Chienomi

JIS配列キーボードのスペースバーの長さとキーキャップの話

読み物系記事::rumor

ちらっと言ったことがあるのだけど、Pulsar Gaming PCMKが採用している4.25Uのスペースバー。 これが「とても特殊」と言われている。いろんなところで。

が、これは誤謬である。 なぜならば、単一製品で売れてる数を無視し、JISキーボードを作る上での採用されやすさでいえば4.25Uが一番ポピュラーだからだ。

おそらくは誰かが「4.25Uという特殊サイズ」という発言をし、それを鵜呑みにしてコピーして喧伝する人がいて、そしてまたそれを鵜呑みにして⋯⋯ と広まっていったものと思われる。

そこで、JIS配列キーボードのスペースバー(キーキャップ)事情を、JIS配列についてやや詳しい1私が語ろうではないか。

前提知識

一般的な標準レイアウトのキーボードの場合、6段目の全体サイズは14.5Uである。

そして、6段目キー数は10であることが多い。

JIS配列の最小は7。

  • Ctrl
  • Win/Super
  • Alt
  • 無変換
  • スペース
  • 変換
  • かな

これはコンパクトレイアウトではありうることだが、スペースの右側にキーが2つしかないので、もう少しあることが多い。 右側に追加される可能性があるのは

  • Alt
  • Fn
  • Ctrl
  • 右Win/Super
  • メニュー

Fnも左右がある場合、最大は16になる。

キー数10でスペース以外を全部1Uにした場合、スペースバーの長さは5.5Uになる。

US配列における標準のスペースバーは6.25Uである。 US配列のバリエーションとしては7Uを採用しているものがちらほらある。

実際のレイアウト

JISキーボードのスペースバーの長さは3.5U, 4.25U, 4.5Uが一般的。 3.25U, 3.75Uが稀。4Uは見たことない。

採用例としては

  • 3.5U - ロジクール, RealForce R3, 一般的なメンブレンキーボード
  • 4.25U - Razer, Corsair, Varmilo, Pulsar, RealForce R2
  • 4.5U - Keychron, Majestouch

といった感じ。

メンブレンキーボードや事務機器用キーボードでは3.5Uという短いスペースバーが採用されやすい。 一方、海外メーカーのゲーミングキーボードは4.25Uが主流。 ただ、Majestouchを始め多くのFILCO製キーボードが採用していることから4.5Uが推される傾向にある。

10キーの場合、変換と無変換を1Uにして、残りを1.25Uにすると4.25Uになる。 これが基準。

Fnを1Uにすると4.5Uになる。 Fnを1Uにしてかなを1.25Uにすると4.25Uになる。 左Ctrlを1.5Uにして左Winを1Uにすると4.25Uになる。 左WinとFnを1UにしてCtrlを両方1.5Uにすると4.25Uになる。 左WinとFnを1Uにして左Ctrlを1.5Uにすると4.5Uになる。

3.5Uを採用する場合、6段目に1Uキーを置かないか、メニューキーなど追加のキーがあることが多い。 Fnを左に持っていって1Uとし、1Uメニューキーを追加すると3.5Uになる。

以上の組み合わせがほとんど。 右Winキーはないことが多いが、ある場合はだいたい他を削っている。

3.5Uキーを採用する場合、右にFnとメニューキーを配置してかなり左に寄っている場合と、だいたいBを中心として真ん中くらいにあることがある。 左に寄っているやつは単に他のキーを優先したためにスペースバーがズレてしまっているパターンだが、中央にあって3.5Uを採用しているものは変換/無変換キーを中央に寄せたいという理由があるらしい。

というのも、4.25Uだと親指は当たり前のようにスペースバーに乗る。 対して、3.5Uで中央寄せすると変換/無変換に乗る。 日本語入力だと変換で変換操作をする場合はスペースを入力する機会がほとんどないため、スペースよりも変換/無変換を重要だと考えているということだ。

ちなみに、Libertouchを始め富士通コンポーネント製のキーボードはスペースバーがさらに短い。 これは、安物のメンブレンキーボードでも結構見られるレイアウト。

だから、3.5か4.25U/4.5Uかはスペースバーを重視するか否か、というあたりの影響が大きい。

ちなみに、富士通コンポーネントの古いキーボードは左右のCtrlの隣に1Uの隙間があり、スペースバーを短くして中央に寄せている。 単なる他のキーとの兼ね合いというわけではないことが見て取れる部分だ。

入手性問題としては4.25Uのほうが深刻

だが実際は、スペースバーだけを見るのであれば4.25Uのほうが入手しづらい。

なぜならばFILCOは豊富にキーキャップを出しており、JIS配列のキーキャップを探すほとんどの人が最初にたどり着く。 そして、FILCOのキーボードは基本的にスペースバーは4.5Uだ。

6段目の配列はバリエーションがあるので4.5UスペースならFILCOのキーキャップが使えるというわけではないのだけど、JIS配列のキーで一番入手性が悪いのはスペースバーなのでどうしても注目されやすい。

また、Keychronもキーキャップを出していて安定して入手しやすいが、Kerchronも4.5Uスペースバー族なので同じことになる。

4.25U族のCorsairはJISキーキャップが廃盤だし、VarmiloはそもそもJISキーキャップは売ってない。 RazerもJIS配列のキーキャップはない。

Pulsarの純正キーキャップはそもそも貴重な4.25U族のキーキャップだったりしたんだけど、とうとうなくなってしまった。

4.25UキーキャップはJIS配列云々ではなく、製品としてほとんどない。 この結果、4.5U族の場合は6段目キー数が足りるかどうかを別とすれば定番製品のアップグレードパーツを流用できるのに対し、4.25Uのキーキャップだけは洒落にならないほど手に入らない。

そう、4.25Uが珍しいのではない。FILCOとKeychronが4.5Uの製品を出しているというだけのことなのだ。 JISキーボード全体で見れば4.5Uのほうがメジャーだが、キーキャップ製品ではそうではない。

4.25Uスペースバーだけ売ってくれれば、あとはキャップ数多めのISO配列用で埋められたりする。 なんなら、エンターキー(こっちはISO配列でも存在するものなので入手は比較的易しい)もあればUS配列でもいける。 6段目はJIS配列はかなり特殊だけど、1.25Uや1.5UのキーはUSキーボードでも普通にバリアントとして存在するので、収録数が多いキーキャップセットだと(適切な印字かどうかはともかく)埋まる可能性はそれなりに高い。しかも、R1は5段目と共通のキーキャップなのでなおさらである。 当然ながら右Shiftも少し特殊なサイズになるのだが、これはISO配列と同じだし、70%配列USキーボードとも同じなのでキーキャップセットには同梱されていることが多い。 ISO配列の場合左Shiftが短いけれど、JIS配列の左ShiftはUSレイアウトと同じサイズなのでやはりUSキーキャップでは問題にならない。 (こっちはISO配列キーキャップセットだと問題になる可能性はある。)

実際にUS配列キーキャップを使う例

つまり、問題は本当に4.25Uキーキャップがないことだけなのである。 USキーキャップセットだと刻印ずれが発生するが、無刻印なら気にならないだろうし、私はキーキャップの印字を見ることはキーキャップを洗うときくらいしかないのでそもそも別に気にならない。

そして、そのただ一点である4.25Uキーキャップが本当に手に入らない。 どこかがスペースバーだけ出しても良さそうなものなのに。


  1. 一家言あるくらいか。↩︎