だからあまり特徴的とは言えないかもしれない。

Toxはプロトコルに過ぎないから、Toxの使い勝手や品質はアプリに依存するし、XMPPよりはずっと良いが、Toxが流行ってないため、そのアプリが全然メンテされてないのが問題だ。 uToxとqToxを使ってみたが、qToxの品質はなかなか良いと思う。ローカルにプロファイルを作って暗号化する、他の端末でもプロファイルの読み込みを行って移行できるというのは評価できる。

だが、プロファイルは同期できないので、不便なことも少なくない。

そして、画面共有は問題が多く全く役に立たない、というよりアプリを落とすしかなくなる。

単純な通話アプリとして使うのであれば、案外悪くない。 通話品質も割と高い。

しかしその廃れ具体、画面共有のバグのひどさ、uToxの惨状、詳しい人でないと使うのが難しいといった点を考えると、採用は結構難しい。 維持でもXMPP/Jabberを使っていて、通話もオープンなプラットフォームでなければと考える人であれば候補になるだろうか。 私はそこまで実用性を捨てることはできないという気持ちだ。

XMPP/Jabber

オープンなプロトコルであり、様々な実装がある分散型だ。 メールの考え方をメッセンジャーに広げたようなものと言ってもいい。 昔はそれなりに流行っていて、FacebookやGoogleも採用していた。

私はPCはPidgin, AndroidではXabberで使いつづけてはいる。 だが、利用価値をもは認めていない。

かつては、LINE, Kakao, Facebook, Googleといった選択肢の中で、「プライバシーを守ってやりとりしたい」という希望を叶える手段に乏しかった。 そのため、不便や不自由を我慢してでも使う価値があったのだ。

だが、現在はプライバシーを懸念しなくて良い他の方法があるため、アプリ側の出来が悪く、安定性・機能性に欠ける方法を採用する理由に乏しい。 もちろん、非常に優れたアプリがあれば話は大きく変わってるくだろうが、XMPP自体がそれほど優れたプロトコルではない(XMLベースのプロトコルなんてひどいものだ!)ので、優れたアプリを実現するのも難しいだろう。

Discord

DiscordのDMは結構微妙。

Discordのアカウント自体がかなりの情報を公開してしまうし、DMといえどもプライバシーは保護されていない。 個人的な連絡手段として使っていたこともあるのだが、Discordでその使い方をするのは避けたほうが良さそうだ。 フレンドにする相手は私は相当選んでいる。

Discordにはある程度のコミュニケーション機能はあるが、「メッセンジャー」という観点では「使えなくもない」の域を出ない。 LINEの代替として使える人はかなり限られるだろう。

最終的な私のジャッジ

App/Proto Status Comment
LINE 使わない 不快な広告やプライバシーの懸念から排除した。「LINEをやってない」ことはデメリットよりメリットが強いと感じている
Telegram 親しい人用 求めるものは揃っていて、アプリの出来が極めて良い。電話番号が露出するため、リセットが難しく、本当に親しい人に限る
Signal 使わない 電話番号を教える前提で良いのなら、Telegramを選択するため、Signalを使う理由がない
Wire メイン メールアドレスで登録でき、常時E2EEでアプリ使い勝手も良い。頻度が非常に高くなると不足を感じることもあるので、Telegram
Session 最初の場所 「連絡先教えて」に対する対応であり、本当に連絡したがっているかどうかを測る試金石でもある。「LINE教えて」「Sessionならいいよ」で投げ出す人とは縁を持たなくて良いというスタンスである。デスクトップアプリに問題があるため、ある程度の頻度・量で会話する相手はWireに移行する
Skype 基本使わない アカウントは持っているため、Skype for Webを使って使おうと思えば使える。企業などでSkypeを使うことを要求される場合もあるため、使うことがないわけではないが、パーソナルに使うことはない
Tox 使わない 試すだけ試したが、無理があると感じたため使わない
XMPP 使わない 以前はともかく、現在はデメリットを上回るメリットが見つけられない
Discord メッセとしては使わない Webhookを使った通知用途で使ったり、あるいはゲーム配信で使ったりはしているけれど、メッセとしては適性不足と見て使っていない

つまり、Session→Wire→Telegramの構図だが、もともと交流がある人物であれば最初からWireということもある。

その他検討にものぼらなかったもの:

  • WhatsApp
  • Kakao Talk
  • Viber
  • ICQ
  • Gadu-Gadu
  • iMessage