新しいPCを組みました。 【B550/AMD Ryzen7 3700X】
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謝辞
今回、一式をパソコンショップアークにて購入させていただいた。
購入は通販となったが、直接秋葉原のショップにお邪魔させていただき、実に1時間半に渡って相談に乗っていただいた。 非常に有益な話を聞くことができ、当初の想定とはほとんどのパーツが変更となった。
通販でも(システム的な)トラブルがあったが、問い合わせに丁寧に応じていただき、安心して利用することができた。
改めてここで御礼申し上げたい。
背景
私の環境で主なPC構成は
- Lenovo ThinkStation P720 (Xeon Silver 4114 2x)
- hp Z400 (Xeon W3565)
- 自作 (A10-7870K)
の3台である(その他サーバーやレガシー環境検証用なんかもある)。
ThinkStation P720
P720が主力であり、最も性能も高く最新だ。多画面対応のためオーバークロック&メモリー増量のRX580を搭載しており、能力は非常に高い1台だ。
ただ、非常に痛い問題が、 Linuxでのみ多くの問題が発生する ということだ。
例えば
- Windowsから再起動でLinuxを起動するとハードウェアエラーになり起動できない
- Linuxで変なエラーが出ることが結構ある
- フロントUSBが認識されない
- USB機器をロストしたり、USBの挙動が不安定
手厚い保証を入れているのだが、Lenovoのサポートが難しい問題に対して対応しない(マニュアル通りの手順を実行させるだけである)ということと、そもそもWindowsで再現しないということで非常に困っている。
また、割と音がうるさい(ワークステーションだからそういうものだが)、アイドル時でも100W近い消費電力といった問題があり、あんまり使い勝手が良いマシンでもない。
そもそも、Xeon Scalable Processor FamilyはGoldの上位までいかないとコア単位の処理性能は低い。20コアとかあっても、それはRyzenのようなリッチコアとは違う。 そのため、普通の利用では性能はどちらかというと低く感じる。
だが、そもそも目的として並列処理を行う重い計算で延々回すために使うことであるため、そのような時には20コアの頼もしさが光る。また、そのような計算力の割に普段は非常に省電力なのも魅力的だ。これがXeon Wだったりするとこうはいかない。マニアックな使いこなしを必要とするピーキーなマシンだとも言える。
ワークルームに置かれ、仕事をこなすメインマシンとして活躍していた。
Z400
Z400はグレードは高いマシンだが、なんといっても2010年製であり、Xeon W3565は初代Core i7xに近いものだ。 性能的にもそれほど目立ったものでもなく(それでも現代においても普通に使えるくらいの性能なのはなかなかすごいことだとは思うが)、ビデオカードはQuadro 2000からGeForce GTX750Tiに載せ替えてはいるものの、現代基準ではなかなか厳しいところである。
また、USB3を搭載していなかったり、SATA2だったりと規格の古さも痛い。帯域に余裕があることもあり、色々な拡張カードを使ってHDDを10台載せたりとか無茶に耐えてくれたマシンだが、ボタン電池を替えても電源を失うと設定が飛ぶといった問題があったり、もうできればゆっくり余生を過ごさせてあげたいマシンだ。
リビングに置かれ、YouTubeやPrime Videoの再生が主な用途となっていた。
自作 (A10-7870K/Fatal1ty FM2A88X+ Killer)
A10は当時でもあまりグレードの高いものではない。当時のAMD APUとしては最高グレードのものを搭載するが(そもそも実はもともとはA10-7850Kを積んでいて、不良交換で7870Kになった)、APU自体がそんなにグレードの高いものではなかったこと、さらに当時のAMDは性能的に非常に厳しかったこともあり、性能には見どころに乏しい。
実際の性能としてはZ400よりも少し下である。体感としても差は小さいが劣ると感じる。
だが、ビデオカードを載せていないので、アイドル時で50W、通常利用で80W程度というのは私の手持ちの中ではサーバーやアプライアンスを除けば最も省エネである。
マザーボードにFatal1ty FM2A88X+ Killerを使っているのもこのマシンの存在価値を高めている。 8ポートのSATA、S/PDIF入力、サラウンド音声などを備え、音も割といい。このため、日常的な利用だと割と「使えるヤツ」なのだが、処理性能に関しては「もうちょっとあったら嬉しいのにな」という気持ちは否めない。
寝室に置かれ、朝や夜に動画を見たり、Twitterをしたり、チャットしたり、あるいはゲームしたりといったリラックスした余暇時間を過ごすのに活用していた。
組むに至った動機
そもそも組みたかった
Zen2コアのRyzenの性能があまりにも魅力的すぎて、Zen2で組んでみたいという気持ちはそもそもあったのだが、決定的だったのはRyzen7 3700Xのワッパを知ったとき。
Ryzen9 3950XやRyzen Threadripper 3990Xで組みたいという気持ちは「モア性能」心理からもちろんあったのだけど、特に今この瞬間はその計算力を必要としてない(要は600馬力のスーパーカーを買うような心理だ)ので「欲しいけど切実に欲しいわけじゃない」状態だった。
が、3700Xほどワッパがいいとなると欲しくなる。それだって今すぐ必要なわけじゃないんだけども。 (計算中ずっと600W越えてる爆熱マシンを使っていたことがあるのでワッパ大事と痛感している)
A10が起動しなくなった
これが最大の理由
ThinkPad X1 Carbonが壊れて修理に出したのだが、ストレージをZ400に使っていたので、修理に出すためにそのストレージを戻してあげる必要があり、これによりZ400が使えなくなった。
同じタイミングでA10のストレージがいっぱいになってしまったので、より大きいストレージに換装した。
のだが、換装したあと最初は起動したのだが、翌日起動しなくなってしまった。色々とチェックしたのだが、どうしても起動しない。
最近は仕事の疲れを寝室でのゆっくりした時間でなんとか癒やしているような状態なので、これは精神的にもキツイ。というより、具体的な支障はないだろうと思っていたのだが、思ってたよりずっと辛かった。 (ちなみに、最近はワークルームにアロマを入れたりとかして、とにかくリラックスできるように神経を使っていたりする)
このタイミングでの出費は痛かったが、そもそも3700XをメインにしてP720を寝室に下げることは考えていたので、このまま放置しても仕方ないということで導入を決めた。
なお、結局は「電源スイッチの配線ミス」であることが発覚し、A10は復活した。最初にちゃんと電源が入ったため、問題の特定に失敗した。なんで入った……
SETA A1ケースに惚れた
なんとなくPCケースを調べていたときに見つけたSETA A1のローズゴールドがかっこ良すぎて、どうしてもこれで1台組みたいと思ってしまっていた。
P720にキレた
前述のようにP720はLinux上で非常に不安定で、使いにくいので許容できない気持ちになっていた。
このことから、メインPCを3700Xにし、P720を寝室に下げるという計画があった。 ハッキリいって、二度とLenovoのワークステーションは買わない。拡張性もないし、めちゃくちゃ使いにくい上に、こんなに安定性がないのでは話にならない。
この状態でもP720は普通に使える状態であるため、並列性を必要とするタスク、あるいは並列性による性能向上をチェックする必要があるタスクにおいてはP720を活用できるのがポイント。
構成
具体的構成
テーマは
- ワッパ
- 安定
- 多画面
- Linux
である。
SSDに関してはLinuxは総合的な速度を求め、仕事でDTMで使うWindowsはSeq read重視である。
なお、メモリについては安定性でCFDのものを推奨してもらったのだが、キャンペーンで割引される対象になかったため、速度的にお勧めされていたG.Skillのものにした。
Parts | Product |
---|---|
CPU | AMD Ryzen7 3700X |
マザーボード | GIGABYTE B550 AORUS ELITE |
ビデオカード | SAPPHIRE NITRO+ RADEON RX 5700 XT 8G GDDR6 |
メモリ | G.Skill F4-3200C16D-32GFX |
SSD (Linux) | Crucial P5 250GB |
SSD (Windows) | hp SSD EX920 M.2 1TB |
電源 | Antec NE750 GOLD |
ケース | SilverStone SETA A1 ローズゴールド |
追加ケースファン | Scythe KF1425FD18-P |
ビデオカードがCPUのワッパを台無しにしてる感があるのが若干残念なところではある。
トータルで(Windows Homeも含め)約19万円。 安定性を求めて全体的に品質的に少し良い目のパーツを選んでいるため、性能の割にはちょっと高めになっている。ただ、性能を考えればえらい安いものだと思う。50万円くらいするP720よりずっと高性能なのだから…
構成の詳細解説
この節はPCハードウェアに詳しくない人のための詳細な話だ。
そもそもP720に使われているハードウェアは特殊なものであり、ハードウェア部分以外を含めても特殊なものである。 要点をまとめると、
- 通常は性能はかなり低いが、スレッド数の多い並列タスク(ほとんどの人には無縁)では異次元の性能を発揮
- PCと比べ安定性を追求している
- Lenovoの人が家に来て修理してくれるなどの特別なサポートがある
というところになる。 だが、実際はLinuxで全く安定していないことと、Lenovoのサポートの質がよくない(この言い方も微妙ではあるのだが、少なくとも難しい問題には弱い)ことから台無しであり、だから私は腹を立てているわけだ。
P720を購入したのは2018年で2年前になる。 AMDがRyzenを発売する前は、Intelの天下だった。そのIntelがサーバー向けに販売するプロセッサを2機積んだ、非常に豪華なものであり、PCでは到底出ない性能であった。
だが、Ryzenが出るといきなり話が変わってしまった。IntelのCPUは結構長い間、劇的には性能が上がっていなかったのだが、Ryzenはそれを塗り替えるようなものだったのだ。
特に2017年の夏に出たRyzen Threadripper 1950Xは非常に魅力的だった。 16コア32スレッドというのは、私のマシンの20コア40スレッドと比べると数こそ少ないが、16のリッチコアを備えるため処理性能としてはとんでもないものだった。 4114も性能をフルに使い切ればそこまで大きく引けを取らないのだが、そういう状況はあまりにも限られるため実用上の性能差は非常に大きい。
もちろん、1950Xマシンというのも考えた。 だが、まず1950Xは相当な争奪戦になっていたし、業務で使う以上安定して稼働できることが必要だった。だから、業務のメインマシンとしてあまり自作はしたくないというのもあったのだ。(結果的には安定性を優先した選択は無残な結果になったわけだが)
また、まだ入手はできかなったが、その後継であるRyzen Threadripper 2990WXというCPUも登場していた。 32コアものリッチコアを備えるこのCPUは、もはや私の理解を超越していた……のだが、これは結構高かった。とはいえ、P720と比べても、ということではないので、場合によっては2990WXを待つという考え方もできたのかもしれない。
もちろん、結果的にはRyzenを選択するのが正しかったことは、割とすぐに理解できた。だが、この時点ではまだ私の選択にもそれなりに理はあったと考えられるレベルであった。
だが、新しいZen2コアを採用した新しいRyzenは本当に時代が変わるような性能だった。
データ解析というのは、計算量爆発するような無駄な計算はいくらでもできるが、ちゃんと適切なアルゴリズムで計算できている限り所要時間というのはデータ量に依存する。 データ増加速度よりも計算力が低ければ、解析すべきデータは増え続け、決して間に合わない。これが重要なポイントであり、 Xeon Silver 4114を2機積んでも、データ増加よりも速く計算することはできていない。
ただし、これは際限なくデータが増加することが前提なのだが、データ増加速度にはインターネット回線の速度が関係してくるし(私はインターネット以外のソースでもデータが増えているのだが)、増加可能な量には増やすことができるストレージの量にも左右される。
さらにストレージの増加は消費電力増加にもつながるため、実際に家でやる分には割とはっきりした「データ増加量と速度の限界」というものが存在する。
これを計算力が上回ると「どうやってもそのCPUをフルに使うことはできない」状態に至る。もちろん、新たな計算タスクを生み出さなければ、ではあるが。
そして、Ryzen9 3900Xはこれを上回る。だから、Ryzen9 3950Xプロセッサは、私が書くプログラムではさらなる価値を生み出せないプロセッサである。その上にRyzen Threadripper 3970XとRyzen Threadripper 3990Xがある。私が入手できるデータの限界、私が書けるプログラムの限界を越えたシロモノで、もはや私程度ではその真価を発揮できない、想像すらできないプロセッサなのだ。
当然ながら日常的な利用でそんな性能の価値は全くない。 だが、消費電力というのは常に関係してくる。
消費電力なんてケチな話だと思うかもしれないが、前述の通り実際に利用可能な計算力の限界には消費電力が大きく関わり、スーパーコンピュータにおいても省電力であることは重要である。 この性能は1Wあたりの計算力というワットパフォーマンス、略してワッパで表される。
Ryzen7 3700Xは計算力そのものは私が想定可能なレベルのものだ。上にちょっと地味なRyzen7 3800Xがあり、その上に計算力モンスターなRyzen9 3900Xがいる。先代のRyzenプロセッサと比べても、同クラスの性能としては著しく上がっているが、先代の上位モデルの方が速かったためインパクトに乏しく、「手頃な価格で性能のいいプロセッサ」くらいに見られがちだ。 私としても、フルロード時に関して言えば4114と大差ない、というかむしろ若干劣るぐらいなので馴染みのある性能である。
だが、このRyzen7 3700Xというプロセッサ、TDPが65Wしかない。 TDPというのは熱設計電力であり、電力のほとんどが熱に変換されるコンピュータプロセッサにおいては、「この製品はこれぐらいの熱を発生させるので、少なくともそれを冷却できるようにしてくださいね」という表示なのだが、これはほぼ消費電力になる。
A10-7870Kは95W、Xeon W3565は130W、Xeon Silver 4114が85Wである。 「Xeon Silverが85Wで、同じぐらいの性能のRyzen7 3700Xが65Wか」という理解は正しくない。Xeon Silver 4114 2機と同じくらいなのだから、170Wだ。
そして実際に、3700Xのワッパは突出しており、ことワッパに関して言えば最新Ryzenの中でも異次元である。なお、ビデオカード込のシステム的な電力性能で考えるとRyzen7 Pro 4750Gも相当ヤバイが。
そしてシングルコア性能が4114とは比べ物にならない。20コアの性能を8コアで出すのだ(Ryzen7 3700Xは8コア16スレッドである)。難しく考えなくても、特殊な用途じゃなくても、常に速い。だから、実用的には4114と「同等」では全くない。
基本的にワッパに優れたCPUというのは「優れたプロセッサ」だと考えて良い。 3700Xは間違いなく今「買い」なCPUなのだ。
そんな3700Xを中心に考えている。省電力であることは熱も少ないので総合的に見て楽だ。
それを支えるマザーボードについては、現代においてはあまり複雑な要求はない(昔はマザーボードにたくさんのチップが載っていたのでマザーボードに全体の性能が左右されていた)。 マザーボードはかなりピンキリなものだが、あまり高いものではなく、かつ安定性が高いものを選んだ。
メモリは安定性を求めたかったが、できなかったので割と良いとされたものを選んだ。
ビデオカードは少し要件が特殊であり、私はできれば4kのディスプレイを4枚出したいと考えている。 そして、4kディスプレイ1枚描くためにはビデオメモリとしては2GB欲しい。実際、2GBのメモリで4kを1枚とFHDを1枚出したら、ちょいちょい落ちた。
ということは4kを4枚出すなら8GBのビデオメモリが必要となる。のだが、Radeonに関してはRX5500XTは基本4GB、RX5600XTは基本が6GBで足りない(RX5500XTの8GBというのもある。ただし、RX5500XTは性能がRX580と同じくらいで、RX580は4kを2枚でもLinuxだと割といっぱいいっぱいなので若干不安がある)。 その上は5700だが、5700はあまりコスパが良くない上に製品も乏しい。電力的には5500XT 8GB! という思いを持ちつつも、性能が不足する可能性を憂慮して5700XTにした。 RX580もSAPPHIRE製の高性能モデルを使っていて、良い結果を得られていることから、今回もSAPPHIRE製とした。
なお、一般的にはNvidia GeForceのほうが良いとされるのだが、Linuxのnvidiaドライバがだいぶ腐ってきていて、ウィンドウがちらつくという問題に悩まされる(特にスクリーンキャストやスクリーンショットでひどい)ので避けた。最近のAMDはLinuxでとても安定だ。
SSDはシステム向けのストレージで、高消費電力だが高速なNVMeのもの。 P720でもLinuxはNVMe SSDを使っているのだが、Linuxに採用したほうはそれと比べても高速だ。 一方、WindowsのほうはDTMソフトウェアが非常に大きな容量のファイルを何度も読み込む関係で読みの速度重視。こちらはP720のLinux用のものに近い性能である。 これに加えてローカルキャッシュ用のSATA SSDも搭載するが、こちらはP720からの移植になる。
電源は品質的に良いもの、ケースはデザイン的に気に入ったものをチョイスした。
ワークステーションをやめた理由
私は割と長くワークステーションユーザーだったのだが、今回メインとして使うために自作PCを投入することになった。
ワークステーションを使う理由は、性能面よりも安定稼働とサポートという面が大きい。付加的な理由としては、業務上のプロモーション要素というのもあるが。
ではなぜ今回ワークステーションをやめたのか。 もちろん、Intelのワークステーションプロセッサの消費電力がめちゃめちゃ大きくなってしまっていることと、性能があまり出ていないという理由もあるが、「手厚いサポートと安定性が得られるワークステーション1台の金額で、それより性能の高いPCを2台買えるようになったから」だ。
私の経験的に言うと、業務継続性という点では安定したマシンと強力なサポートの組み合わせより、すぐに変わらずに業務を遂行できるスペアがあるほうが優れている。 もちろん、それを修理に出す手間はより大きいが、それは時間があるときにアキバ散策ついでに修理に出せば良いわけで、「同等性能のPCが半額で買えればワークステーションを買う意義はない」は私は結構前から言っていた。
なお、今回はそもそもP720が生きており、P720をスペア扱いにできるためスペアマシンは買っていない。
ざっくり性能
先に注意点
なぜかCrucial P5が認識されない、というか途中で認識を見失ってしまうという問題があり、まともに使えなかったため、P720に搭載しているSamsung 960Evoと入れ替えて利用した。
そのため、期待よりもI/O性能がだいぶ低くなっている。
その後P5に戻したが、Unigine Heavenは960Evoを使って計測した。
Unigine Heaven
みんな大好きベンチマークの話からしよう。
私はLinuxではUnigine Heavenを使っている。特に参考になるわけでもないのだが、数値的な話だ。
1600x900 8xAA windowed/Extremeでの計測で
FPS: 132.3
Score: 3332
Min FPS: 17.2
Max FPS: 279.1
P720は
FPS: 63.0
Score: 1586
Min FPS: 8.9
Max FPS: 141.6
となる。
ざっくり倍で、RX580とRX5700XTに結構な性能差があることを感じる。 なお、ちゃんと比較したい人はPhoronixのRX5700XTの記事とRX580 OC 8Gの記事を読むと良い。 RX5700XTは当初ですらRX590比で1.5倍程度の性能が出ており、さらにここまでで15%くらい性能が伸びている(ソフトウェア的理由で)ことから、両者を直接比較した記事はPhoronixにはない。
別にベンチマークでスコアを出すことを想定してやっているわけではなく、私の実際に普段使う環境下で、条件を揃えているので、あくまで両者の値を比較するために使ってほしい。
計測
対象としてこんなファイルを用意した。
-rw-r--r-- 1 haruka haruka 860M 5月 31 01:35 200531012718.mkv
9分ほどのH.264動画である。
ともにガバナーはPerformanceを使用。ファイルはtmpfsに置いて実施した。
コマンド | マシン | user | system | cpu | total |
---|---|---|---|---|---|
xz -kT0 200531012718.mkv |
B550 | 405.95s | 1.77s | 1285% | 31.717 |
xz -kT0 200531012718.mkv |
P720 | 649.91s | 9.04s | 2947% | 22.359 |
xz -keT0 200531012718.mkv |
B550 | 417.58s | 1.69s | 1283% | 32.657 |
xz -keT0 200531012718.mkv |
P720 | 676.69s | 11.06s | 2953% | 23.288 |
ffmpeg -i 200531012718.mkv -c:v libx265 -crf 23 -an 200531012718.mp4 |
B550 | 3992.43s | 18.71s | 984% | 6:47.46 |
ffmpeg -i 200531012718.mkv -c:v libx265 -crf 23 -an 200531012718.mp4 |
P720 | 8708.43s | 83.75s | 1414% | 10:21.42 |
なかなか興味深い結果となった。
xz
はLZMA圧縮で、スレッド数が増えれば増えただけ速くなるタイプのプログラムである。
P720が40スレッド、B550は16スレッドであるため、スレッド数はP720が2.5倍ある。
CPU利用率が3700Xの1285%に対してP720が2947%というのは、約2.29倍であり、CPUのスレッド数がフルに活用されたことを示唆している。
そして、その結果P720のほうが約42%高速であった。 これは、P720が「リニアに並列化した場合、極端に速いマシンに化ける印象がある」という私の印象そのままの結果と言っていいだろう。
だが、user時間に関しては3700Xは約62.5%程度に収まっている。かなり効率が良く、シングルスレッド性能が高いことがうかがえる。また、system時間がP720は結構長いのも特徴的だ。いくらかは、同じDDR4ながら3700Xのほうが速いメモリであることも影響しているかもしれない。
一方、libx265を使ったffmpegのテストでは3700Xのほうが約52.5%高速だった。 libx265も並列化されているものの、xzと比べると十分に並列化されているとは言い難く、CPU利用率は3700Xが61.5%なのに対し、P720は35.35%に留まっているのがその差を生んだと考えていいだろう。
4114のように「コア数が多い」ことに主眼が置かれたプロセッサで性能を発揮するには、単に「並列化されている」というレベルではダメで、スレッドがあればあるだけ速くなるような実装が必要である。 それと比べると3700Xのように、コア性能が高いタイプは安定して高性能を発揮する。明らかに日常的な場面でも使いやすい。
コア数が多いプロセッサは非常に多くのプロセスを起動する場合に強いとか、プロセスが暴走したときに耐えやすいといったメリットもあるのだが、やはり「特殊なケースにおいて強い」ということには変わりがなく、いささか使いにくい。
なお、3950Xは32コア64スレッドでありながらシングルスレッド性能も3700Xを上回る。そう考えると、さぞすごいのだろう…
実タスク体感
まず最初に感じるのはフレームバッファが爆速なことだ。
かなり高性能なビデオカードでもフレームバッファは遅く、UEFIのセットアップ画面、Grubの画面などは基本的に反応が悪いものだ。 それが「多少の遅延」くらいで収まっていて、びっくりしてしまう。
実際に使っていると時間あたりの処理量よりも反応速度のほうが気になることが多いものだが、これがP720と比べても圧倒的に速く、非常に快適。 これだけ反応がよくなると、マウスのトラッキング性能ももっと突き詰めたくなる。なんかゲーミングマウスパッドでも買ってみようかな。
ビデオカードの性能向上は(ビデオカードのアクセラレーションの効く)Cinnamonを使っている私としては全体的なレスポンスが良く、非常に快適なエクスペリエンスが得られている。 ストレージ性能の向上もあり、従来と比べ圧倒的に細かな待ち時間が減った。
コンパイルは明らかにP720と比べて速い。私はパッケージリリースの関係で結構連続で重いコンパイルをしたりするのだが、「一瞬で終わる」みたいな速度ではないが、1.5-2倍くらいは速い印象だ。 かなり重いコンパイルでもそんなに待たずに終わるようになったので快適。ただ、xzは遅くなった関係で、AURからのブラウザとかのインストールはむしろ時間がかかるようになった。
P720と比較してよくなったか
YES.
一発で体感できる部分としてはビデオカードの性能向上である。 あらゆる場面で描画が速くなって快適だし、VP9 4kのビデオに対してハードウェアアクセラレーションが効くようになったのも非常に大きい。 Linuxだと結構重かったDMMのゲームも結構快適にプレイ可能だ。(通信とかで遅いのはあるが)
CPU性能の向上は特にコンパイル時に感じるが、xzに関して言えば3700Xでは到底足りない。 xzでサクサク圧縮できるようになるのはさらに相当な進化が必要なのだろう。いや、もしかしたら3990Xだとできたりするのかもしれないが。
そもそも日常的なレベルで4114の性能に不満を持つことがあまりなかったため、CPUの性能が上がった恩恵を顕著に感じるわけではない。 ただし、4114はシングルスレッド性能が低いことから、アプリ起動時(特にブラウザ起動時)が目立って遅かったので、3秒くらいで起動するようになったあたり、やっぱりシングルスレッド性能が高いというのは良いことだなと感じはする。 実利としての計算力の向上よりも日常的な体感のほうが大きい。
P720は日常領域を犠牲にして特殊な用途での性能を追求したのだが、今回の3700Xは日常域での性能と使いやすさ重視である。そして、それがまさに出た体感だ。
また、何かと不安定なP720と違って非常に安定しているのも大きい。やはり安定してちゃんと使える、期待に応えてくれるのは大きい。
性能以外の話
消費電力
アイドルで55W、起動時など比較的激しいときで105W程度。 CPUフルロード時(ビデオカードもある程度使ってる)で180Wくらい。
P720がRX580を使って常時100W程度であることから考えると、一回り以上省電力。 RX5700XTなんていうあっついビデオカードを載せてることを考えると期待以上と言っていい。
省電力の極みというわけではないけど、処理性能を考えると本当に驚愕だ。
たまたま見かけた10900k動画で3700Xの威力を示してくれたやかもちさんと、動画コメントでその指摘をしてくれた(見逃していて、コメントで気づいた)山田太郎さん及びあいおらいとさんには感謝しなくては。
音
結構うるさい。
構成としてはSETA A1に140mmのトップクーラーを追加した状態である。
通常時はCPUクーラー(付属のもの)がうるさく、どうすることもできない感じだ。Ryzenで静音構成を目指すならば水冷化が不可欠かもしれない。
一方、ビデオカードは負荷がかからないとクーラーが回らない。FHDにデスクトップ+YouTube程度では回らないが、4k+FHD*2になるとデスクトップでも結構回る。 そして、ビデオカードのファンが回る状態になるとCPUファンもかなりぐわんぐわん回り、だいぶうるさい。
どれくらいかと言うと、「台風とかで外で強風が吹いてるときくらいの音」。
回ったときのうるささで言えばP720だって相当なものだが、それよりもうるさく、ちょっと気になる。
大きさ
幅はDefine R4のようにあるわけではないが、P720と比べても高さがある。
私は机の脚としてルミナスラックを入れ、そこに置く形をとっているのだが、高さがギリギリで、SETA A1はトップに端子があるため、高さが足りず端子が挿せない、という思わぬ問題が起きた。
なお、幅もDefine R4よりは小さいだけで、P720よりもZ400よりも幅もある。本当にでかいケースだ……
組みやすさ
まず、AM4の早着しやすさにびっくりした。
そっとCPUを置くとカタンと入るところがあるので、カタンと入ったらレバーを上げ、ちゃんと入ってるのを確認して優しく下ろし、カタツキがないことを確認するだけ。
また、SETA A1も非常に組みやすいケースだった。中は広く、配線も容易。 少し線の長さがきつめだなと感じるところはあったが、良好。
電源配線は配線をうまく隠せるようになっているが、そこはやや組みにくい。 しかし、そこまで気になるほどではない。穴はもうちょっと工夫した場所に欲しいけど。
Define R4も2つの2.5インチディスクをマザーボード背面に固定できるようになっているが、マザーボードの裏から固定する関係上、付け外しにマザーボードを外す必要があり、かなり大変である。 対して、SETA A1は同じ様に固定するものの、固定する箇所が取り外せるようになっており、かつそれは裏面側から固定するものであり、不自由さはないどころか、普通のベイよりずっと簡単に固定できる。
また、AORUS ELITEも、最難関であるフロントパネル配線が、1つにまとめて配線できるパーツが付属しており、すごくやりやすかった。
全体の作業としてはとにかくRX5700XTがでかくて邪魔で、これさえなければ楽々。あんまり速い段階で取り付けないほうが良さそうだ。
ただ、AORUS ELITEはNVMe SSDのヒートシンクはひとつしかない。
起動速度
電源断からあまり経っていない場合や、再起動時は速いが、初回起動時や、しばらくオフにしていたあとだと結構時間がかかる。
A10マシンはすぐに立ち上がるが、こちらはP720ほどではないではないものの待つ感じがある。
今回の注意点
Realtek r8125 2.5GbE Gaming Ethernet (Linux)
B550に載っているゲーム向けの2.5GbEだけれど、Linuxでサポートされたのは結構最近。
現状のManjaro 20.0.2に入ってるLinux 5.6/Linux5.7は最新まで上げてもr8125のドライバは入らない。 また、最新カーネルであるLinux 5.8も5.8.6時点で未サポート。 まだリリースされていないLinux 5.9はサポート済み。
インストール作業時はUSB-NICなど何らかの別の接続手段が必要になる。
Linux 5.9で電源が切れない
Linux 5.9 RC4では電源を切ろうとすると(サスペンドの場合も含めて)途中でフリーズしてしまう。
No ieq handler for vector (Linux)
このエラーが出る。ブートオプションに acpi=noirq
を追加すれば良い。
GRUB_CMDLINE_LINUX_DEFAULT
でもGRUB_CMDLINE_LINUX
でもいいと思うけど、GRUB_CMDLINE_LINUX
のほうが妥当かな。
要Grub反映。
Grubの画面が出ない (Manjaro Linux)
GRUB_TIMEOUT
は10
がデフォルトになっているものの、GRUB_TIMEOUT_STYLE
がhideen
になってる。
最近同じManjaro Cinnamon 20.0.2から入れたP720はなってなかったのになんでだろう。
menu
に直してGrub反映。
どうやってP5に入れた (Linux)
試行錯誤部分を除くと次の手順である。 なお、960EvoとP5が同容量であるというのがポイント。
- 960Evoのディスク全体をバックアップし、空けられる状態にする
- 960EvoをB550に接続し、インストール
- 960Evoで起動し、最新にアップデートし、Linux 5.9をインストール
- 別のマシンに960EvoとP5の両方を接続する
- 960EvoからP5にディスククローン
- バックアップから960Evoにディスクイメージを復元
- P5をB550に接続し、起動
なお、明確にP5のほうが速い。
adressable RGB (Linux)
SETA A1のフロントパネルはアドレッサブルRGBになっているのだが、Linuxからだとコントロールできないようだ。
CPUクーラーのLEDはコントロール可能。
Windowsのインストール (Windows)
強制的にMicrosoftアカウントを使わさられる
ローカルアカウントを使う、という選択肢が出ない。
LANケーブルを抜いてインストール作業をするほうが良いだろう。
他のディスクを破壊する
disk1, disk2があり、disk2にWindowsをインストールする場合、 何も言わずにdisk1を破壊的に変更し、自身のシステムパーティションを置く。
Windowsインストール時は必ずそれが唯一のディスクになる構成で行うこと。