Chienomi

Minisforum AI X1 Pro (AMD Ryzen AI 9 HX 370)

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実は新しい会社に入ることになりました。 本当に大変だったね。とっても。

まぁ、それはともかくとして、その会社の仕事で使うPCとして、私はMinisforum AI X1 Proを選択した。

個人的にずっと注目していたものなので、早速レビューしていこう。

概要

Minisforum AI X1 ProはミニPCメーカーとして有名なMinisforumから販売されているミニPCである。

Minisforum AI X1 Pro

X1シリーズはAI X1とAI X1 Proから構成されていたシリーズで、AI X1はUMシリーズに近い小型筐体で外部アダプタ、AI X1 ProはMac miniくらいのサイズ感で内蔵電源となっている。

AI X1 ProはRyzen AI 9 HX 370を搭載。高性能なNPUを持つプロセッサを使えるというのが魅力。 AI X1はRyzen 7 255, Ryzen 7 260, Ryzen AI 9 365のラインナップがあったが、現存するのはRyzen 7 255モデルだけ。ちなみに、Ryzen 7 255は(製品名に反して)有効なNPUを搭載せず、Ryzen AIもサポートしない。

シリーズはRyzen 7 255を搭載するX1 Liteを加え、現在3モデル。 X1 LiteはUMの筐体を使用する。

Ryzen AI 9 HX 370を搭載するMinisforumのモデルはAI X1 ProのほかAiberzy XG1-370とN5 Pro AI NASがある。 N5は文字通りNASなので、普通よりのモデルとしてはAiberzy XG1-370が残る候補となるだろう。

ライバル製品としてはGEEKOM AI PC A9 MAXがある。

GEEKOMのものと比べた強みとしては、GEEKOMのものはストレージがM.2 2280とM.2 2230の2つになっており、M.2 2280を3つ搭載できるAI X1 Proのほうが優れている。GEEKOMにはUSB4のDP出力の記載がないので、USB1本でのディスプレイ接続をサポートしていないかもしれない。 また、AI X1 ProはOCulinkをサポートしており、dGPUの搭載が可能。

Aiberzy XG1-370と比べた強みとしては、XG1-370がストレージがM.2 2280を2つ搭載可能なのに対し、AI X1 Proは3つ搭載可能。

AI X1 Proを俯瞰すると、Ryzen AI 9 HX 370を搭載したCopilot+ PCである、というのが基本的な軸ではあるが、AIワークステーションとして強調されているわけではない。 むしろ全体で見ればバランスの良さが光るミニPCだと言って良いだろう。

クセのある要素としては、OCulink対応であることと、2.5GbEを2ポート持っていることが挙げられる。

サイズは195x195x47.5mm(LWH)。 重量は1.5kg。

見る

ミニPCにも色々幅があるなと感じる。

ACEMAGIC Vista Mini V1と比べると大幅に大きいが、HP ProDesk 600 G2 DMほどは大きくない。

アルミ筐体で結構おしゃれ。 さすがにVista Mini V1とは質感が全然違う。

重量は軽くないのは確かだが、重いものとして持てば軽い。まぁ、持ち運べる範疇という感じ。 大きさも手持ちよりは抱えたほうがいいので、日常的に持ち歩くようなものではないし、置いていたら存在感はある。

サイトでは全く言及されていないが、側面にSDカードリーダーがある。

SDカードリーダー搭載

各インターフェイスの配置はかなり扱いやすく感じる。 ミニPCはこのへんいまいちなことが結構あるのでとても良いこと。

計測

結果自体はこちらで。

モデル自体は32GB RAMモデルで、電力制御(BIOSで設定するもの)はパフォーマンス優先とし、VRAMは8GBを割り当てた。

まず消費電力に注目しよう。

amd-pstate-eppを使用しているが、governorによる変動は極めて小さい。 パフォーマンス的にもAntutuではpowersaveのほうが上回っており、基本的に常時powersaveで良いと思われる。

Antutu HTML5での消費電力がそれなりに高く見えるが、本当に一瞬だけの値で、ほとんどの場合20〜35W程度に収まっている。 感覚的にはCore i7-1360Pにおけるperformance governorに近い。

アイドル10Wで使っているときに20W以下くらいの感覚なので、省電力性はかなり満足できるレベル。 Ryzen 9 5950X機は同じような感じで100Wは越えてくる。

そのRyzen 9 5950Xと比べると2世代新しいプロセッサを搭載するわけだけど、その面目躍如というか、Antutu HTML5ではパフォーマンスコアが4、省電力コアが8という構成でありながら16コアのRyzen 9 5950Xを上回った。 基本的にはウェブの体感性能はこれがほぼ反映されると思ってよいため、日常使いでは私の手持ちの中では最も快適なPCということになる。

同様に、Wirple BMarkの結果もベストを更新した。 対話的なシングルスレッドのタスクは相当快適と言っていいだろう。

ただ、それを鑑みてもCore i7-1360Pは相当良いプロセッサだなということを感じる。 Performance governorで高負荷時は消費電力的にもRyzen AI 9 HX 370よりも高め推移になるため、別にRyzen AI 9 HX 370を搭載するAI X1 Proよりも良いと言うつもりはないのだけど、かなり近いラインだ。 世代的には1世代は違うはずなのだけど。

ただ、いくつかのテストではCore i7-1360Pを搭載するdynabook RZを突き放している。

象徴的なのはffmpegのテストで、継続的に全コアに非常に高い負荷のかかるテストだが、こちらはCore i7-1360Pの結果はトータル5.1fpsと、ラップトップとしては高いがデスクトップには及ばない値であった。 対して、Ryzen AI 9 HX 370はRyzen 9 5950Xを上回る結果を出している。その差3倍以上だ。

ffmpegほどの差はつかなかったものの、xzのテストもそれなりの差がついており、Ryzen AI 9 HX 370のほうが1.33倍の処理速度となっている。

これを見ると、Core i7-1360Pが負荷が1スレッドに集中している状態でのブーストが非常に優れており、全コアに負荷のかかるマルチコア性能では厳しいことが垣間見える。 といってもラップトップの中では高いから、Core i7-1360Pを「マルチスレッド性能が低い」という言い方をすることはできないし、単に熱設計的な話なのかもしれない。

また、もうひとつ大きな差が出たのがUnigine Heavenテスト。 こちらは2つの衝撃を持っている。

まずCore i7-1360Pと比較した場合、スコアではだいたい倍。相当すごい伸びなので、グラフィック性能はめちゃくちゃ伸びたと言って良いだろう。

だがそれでもdGPUとの差は歴然。 補助電源不要のGTX750Tiは上回ったもののRX580には届かず。

RX580はVP9デコーダーを持っていないという意味で現代で使うには厳しいビデオカードだけれど、性能的にもかなり厳しくて最近のゲームはそれなりに軽いゲームでもちょっとカクカクしやすい。 RX5700XTが「FHDならギリ許容できる」くらいの性能なので、いくらグラフィック性能が上がったといってもRyzen AI 9 HX 370をゲームするのにも使おう……というのは厳しそうだ。

「ゲームができないこともない」レベル。快適にプレイしたりゲーム目的は無理。 ただ、逆にOCulinkでRX9060XTあたりを載せるのは結構ありなのかもしれないと思ったけれど。

使ってみる

デスクトップ動作

非常に快適。アプリの起動もかなり速いし、動作ももたつきは皆無。 ウェブブラウザもしっかり速いし、ウェブコンテンツも速い。

グラフィックスのアクセラレーションも良好なようで、ウィンドウ操作も速い。

内蔵スピーカーはだいたいラップトップによくあるものと同じくらいの音質。 良いとは決して言えないが、実用的には非常に便利なのは間違いないし、YouTubeを見るくらいなら全然実用的。

内蔵マイクは指向性が強くてちょっと厳しいかも。 まあ、ないよりは絶対良い。

内蔵スピーカー/マイクは3.5mmと排他(自動切り替え)。 3.5mmのヘッドセット用意するだけで快適に使える。

だいたいウェブブラウジングとプログラミングくらいだと20Wくらい。 4k動画再生時だと30Wちょいくらい。YouTubeだと40W台。

さすがにYouTubeはめちゃくちゃ重い1ので仕方ないという感じだけど、ラップトップみたいに常時省電力ではない…… いや、これは私が電源設定をパフォーマンス優先にしてるからかな。

負荷が高いとちょっと怪しいけど、それ以外のときはかなり良い感じ。 省電力性に神経質になるならラップトップのほうが良いとは思うけど、バッテリーの問題も気になってくるからつけっぱ運用でもいい感じにあまり気にせずにいけるほうだと思う。

アイドル10Wは……もう一声欲しかったけど、デスクトップよりはずっといいから。

動画再生

動きの激しいUWQHDソース4k描画でも結構CPUだけでいける。 ビットレートの非常に高いソースはさすがに厳しかったが、vaapiでドロップなしでいけた。 Vulkanを使えばもっと余裕。

8kは試していないけれど、ここに不安は全くないと思う。

ゲーム

会社の仕事で使うPCなので、あんまりごてごてとゲームを入れるわけはいかず、Linux上で軽くプレイしただけ。 鳴潮とかスト6も検証したかったけど、それは他の人に譲るということで……

BallisticNG (Linux Runtime) はModernでだいたいいけるんだけど、Harpstoneはさすがに厳しい。 Bloomを切ればいける。

Muse Dash (Proton Runtime) はLinuxだとタイムがぶれやすい。 けど、タイム的には問題なさそうだった。正確に言えば普段よりちょっと(難易度9で0.3〜2%くらい)達成率低かったからよくないのかもしれないけど、まぁ、これはLinuxだからでいいと思う。 難易度11は若干挙動が怪しい瞬間はあった。

ただ、FHD出力4kフルスクリーンだとかなりカクつくのでやりづらい。 FHDボーダレスウィンドウならいける。 これもWindowsなら大丈夫そうではある。

ADOFAI (Proton Runtime) はAMDがだめなのか、私が持っているどのデバイスでもまともにプレイできない。 (Windowsであっても)タイムがぐっちゃぐっちゃになる。

で、このPCで試しても画面がスクロールするタイミングで判定が後ろにずれる(正しく叩くとToo Earlyになる)ので、そういう構成になっている譜面はプレイ不可能だった。 また、It Goの終盤は再生速度そのものがブレブレになるという問題もあるのだが、これはRyzen 5 5600XやRyzen 9 5950Xのマシンと比べてだいぶマシで、ちょっと違和感があるくらいで済ませてしまう人もいるかなぐらいのレベルに収まっていた。

「ディスクリートGPUなしでゲームしたい」と思っている人のために期待をもたせないように言うと、「ものによっては動かなくはない」ってだけだ。 AI X1 Proでゲームしようと考えている人。悪いことは言わない。せめてAtomMan G1 PROにしよう。

ハードウェア構成

1TBのSSDはKingston製のOM8TAP4。 PCIe Gen4の産業用QLC。

腐ってるってことはないけど、あんまり連続書き込みするともっさりするぞ、のやつ。

無線カードはMediaTek MT7925。 ……M.2 2230でBluetoothと一緒になってないやつだ。

BluetoothはQuectel製。内部的にUSBでつながってる。

イーサネットはRealtek RTL8125が2つ。

オーディオはRyzen HD Audioをそのまま使ってる。

Windows 11はOEMライセンスだった。 よかった。さすがMinisforum。

総評

まず、これがどういうコンピュータであるかということを覆い隠したとしよう。 例えば、ホテルやネットカフェに本体が隠されて使える状態になっているような話だ。

私が普段使っているのがRyzen 5000Xシリーズであるというのもあるのだが、正直体験に影響する部分では未知の体験レベルの性能が出ている。

デスクトップユースはとても快適だ。 さすがに4kマルチディスプレイとかするとグラフィック性能がネックになってくる可能性はあるが、4kディスプレイ1台に接続して使用する分にはグラフィックパワーの不足は感じなかった。 私はVRAMを8GBにしたというのもあるのだけど、メモリ込みだと32GB/64GB/96GBの構成だから8GBをVRAMに払うくらい全然できるはずだ。

依然として4kに出力するのはそれなりに高いハードルだが、ほとんどの場合4kスケール出力を苦にしない性能を持っている。 ビデオに関してもVP9デコード、AV1デコード/エンコードを持っているので現代のビデオ再生を苦にしない。

この体験的には巨大で電力をバカ食いするゲーミングPCとあまり変わらない。 というか、全コアフルロードで使う高負荷処理でも爆熱デスクトップにそんなに負けていないと思う。 Ryzen 9を相手に計算時間を追い求めるようなことをすればさすがにだいぶ差がつくかもしれないが、9700Xや9600Xならそれも分からないレベルになっている。

それがこんな小さなPCで、簡単に持ち歩ける程度だと知らされたら度肝を抜かれるかもしれない。 しかも省電力であるために静かでもあるのだ。ファンはほとんど回らない。

インターフェイスも結構揃っていて、なおかつ使いやすい配置。 地味に2.5GbEがふたつというのはマニアックな使い方にも対応している。 ストレージはM.2 2280 PCIe4.0が3つ。大容量を狙うにも使い分けるにもとても便利。

やはり現代はミニPCの大勝利だと深く頷いてしまった。

だが、早まってはいけない。グラフィックス性能はそんなでもないのだ。

確かに、確かに! iGPUは大幅に進化した。そりゃあ、IdeaPad Slim 360 (17) (Ryzen 7 5700U)やdynabook RZ (Core i7-1360P)と比べれば全然違う。ウィンドウ操作も軽い。 ゲームも多少動くようになった。もしかしたらゲームできるかもという期待が持てるようになった。

が! それは「iGPUが実用的になりました」のレベルでしかないのだ。 dGPUと比べられるレベルではないのだ!

ゲームしたいならやめておくんだ!

でも!OCulinkまで視野に入れるなら全然アリだ!

その意味ではやっぱりOCulinkは救いなのかもしれない。 やっぱdGPU欲しい!という場合にも対応できるのだから。


  1. 動画再生が重いのではなく、YouTubeのサイトが異常に重い。↩︎