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Ryzen7ラップトップをデスクトップ的に使ってみた

Live With Linux::hardware

最近、Ryzen 7 5700Uを搭載するラップトップであるLenovo IdeaPad Slim 360 (17)をデスクトップのように、つまりモニターやキーボードなどを繋いで使用する運用をしている。

私が思うに、近年のラップトップ(Intelでいえば12世代以降、AMDで言えばZen3以降くらい)はかなり性能が高いため、一般的な利用であればもはやデスクトップの必要性というのはかなり疑問である。

そこで実際にラップトップをデスクトップの代わりに使うのは、デスクトップを使うのと比べてどうか……という話をするところである。

もっとも、私がその話をした頃と比べると、「PCゲーム」というものがより一般的になり、「PCを使うのはゲームのため」というユーザーが多いため、却って一時期と比べてラップトップよりデスクトップのほうが「一般的なPC」になっている可能性はあるが、ここでは「ゲームではない」用途の話をする。

PCを選択する上で、デスクトップにすべきか、ラップトップで良いかと悩んでいる人には参考になる話かもしれない。

また、今回の話はいわゆる「据え置きラップトップ」として使う話なので、どちらかといえば15インチや17インチなど、携行性の低いPCを自宅で使うことを想定した状況の話だと思って欲しい。 ウルトラブックのような高性能モバイルラップトップを同じように使っても良いのだが、消耗を気にしたり、ケーブルをつけ外ししたりを考えれば適性は低い。

ラップトップの紹介

以前の記事で詳しく書いているので概要だけだが

  • 17.3インチディスプレイ
  • Ryzen 7 5700U APU
  • 8GB RAM (4GB Board, 4GB DIMM)
  • 512GB PCIe NVMe SSD
  • 2.2kg

というものである。

非常に安価であるのが魅力だが、安価すぎてひどいものでもあり、まず筐体がものすごくやわらかいプラスチックでできていて、ネジで筐体が削れてネジが外れてしまう……みたいなこともよくある。

また、底面のネジを締めるとキーボード面を貫通してネジが出てきてしまうし、キーボードはたわんでものすごく打ちにくいし、正直ラップトップとしてはだいぶ終わっている。

17.3インチの大きなディスプレイは単体で使った場合に広いスペースを確保できるが、テンキーつきキーボードになるため打ちにくい。 また、大きいためにデスク上では結構邪魔で、さらに底面に厚みがあって手前がスラントしているためにスタンドにものすごく載せにくい(落ちてしまう)という欠点もある。

経緯

主にお皿を洗っているときに動画を流す用として購入した。 あと、Windowsを起動しているときなど、手元に別のLinux環境が欲しいときにサブとして活用する目的もある。

購入したはいいが、そもそもラップトップとして終わっているのと、電源を切っていてもスリープにしていても2日もすればバッテリーが空になるという意味不明なパワーマネジメント、そして微妙すぎる性能から活躍の場はかなり少なかった。

ThinkPad X1 Carbon gen5はスリープにしていると1ヶ月くらいはもつため、スリープにしておいて必要なときに開くような運用が可能なのだが、IdeaPadの場合これができないのだ。

微妙すぎる性能というのは、cpu governerがpowersaveだとウェブページを開くのもなかなか大変というレベルで性能が低く、performanceだとラップトップとして相当微妙なレベルで電力を使うという問題である。 schedutilも、まあまあラップトップとしては許されないレベルのガバ電力であったし、performanceやschedutilにしている場合排熱的にも厳しい。

状況が大きく変わったのはamd-pstate-eppドライバが導入されたこと。 これにより、powersaveでもperformanceでもより動的に電力を調整し、必要なパフォーマンスを出すようになった。 つまり、powersaveは電気使わないだけで実用性がないという問題が改善したわけである。それによりpowersaveの省電力性は下がったが、必要な性能が出なければどのみちなので、全面的に良い効果だと言える。

これは従来schedutilを使っていたデスクトップでも大きな効果を上げたが、powersave運用が基本であったラップトップではより大きい。

私の環境だとサーバー類を除いて必要なPCは4台で、

  • ワークルームデスクトップ (5950X)
  • メインデスクトップフルロード時用のサブデスクトップ (Z400)
  • リビング (P720)
  • 寝室 (5600X)

である。

カッコ内が従来実際に運用されてきたマシンであるが、まずZ400は堅調とはいえいくらなんでもそろそろ退役させたい。 なにせ初代Coreと同世代のXeonなワークステーションである。 色々な規格が古いということによる面倒要素もある。

そしてP720は結構「勝手に再起動する」という問題が増えて、もうさすがに使っているのが苦しくなった。 覚えている人がいるか分からないが、P720は初期からUSBが機能しないとか勝手に再起動するとか問題を抱えたもので、しかも3年オンサイト保守契約していたのに2年目に修理に出そうとしたらサポート切れ扱いされてサポートに連絡できなかったという最悪の代物である。 こいつに関しては本当にロクな思い出がない。

で、結果的にP720をリビングPCから外し、ついでにZ400も退役(仮)させてリビングとサブPCをIdeaPadにまかせてみた。

リビングでラップトップ

基本的にはリビングでの用途というのは動画再生で、つまりリビングの大きなディスプレイにつなぐというのが一番のポイントになる。

一応、リビングでの私の環境としては

  • ディスプレイ
  • イーサネットケーブル
  • キーボード
  • マウス
  • オーディオインターフェイス

の5つのデバイスを接続する必要があり、個別に接続すると面倒(というかそもそもポートが足りない)である。

デスクトップを使う場合、これらのデバイスを繋ぎっぱなしにできるというのは大きい。

普通なら立ち上がりの問題もあると思うのだが、P720はとにかく起動に時間がかかるため、この点はむしろ短縮できている。

動画再生に関わる部分だが、最近のYouTubeはめっぽう重く、Xeon Silver 4114だとperformance governerを使ってもかなりストレスを感じるレベルで重い。 この点、5700Uになったことによりシングルスレッドパフォーマンスが大きく向上し、重いけど厳しくはない程度になった。

デバイスの接続については、ディスプレイのHDMIと、他のデバイスをまとめたUSBハブという2つを接続している形を取っている。 無線のキーボードとマウスを接続する関係上、USB2.0ポートに接続する形になっており、これだと1GbEの性能が出ない。 が、うちの場合インターネットがVDSLで最高でも100Mbpsあたりになるため、全く気にならない。

ただUSB2.0ポートが右、HDMIポートが左にあることから、テレビ台にしまうのが難しい。ディスプレイを動かしたいときに若干不便さを感じる。

ついでに言うと、バッテリーマイレージが30分くらいしかないため常に電源接続が必要であり、これも割と邪魔になる。

「P720が駄目だった」という点を除くと、基本的には専用のデスクトップがあったほうが良いかなとは思う。 「30分くらいリビングで休憩」みたいな状態も多々あるので、セットアップに時間がかかるのはあまり好ましくないように思うところではある。

ただ、後述する「まとめた効果」というメリットがあるのと、使用頻度的にリビングに置きっぱなしになることも多いためにデメリットを感じにくいということもあり、P720からの更新という意味ではトータルでは良かったように感じている。

サブPCとしてラップトップ

サブPCの環境ではオーディオインターフェイスへの接続が不要になって

  • ディスプレイ
  • イーサネットケーブル
  • キーボード
  • マウス

という4台接続である。 (場合によってはオーディオケーブルをつなぐこともある。)

加えて電源ケーブルだが、トータルの面倒くささとしてはリビングにセットアップするときとあまり変わらない。 ワークルームのほうはそういう作業をしやすい環境になっているから多少マシな程度。

置き換え元がXeon W3565を使うZ400なので、性能差はかなり大きい。 Z400の性能はさすがに何をするにも重いため、ストレスのない性能を発揮できるという点は大きく、置き換えのメリットも大きい。

また、Z400の場合はかなり奥まった場所にあり、机の下にもぐりこんで電源スイッチを押す必要があった。 こうした理由からセットアップに時間がかかることは、リビングと比べて相対的に気にならない。 もちろん、頻度としてもメインPCがフルロードであるときに限られるために少ないことからなおさら気にならない。

そして、「頻度が非常に少ない環境を維持する」という点もかなりのメリットになっている。

というのも、Z400をサブPCとして専用環境にしていると、システムのアップデートや共有ファイルの同期など定期的にメンテナンスを必要とするわけだが、圧倒的に「メンテナンスの頻度<利用の頻度」であるためこのメンテナンスがめんどくさい上に、メンテナンスを怠ってしまっていざというときにまずメンテナンスから始めなくてはいけなかったりする。

この点、他の用途でも起動するIdeaPadは必然的に最新環境に保たれることとなり、「わざわざメンテナンスしなければいけない」という要素がなくなってかなり楽になる。

こうしたことから、サブPCとしてのIdeaPadは非常に効果的に機能している。

寝室は現実的ではない

寝室もまとめられそうなものだが、実際は難しい。

まずデバイス数だ。 寝室PCに接続されているのは

  • キーボード
  • マウス
  • ディスプレイ
  • ディスプレイ
  • オーディオインターフェイス
  • ゲームパッド
  • USB-SSD
  • USB-SSD
  • USB-SSD

で数が多い上に帯域も必要で、ラップトップでやろうとするとかなりきつい。

しかも寝室PCは内蔵されているSSDも3台あり、ラップトップでやる場合USB-SSDが最低1台は増える。

さらに寝室PCでゲームしてることが結構多いという現状を考えると、明らかに寝室PCはデスクトップが適切であり、B550+5600X+RX5700XTという構成は「適切に低い」のレベルであることから、ラップトップに置き換えることは現実的ではなかった。

「まとめる」ことの効果

今回の変更で、P720とZ400とIdeaPadという従来3台で運用されてたものが1台にまとめられた。

もちろん、1台が兼務することになったためにデバイスのつけ外しが発生し、セットアップの手間というものが生まれたわけだが、一方で「1台にまとめた」ことに良いこともある。

まず台数が増えるとそれなりにメンテナンスの手間というのが発生する。 私の環境で言えば、パッケージ(システム)アップデートと同期ファイル(MEGA)の同期が主だが、システムアップデートで手作業で片付ける必要がある場合もある。 さらに、インストールに使ったメディアのバージョンによりシステムの構成が少し違ったりして、パッケージキャッシュを共有していてもうまくいかなかったり、手作業メンテナンスも環境ごとにちょっと違ったりする。

AURパッケージを含んでいると話はより厄介で、1台個々のアップデートは大して時間もかからないのだが、台数が増えるとそれなりに面倒さを感じる。

そしてこの面倒さを避けるために、使用頻度の低い環境はミニマルな構成になる。 カーネルはLTSカーネルを使うというのもあるけれど、ソフトウェアをいれるほど、またファイル数を増やすほど面倒になるから「最低限」を徹底する方向になるのだ。

私の場合はブラウザプロファイルも用途ごとに完全に分けているが、つまりブラウザ同期などは使っていないのでブラウザプロファイルのセットアップからサービスへのログインなども行わなければならないわけで、それもやはり使わないものは全マシンでセットアップしないし、一定期間使っていないとログアウトされたりするものは使用頻度の低い環境は維持しづらい。

これらはIdeaPadの1台に集約されたことにより、「そのホストで実際に使った用途」が増えるし、利用頻度も上がる。 ウェブサービスへのログインの維持もしやすい。

さらに、例えばリビングのPCに開発系のファイルは置かないし、日記を書く環境も作らない。 それに、SNSもリビングで見ようとはならないからログイン環境も作らない。

が、IdeaPadではそれらはやることはあるため、環境は作ってある。 するとふとした拍子でリビングでSNSしたくなったり日記を書きたくなった場合に、環境はあるのですぐにできる。

この効果は結構大きくて、各場所に専用にセットアップしたものを作るより楽かもしれないとも感じている。

ミニPCでいい問題

前にミニPCが欲しいと言っていた時期がある。

電力的にデスクトップがかなり無駄だと感じていたことと、性能的に45WクラスのAPUを積むミニPCが非常にちょうど良いと思ったからだ。

この問題はamd-pstate-eppが導入されたことで15WクラスのAPUでもまあまあ良いということになった。 とはいえ性能面や機能面の汎用性で言えばミニPCのほうが上だ。

じゃあミニPCじゃなくラップトップを使う価値はあるか。

……あんまない。

まずミニPCはインターフェイスが多いというのがかなり大きい。抜き差しの手間は増えるが、USBハブに必要な機能が減るのは大きい。 ディスプレイにUSB PD対応のものを用意できればディスプレイと電源両方が一本で接続できるため、ミニPCの面倒さが軽減できる。

環境ごとのセットアップはどうしても発生するため、ミニPCだと面倒ということもあまりない。

まあ、スリープ状態で環境を変更することができないから、起動時の手間は増えるし、電力的な意味でもラップトップほど手軽ではないが。

また、ラップトップの場合はもともとの用途である、利用中のデスクトップのサポート環境や、通常PCを使う場所ではないところでの利用ができる。 だからラップトップよりミニPCが必ずしも良いとは言えない。 この話はあくまでも、同じような使い方でミニPCを検討している状況で、ミニPCではなくラップトップを選ぶというメリットがあるかということに対して、そんなにはないということを述べている。

ミニPCの利点としては、ディスプレイやキーボード等をつなぐことを前提にするとラップトップよりもミニPCのほうがスペースをとらないこと、そして必要かどうかはともかく性能的にはラップトップよりも高く、排熱的にも安定することだ。

逆に言えば、ラップトップで性能的に十分であれば、ラップトップのほうが省電力で、ラップトップのほうがメリットがあるとも考えられる。 ラップトップを使う場合は、リッドクローズでディスプレイを切るように設定しておくと扱いが楽になる。

実際に運用して「ミニPCと変わらない」と感じる大きな要素として、IdeaPadがバッテリーマイレージが極度に乏しく、かつ電源供給をやめるとシャットダウン状態でもバッテリーを失うためにほぼ電源接続状態でしか使えない。 このためにラップトップであることに対するメリットを見いだしにくい。 もしこれがThinkPad X1のように長時間駆動が可能で、スリープ状態で長期にわたって置いておけるものであれば感覚的には全く異なるものになってくるだろう。 スリープ時・シャットダウン時の問題を置いておけば、おそらくゲーミングラップトップでも同じような感じになるだろう。

ラップトップ, デスクトップ, ミニPC

現代において、15Wクラスのラップトップでもバッテリーマイレージを気にしなければ一般的用途においてストレスはあまりない運用が可能である。

この「一般的用途」とはウェブブラウジングやオフィススイートの操作など、インタラクティブなGUI操作の話である。 ウェブブラウジングやオフィススイートは性能など関係ないように言われることもあるが、現状ウェブページは高性能なデスクトップCPUでさえも使用率100%になることもザラにある。オフィススイートも無駄に重いため、最高峰CPUでさえももたついた感じは否めない。 そのため、そのような用途でも基本的に性能はいくらあっても足りないのだが、体感的にもたついて待たされる感じがあるかといえば、5700Uでもまぁなんとかという感じ。 28Wで1世代新しいCore i7-1360Pであればもう少し余裕があり、ひっかかる瞬間もあまり感じられない。

この「一般的用途」にゲームや、AIによる生成などは含まない。 対話的GUI利用のみに限った話である。

だが、「現状ではあんまり気にならない」というだけの話で、デスクトップでも100%に達するようなものであるから余裕はない。 できればもう一声欲しいのが現実だ。

最新CPUに関しては、AMDはUシリーズプロセッサも15〜28Wのレンジを持っており、IntelのCore Ultraシリーズは基本的に17〜30Wのレンジを持っている。 このため、最新のモバイルプロセッサを搭載したラップトップを使う場合はそもそもその「もう一声」を持っていると考えて良い。 その分、以前の世代と比べ値段も上がっているし、ウェブページなど日常的用途における性能要求が厳しくなっていることを反映してのことだが、言い換えれば実用上のマイレージ性能は低下している。 今の「普通」の歪さを感じるところだ。

それでも足りないのであれば、ミニPCが有効だ。 Ryzen AI 9 HXシリーズは28WのベースTDPを持ち、レンジは15〜54Wとなっている。 IntelのCore Ultra 9 185Hはベースで45W、最大で115Wだ。

ここまでくると電力的にはデスクトップと大きな違いはなくなってしまう。 もちろんサイズは全く異なるが、ミニPCが電力的にラップトップとデスクトップの「間である」と言っても、実際はだいぶデスクトップ寄りである。 ただ、効率的なラップトッププロセッサをベースにしているだけあって、電力をあまり使わない状態ではデスクトップよりも省電力である。

これは例えば、デスクトップ画面で放置しているとか、ページ自体が重くないニュースサイトなどを読んでいるとか、電子書籍を読んでいるとか、そういった状態のことだ。 SNSはだいたいずっと重いため、SNSを開きっぱなしにしている状態だとあまり変わらない。動画再生に関しては、YouTubeはサイト自体が非常に重いため負荷が高いが、動画サイトによっては大きく違ってくるだろう。

デスクトップにビデオカードを積みたくなくて、かつある程度のグラフィックス性能を必要とする場合は、統合グラフィックスを持つプロセッサを使うことになる。 だが、Ryzenの場合は熱設計的な理由もありAPUは性能控えめである。 Intelユーザーであればこの点はシンプルになるのかもしれないが、AMD基準で考えるとやや中途半端になる。その「中途半端」の中のどの位置を欲するかという話で、内蔵グラフィックスを使うのであればミニPCのほうが「ニーズに合っている」可能性が高い。

デスクトップはワットパフォーマンスという観点もあるにはあるが、性能が欲しい前提であるのが普通である。 その中で最も一般的なのは「ゲーム用途」だろう。つまり、ビデオカード込みでの構成の話になるし、この場合は省電力性の優先度は低くなる。 ラップトッププロセッサに十分な性能がある状態である現代において無闇にデスクトップを選択する意味はないが、現代で一般的な趣味であるゲームに少しでも関心があるのなら、将来的にゲームもできるようにとある程度の余裕をもたせるためにデスクトップを選択するという余地もあるだろう。

こうしたことから、おそらく今最も微妙なのはSFFだろう。 外部インターフェイスの高速化もあってミニPCで事足りるようになり、デスクトップであればビデオカードが欲しいのが普通となると、SFFを選択する理由に乏しい。