Chienomi

リモートワークの話

雑感::jobs

リモートワークなら任せろ

私はずっと音楽家だったし、その後に起業しても当然ながら作業自体はリモートになるので、 もうかれこれ20年以上リモートワークをやっていることになる。

というわけで、乗り遅れた感じもあるが、リモートワークの話をしたいと思う。

なお、ここはChienomiなので、主にIT技術者の話をする。 特にこれは、リモートワークをする上での組織づくりやハードルの話である(最後のほうにワーカー向きの話への誘導もある)。 ただし、派遣業や請負の話をするわけではないのでご注意を。

リモートを実現する前提

「業務内容的にできる」というのは、基本的に個人視点であることが多い。

この問題は明確であり、「リモートの良いところ」に「自分の作業に集中できる」が含まれてはいないだろうか?

つまりは、これは良くも悪くも、「他の人のリソースを使うことが難しくなる」ということを意味するのだ。

もちろん緩和策は存在するのだが、いずれにせよリモートワークはその人が最小のコミュニケーションコストで業務の遂行ができることを前提としている。言い換えれば、業務について理解していることと、単独でタスクを消化できる能力を持っていることが前提なのだ。

立場を変えるとこれは問題である。立場を考えて、あなたがまた社会人になりたての新人だと考えてみよう。 当然、業務として何をすればいいのかもわからないし、業務スキルを持って入社したわけでもない。 そういう状況では、教えてもらわねば仕事はできないし、通り一遍教えれば良いという話ではなく、常時フォロー体制があるからこそ業務に馴染んでいけるわけである。

じゃあ新人だけリモートワークでなければ良い、という話ではない。 それではフォローする人間がいない。

おおよそ、リモート主体の考え方というのは即戦力指向と近いものがある。

長期的にみればリモートばかりでやろうとすると事業はやせ細る可能性がある。 フルメンバー出社させる必要はないにせよ、必要に応じてある程度のメンバーを出社させる必要があるだろう。

視点を変えよう。

出社の問題点というのは、その多くが出社するものが負うことになる。 コスト面では会社側の負担もあるが、どちらが目立つかといえば、労働者の負担が目立つ。 その意味で、企業運営という視点からいえば、出社させたほうが問題が少なくマネジメントしやすいのだ。 リモートワークを主体にしようとすると、短期的な問題だけでなく、長期的な問題にも対処していく必要がある。

フルリモートは難しい

仮にリモートワークで支障がない業務であり、なおかつリモートワークで支障を生じないメンバーが揃っているとする。 だが、それでもなお、フルリモートは難しい。

まず、バカバカしいと思うかもしれないが、関係性は重要だ。 人間の心理として、「見慣れている」だけでも親近感や連帯感を持つものであり、チームワークの醸成には役立つ。 「チームワークなど必要ない」と考える人もいるかもしれないが、誰かの損失や困難をカバーできない組織は脆く、また働きづらい。

ひとりでできないからこそ組織になっているわけで、組織としての能力を発揮するためには個々の能力を犠牲にしてでも全体の能力が安定して発揮されるようにする必要がある。

また、リモートワークは前述のように割り込みが減る。 これは、その人のうちにある暗黙の知識が共有されることがないことを意味し、

  • 何らかの勘違いや誤認識がある場合に、その発覚が遅れ問題が拡大する
  • 知覚出来ていない問題が存在する場合に、この問題を他者が察知する機会が減少する
  • 優れたアイディアが埋もれている場合に、そのアイディアを有効なものとして発見する機会が減少する
  • 他者のもつ目下話題にない知見を吸収する機会が減少する

といったデメリットが発生する。

組織運営としてみれば均質化は別としても、問題が共有されており、問題を発見するチャンスは多いほうが良い。 それに、個人としてもこうした雑多な知見が入り乱れることは知識の吸収や成長を促進するのでメリットだと考えて良い。

これはリモートかどうかにかかわらないが、「雑談機会が多いこと」は良いことなのだ。

もちろん、リモートでもチャットや通話を利用してこれらのデメリットを緩和することはできる。 だ゛か、常時通話に参加していなければならないのは負担が大きいし、Slackで監視するなどというのもバカバカしい。 そして、Slackで共有されているとしても、割り込みは「自分の手をとめて、明示的に」行うことになるのでハードルが高く、思いとどまるケースも増えるだろう。

また、顔を合わせていれば何も言わなくても好不調などはわかることもあり、暗黙かつ事前に察知できるようなこともある。 融通がきき、フォローしやすいチームであればそのチームが成立するか否かをわけることすらあるレベルだ。

問題の本質は「一律に強制する」ことにある

私の経験から言えば、フルリモートで良いケースというのは、本当になにをすべきかが完全に明瞭である場合だ。

音楽の仕事なら、馴染みのあるプロダクションからシナリオなりスクリプトなり渡されて、 「これに合った楽曲を指示書に従って作ってください。音楽傾向は〇〇で」 みたいに言われれば、フルリモートでもあんまり問題ない。 出来上がったものをどんどん上げていけば、修正が必要な場合は次を作っている間には来る。

ITでは比較的少ないと思うのだが、私の事業だと、ウェブサイトの制作は最低プランがテンプレートから選ぶのが基本で、素材埋め込みになっている。 なので、このプランの発注だと、何を用意する必要があるか、それはどのような形式かといったことを説明したマニュアルは存在するので、それを送って、あとは先方が素材を送ってくれればそれを組み込んで作るだけである。なので、これもフルリモートでできる (だが、実際はこのプランの受注実績はないので架空の話だ)。

しかし、実際には発注者の意図を正しく汲み取れていないと大きな損失になるので、やはりちゃんと打ち合わせはしたい。 ましてチーム作業で取りまとめる側になったりすると、私自身は契約上出向かなくてもよかったりしたとしても(さすがに「全く」出向かなくてよかったケースはないが)やはり現場にいかないとその人の考えてることや実力が把握できなかったりする。

フルリモートになると、それらの問題が「リモートでも発生しないように」する必要があり、 これはあなたがIT技術者であるならばどれほど困難で不可能なことなのかというのは、「バグが発生しないようにする」「障害が発生しないようにする」という類似の話ですぐ理解できるだろう。

一方、そのデメリットを考慮して「一切のリモートワークを認めない」というのが妥当な理由も、あまりない。

結局、妥当な理由がないのに一律で強制することに問題があるのであり、

  • 良いバランスでやるのが良い
  • 等しく扱うのではなく個別の事情によりそって柔軟にするほうが良い

という当たり前のところに帰結するのである。

例えばの話

放っておけば必要に応じて勝手に調整して出社するようなメンバーから成り立っているのであれば、出社は任意で良い。

これは、単純な技術力だけでなく、見通しやスケジュールなどを立てる力や、コミュニケーション能力、全体を俯瞰する戦術力などを兼ね備えている人であることを意味する。 また、自己管理に関わること(体調面や働きすぎ、仕事とのモード切替など)もできる必要があるだろう。

これは自分ができるだけでなく、チーム全体にとって必要なものを過不足なく出力できるということも意味している。

ではそこに未熟な新人が加わったらどうだろう?

ベテラン4人、新人4人だとする。新人は前述の条件を満たせるようになるまで原則出社させたほうが良いだろう。 だが、新人だけを出社させてもあまり意味がない。「エンジニア見習いの会」が傷の舐めあいや裏付けのない的はずれな議論になりがちなのと同じことで、わからない人だけ集めても仕方ないのだ。 そして、リーダーなりマネージャーなりがいても、非常に効率が悪く非活発な状態になってしまう。

そのため、ベテランが新人チームに顔を出し、刺激していくようなことが必要になる。 まぁ、「新人チームにベテランが遊びにくる」みたいな感じが良いだろう。もちろん、ベテランが新人チームに嫌われてしまっては困ってしまうが。

それぞれのスタイルや知識の違い、そして「話しやすいかどうか」などもあるので、人は固定でないほうが良い。 頻度を統一する必要もないと思うが。

そして、「可能ならタイミングを合わせる」ようにすることでベテランチームの顔合わせが発生する。 前述の条件が満たされているなら、顔を合わせたほうが良い頻度やタイミングは、自動的にうまく調整されるだろう。

ではベテラン4人、新人4人、実力はあるが前述の条件を満たせない人4人ならどうか?

この場合、第三グループはスケジュール出社したほうが良いだろう。出社の判断を任せるには足りないものがあるが、作業自体はできるわけで常に出社する理由は乏しい。 また、新人へのフォローにも入れることから、ベテランチームの出社頻度はより下がるだろう。

ここらへんはマネジメント論でもあり、私の意見にすぎないことを念の為付記しておきたい。

リモートワークへの移行

どのような方法でデメリットを緩和するとしても、リモートワークへ移行する以上個人主義への移行が必要であることを意味する。 つまり、評価手法や、タスクの振り分け方、チームのあり方などを新しい形に変えていかねばならないということだ。 単に現状の業務をそのままリモートで行うのではなく、組織改革も含めて会社や仕事のあり方を変化させる必要がある。

メリット・デメリットというのはどちらかといえば単純に物事を考えたときの話であり、それらを前提として考える場合、その捉え方は大き異なってくる。 つまり、今の仕事をリモートに移行させるのではなく、リモートでの仕事を行うことを前提とすることでリモートワークが可能で効率が良い形がどのようなものか分かってくるだろうし、どの程度のリモートワークが可能かということも明らかになってくるだろう。

ワーカーにとってのリモートワーク

ワーカーにとってリモートワークはどのようにすると良いのかということについては別のブログで掲載している

重要なポイントは要約すると次のとおりである。

  • リモートワークを実現するために根本的な考え方を変える必要があるのはワーカーにとっても同じである
  • 家にコストをかけたほうが良い。在宅ワーカーの家賃の比率が高くなるのは自然なこと
  • 水道光熱費の増加に意識を配る必要がある
  • デスクとチェアは高度な「姿勢と環境」に関わるので、重要な要素だが、深い考察と経験が必要
  • 静寂を保ったり、あるいは集中力を高める音を流すなど音に対する配慮が必要
  • 孤独に心を蝕まれたり、集中力を失ったりしないように注意
  • オン/オフの手段の確立が重要

なお、同居人との上手な仕事との棲み分けはまた別の話である。