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入門級ペンタブ (板タブ) 2種 - Parblo N7 / XP-Pen Deco 01v2 レビュー

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私が美術系ができる人だ、ということはほとんど知られていない。

けど、デザインとかもともとやってる人なので、ある程度絵も描ける。

その昔、FAVOというiMacちっくなデザインをしたタブレットを使っていたこともあるのだけど、結局デジタル絵に馴染めず、それ以降デジタル絵を描くことは基本的になかった。

板タブとは

ペンタブレットというのは、ポインティングデバイスの一種である。 硬質なセンサーつきの板と、ペンで構成されている。

ただ、このような構成のものを近年は「板タブ」というように呼ぶことが多い。

なぜならば、液晶タブレット、通称「液タブ」のほうがペンタブレットとして普及しているからだ。

両者はかなりの違いがある。

まず、板タブは純粋にポインティングデバイスであると言っていい。 「どうやってポイントするのか?」と疑問に思うかもしれないが、ちゃんとしたドライバユーティリティがある環境であれば絶対座標(タブレットの作業面を画面に投射し、ペンをおいた位置がポイントされる)と相対座標(ペンをタブレットに接触させて動かした分だけ動く)の両方に設定可能だ。

一方、液タブは前提として「タッチ可能な液晶ディスプレイ」である。 これは、iPadのようなタブレットコンピュータに近い。実際、デジタイザーペンを使ってiPadやSURFACEでお絵描きするという人もいるし、スマホで描いているという人もいる。

タブレットコンピュータとの違いは、それ自体は周辺機器で単独では動かないということと、指で操作するようにはできていない、ということだろう。

液タブはタブレットコンピュータやスマートフォンと同じで、常に触れた位置がポイントされる絶対座標のみである。

板タブでのお絵描きでは相対座標で使うことは基本的にない。それはマウス代わりに使いたい場合の使い方である。

さて、このように説明したとき、液タブはスマートフォンなどと同じなので、どのように操作するものかすぐ分かると思う。 対して、板タブは投影された位置関係がないのに操作できるものか不思議に思うかもしれない。

板タブはデジタイザーペンとの間で通電可能な距離というものがある。 つまり、タブレットデバイス側から見ると、ペンは触れていなくても近づければ認識可能である。

ペンタブレットドライバおよびお絵描きソフトは、この「触れていないが近くにある」状態を認識する。 この場合、描画はされないが、今どの位置にあるのかというペン先のカーソルは表示され、動く。 これを元に今どこにペンを乗せようとしているのかを判断できる。 また、立て続けに線を引く場合、とくにそのような方法で位置を探らなくても手の感覚で分かるものだ。

――と言ったが、それが難しいという人も普通にいる。一般的には、板タブは慣れにかなりの時間を要すると言われている。 ただ、個人的にはFAVOを触ったときは全く馴染めず、数回使っただけで手放してしまったのだが、今回Ninosを使い始めたときはほんの10分くらいでちゃんと線が引けるようになった。

両製品の概要紹介

Parblo Ninos N7は7インチクラスのシンプルな入門向けペンタブレットである。 作業エリアは7x4.37インチで、いわゆるSサイズのペンタブレットのサイズをしている。 ボタン等は一切ないシンプルさで、Windows/Mac/Android/Chrome OSで動作する。

非常に低価格だが、60°の傾き検知と、8192レベルの筆圧検知が可能。

XP-PEN Deco 01v2は、10インチクラスの入門向けペンタブレットである。 作業エリアは10x6.25インチのLサイズタブレットで、本体側に8つ、ペン側に2つのエクスプレスキーを持つ。 Windows, Linux, Mac, Android, Chrome OSに対応する。

60°の傾き検知と、8192レベルの筆圧検知が可能。 Parblo Ninosと比べれば高価だが、Ninosは付属品がケーブルくらいしかないのに対し、ペンホルダーとグローブ、プロテクター、USB OTGアダプターが付属するし、さらにバンドルソフトウェアもあるため、実質的な価格としては同等だろう。

両者はそもそものサイズが違う板タブだが、それ以上にParbloは小さいタブレットである。 本体のかなりの部分を作業エリアが占めており、本体サイズ的にはXSサイズのタブレットくらいの感覚だ。

両者を比べる

ParbloはChrome OSに対応し、言い換えればLinux上でも動作するが、この「動作」や「対応」はXP-PENのものとはまるで意味が違う。 あくまで「反応し、動く」という意味でしかない。

ペンタブレットに設定は欠かせないが、Parbloの板タブはLinux上では単なるポインティングデバイスとして認識される(ペンタブレットとして認識されない)し、Parbloからドライバーが出ているわけでもないので、全く設定ができない。よくわからないスイッチがひとつあるだけだ。 がんばれば使えないこともないものの、マルチディスプレイではワークスペース全域が投影されるため、小さい板タブでは使えたものではない。 また、その動作も絵を描くのは相当厳しいものだ。Macでは試していないが、ちゃんと使えるのはWindowsだけであった。

対してXP-PENはちゃんとLinuxにもドライバユーティリティを用意しており、どの環境でも本来の性能を発揮する。 WindowsでもLinuxでもユーティリティはまるで一緒、というよりむしろLinuxのほうがよく仕上がっているくらいである。 描き心地も変わらない。

NinosもBがつくモデルはエクスプレスキーを持っているが、N7とDeco 01v2だと単純な話として、大きさとエクスプレスキーの有無が違う。 詳しくは後述するが、板タブにおいて「大きさ」が違えば全くの別物であり、それだけでも使い分けられる。

描き心地に関しては、意外なことにNinosのほうが良い。 XP-PENはプロテクターごしに描くからというのもあるが、Ninosのほうがさらっとしたフィーリングだ。 もちろん、ここは好みによる。プロテクターは紙っぽい質感を再現したものであるので、ひっかかりがあるほうが好きという人も少なくない。 だが、それよりも「Ninosのほうが線を引きやすい」というメリットは大きく、ペンタブレットとしての基本性能部分では相当に優秀である。

ペンの感圧レンジはNinosのほうが狭い。XP-PENで最大筆圧に到達するのは、タブレットが壊れそうなくらい力を入れたときだ。 また、デフォルトでの筆圧の立ち上がりはXP-PENはかなりゆるやかであるのに対し、Ninosのほうがスッと立ち上がる。

また、ペンが検知される範囲がNinosのほうが遠い。 これは好みが分かれるところだが、Decoはもう少し遠くでも反応してくれたほうがいいなと思うし、Ninosはちょっと遠すぎるかなとも思う。 私の好みに近いのはDecoのほうで、Decoがもう少しだけ遠くで反応してくれると嬉しい。Decoが反応する位置は、もう「描く距離」なので。

板タブの「大きさ」

液タブは小さいもので13インチくらい、大きいものだと27インチもあるのに対し、板タブは長辺10インチというのが「Lサイズ」である。つまり、液タブと比べかなり小さい。

これは、単純に場所をとらないという意味でも違う。大きく重い液タブは取り回しが悪い。

世の中では「板タブより液タブ、液タブもより大きいもの」という感覚であるが、サイズはそのまま「手を動かす範囲」になるので、そういう話ではない。 小さい紙に描くのと大きい紙に描くのでは、同じイラストでもまるで違うというのと同じことだ。

液タブの場合、「描きたい範囲を拡大縮小で合わせる」という方法が効きやすいので、大きいからといって直ちに描きづらいとはなりにくいが、それでも大きい液タブは色々大変である。

じゃあ板タブはどうなのか、というと、こちらは大きさが違うと完全に別物になる。

板タブの大きさは、本当に「紙のサイズ」に近い。 作業エリアが小さくなれば、小さな手の動きで長い線を引くことができる。 そもそも「指を動かす」「手を動かす」「腕を動かす」というのは別の動きなので、サイズが変わるとまるで違う描き方が要求される。 XP-PENのほうは投影される作業エリアをドライバユーティリティで小さくすることができるので、それにより擬似的に小さいタブレットのように扱うことができるが、それでも感覚は結構違うものだ。

適切な板タブのサイズは、その人の描き方と好みによるし、線画と彩色など工程によって使い分けることもあるかもしれない。

レビューと感想

Parblo Ninosは行き届かないが描き心地は良い。 XP-PEN Decoは条件を問わず安定して描ける。

Deco 01v2という選択は、ちょっとミスった気がしている。 もともとアナログ絵描きであった私としては、鉛筆も「押さない」が前提の描き方になっている1ので、ミニマム30gというDeco 01v2のペンは結構描きづらい。

XP-PENのX3 ELITEペンは最小3gになっていて、結構良さそうなのだけど、3000円ほどする。 これだけ出すとちょうどDeco 01v2とDeco L2の価格差といった感じになる。

言い換えるとペンタブレットの基本性能という点で、Deco 02v1はわずかに不満があり、もう少しだけ良くなると良い。 だから、もう少し良い製品であるDeco Lは素晴らしい製品である可能性が高いように思われる。

対して、Ninos N7は「これで問題ないなら」満足できる製品だ。

「問題ないなら」は結構難しいことを言っている。 まず、Windows上で使うことを前提とし、エリア設定もディスプレイ単位でよければ、という感じ。 Linuxで使う場合、ディスプレイが1枚しかないラップトップなどで使い、ホワイトボードアプリに文字を書くくらいならなんとかできる。

エクスプレスキーがない場合、キーボードやマウスで操作する必要がある。 板タブの側にこれらを配置しての作業ができるならいいが、作業スペースに板タブだけを置きたい場合無理がある。 膝の上だったり、あるいは角度をつけて使う人もいるのだが、この場合はなかなか難しい。 また、Ctrl++など拡大縮小の操作はキーボードで左手でできないため、ないと不便ではある。

一方、ペンにキーがないのは間違って押すことがないからそれはそれで便利。

大きさの問題もあるが、Ninosのほうがずっときれいに線を引ける。 だから、ラフを描く段階ではNinosのほうが使いやすい。 一方、細部を描くときはNinosはちょっと粗く感じることがある。

おまけ 「板タブ」

「時代は液タブ」と言って差し支えないと思うのだが、私は今回板タブを選んだ。

もちろん、「液タブは高い」という事情もあるし、そもそもNinosはいただきものなので選択したわけですらないのだが、Ninosがある状態であえて板タブを追加したのはそれなりに理由がある。

根本的に、私は紙に絵を描くことはできるので、液タブを買うとしたら、「紙の感覚でデジタル絵が描ける」という話になると思うのだが、実際のところ結構な差がある。 感覚に微妙なズレが生まれてしまい、描けないことはないが描きやすいとは言えない。 特に角度によっては視差ズレが結構気になったりすることもある。

一方、液晶に付着する皮脂とか、汚れが結構気になるし、確かに便利ではあるが、完璧ではない。

では板タブはどうなのかというと、基本的なところで線を引くことは手が覚えているし、仮に思ったのと角度が違ったとしてもCtrl+Zが救ってくれるのであまり問題がない。 紙に描く感覚とは違うが、絵を見ながら線を引ける(手で隠れない)というのは結構なメリットで、画面の絵を頼りに絵を描くという感覚は確かに多少の慣れが必要ではあるが、言ってみればキャンバスに描くような感覚に近く、感覚を切り替えることができればそこまで特別なことだとは感じなくなってくる。

また、手や指のストロークで引けない角度の線を引くときに、タブレット側を回せるのも大きい。 液タブを回転させて描くのは、スペースと配線の都合もあり結構大変だ。 腕を使うタイプの人は気にならないだろうけど、手や指で描く人は板タブのほうが相性がいいように思う。

あと、板タブはサイズ違いを用意して使い分ける、ということが、資金的な面でも、保管場所の面でも難しくないのも大きい。

店頭で触ってみて「板タブで絵を描くのは難しい」と思ってる人もいるかもしれないが、私も店頭に置かれてる板タブで絵を描くのは非常に厳しいので、そこはあまり気にしなくていいと思う。 板タブは設置と姿勢がとても大事なので、キーボードやマウスを試すとき同様、ちゃんとセットしていないとよくわからないものだ。

私の感想としては、「板タブのほうが扱いが楽だからお絵描きしようという気持ちになりやすいし、めんどくさくならないし、いっそ液タブより描きやすいまであるから板タブのほうが良い」である。

風潮に影響されて液タブでなきゃだめみたいに思ってお絵描きをはじめられずにいる人もいるかもしれないが、「板タブはいいよ!」と言いたい。