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VivladiのPIM機能(メール/カレンダー/フィード)を改めて評価する

Live With Linux::software

Vivaldiのデスクトップ版は、2021年、4.0のときにPIM機能を追加した。 内容は、メール、カレンダー、RSSフィードである。

これは、旧Operaからの文脈によるものであり、かつてのNetscape/Mozillaのように「インターネット」を扱うためのソフトウェアをもとより目指していた。

「旧Operaのようなソフトウェア」を目指すVivaldiにとって、それは長い道のりであったと言える。 もちろん、Vivadliはそれまでも多くの機能を備えてきたが、それにしても最もキャッチーなメール機能に到達するまでの5年という時間は、決して短いものではなかった。

このときのことは記事にしているが、正直なところ「使い物にならない」が感想であった。

だが、メール機能は2022年に正式版となっており、当初の問題の多くがフィードバックされ、修正もされた。

実はこれらの機能は継続的に使っているのだが、改めて本格的に利用してみた。 その所感を述べよう。

Vivaldi.netの話

その前に前提としてvivaldi.netの話をしておくほうが良いだろう。

Vivaldiが4.0になるより前から、Vivaldiはコミュニティ機能を追加している。 これは、ブラウザの機能ではなく、Vivaldiがホストするコミュニティ機能だ。

機能としては、メール、ブログ(ユーザー固有のもの)、フォーラム(Vivaldi全体用のDiscourse)、ブラウザ同期があり、現在はVivaldiブラウザのテーマ共有とMastodonが追加されている。

メールなどの機能はVivadliが4.0になる前から存在したものであり、もVivaldi.netのメール機能はVivaldiブラウザに縛られているわけではない。また、逆にVivaldiブラウザの機能はVivadli.netのアカウントを前提にしているわけでもない。

また、現在はメールアカウントを利用するためにはレビュテーションシステムによる「ポイント」をためる必要がある。

Vivaldiの記事より

2019 年後半に、Vivaldi ウェブメールを使ったり、Vivaldi.net でブログをホストしたりするユーザー向けに、スマートフォンを通した本人確認を導入しました。これにより、一部の迷惑メールがすり抜けたものの、何年かは迷惑メールの量を大幅に減らすことができ、全体的に管理はしやすくなりました。しかし、最近の動向から、新しい対策を導入する時期だと判断しました。

これは少し厄介で、Vivaldiでの活動に、Mastodonでの活動を「強要」する側面がある。 フォーラム機能はほとんどの場合フィードバックに使われる上に、少なくとも日本語フォーラムでは「賛同を得たもの以外は顧みない」という方式になってしまったため、ユーザー数の少ないLinuxのissueなどは建てても無意味な感じになってしまっている。

現実的な方法としては、Vivaldi Socialで活動するか、もしくはブログを投稿するかどちらかになるだろう。 いずれにせよ、Vivaldiアカウントを人目に晒す必要があり、ちょっとむずかしい問題になっている。

そして、重要なポイントが、VivaldiのCalDAV機能はVivaldiメールに付属するということである。 このため、カレンダー機能を使いたい場合もVivaldi.netのアカウントでレビュテーションポイントをためて「解禁」する必要がある。

なお、前述のとおりVivaldiブラウザでメールやカレンダーの機能を使う上でVivaldi.netのアカウントは必要ないので、他にメールアカウントやCalDAVのアカウントがあるなら特にこの点を気にする必要はない。

機能のレビュー

メール

メール機能はマルチアカウントに対応。 基本的にはIMAPアカウントを前提にしているが、「ローカルアカウント」という形でオフラインのメールアカウントを作れるようになっている。

OAuthにも対応しており、GMailでも機能する。 ただし、メールアドレス検出による方式であるため、対応していないメールプロバイダはどうしようもない。

メーリングリストの購読には非常に適している。 タイトルを見出しにスレッドとしてまとめ、アイテムは差出人になっている。

メーリングリストでは実にうまくスレッドをまとめてくれる
メーリングリスト用のビューもある

メーリングリスト用のビューでは同一として扱いたいメーリングリストが分かれていることがあるのが気になるが、これらはまとめられるようになっている。 広告メールがメーリングリスト扱いになって届くことが結構あるが、この例外の取り扱いも可能だ。

メーリングリスト用のグルーピング

ただし、PGPには対応していない1

「すべてのメッセージ」機能によってメールアドレスを横断して見られるのもなかなか便利。 このビューの「フィルターを表示」からメーリングリストを取り除くことができるため、結構実用的に使える。

すべてのメッセージ機能

メール機能はHTMLメールに対応しているが、デフォルトで外部コンテンツを読まない。

デフォルトでは外部コンテンツはブロックされる

許可することで読み込みを可能にする。 AndroidのAquamailもこんな感じの挙動だけど、現代において最も望ましい挙動だろう。

外部コンテンツがあると許可のダイアログが出る

アカウントエイリアスに対応しており、ひとつのメールサーバーに対して差出人名義が複数ある場合にも対応できる。 一方で、送信サーバーのないメールアドレスの設定はできない。

Reply-Toが設定される場合は警告される

メール自体は各メール1ファイルの.eml形式で保存されている。 アカウントから右クリックでメールが保存されているフォルダにアクセス可能。 ローカルアカウントにメール移動すればローカルで扱えるようになる。 なお、この関係でVivaldiは.emlファイルをハンドルできる。

カレンダー

カレンダーはデフォルトの表示だと「うぎゃあ」と思ってしまうが、設定によってうまくいく。

表示の3つの表記は、左から「期間が収まるように等間隔」「内容が収まるように限度をもって等間隔」「内容次第で伸縮」である。 デフォルトは一番右だが、一番左がGoogleカレンダーと同じような表示になる。

Reply-Toが設定される場合は警告される

カレンダーでの表示は「日」「週」「複数の週」「月」「年」「予定表」となっている。 「複数の週」があるのは最近な感じだが、「年」があるのはちょっとめずらしい。 パネルでも「日」「週」「予定表」が確認可能で、それとは別にサイドバーで日を表示することもできる。

月+サイドバー、あるいは複数の週+サイドバーというのがすごく便利。 そして、ほとんどの場合パネル上で予定表を確認するだけで事足りる。

「一日中」の予定に対応しており、週や日の場合は予定の時間帯まで表示される。 このあたりの切り替えが簡単なのがとても良い。Googleカレンダーのようなオンラインでは味わえないサクサク動作だ。

カレンダーはカレンダービューから隠すこともできる。 大量の予定が登録されるウェブカレンダーを登録しておきたい場合などに使えるだろう。

予定の設定はとても簡単だ。

フィード

RSSフィード機能を持つソフトウェアはいまや希少になっているが、Vivaldiは最近になって新たにフィードリーダーを追加したアプリということになる。

まずそもそもとして、Vivaldiでフィードを開くと専用のビューになる。 ここからして違う。

Chromiumにはない、フィードUI

フィードを購読した場合の表示は、メール機能の中に含まれるため、Thunderbirdなどと同様にメールのように見える。 この形式はフィードでそのまま本文を読むような場合には便利だが、ニュースピッカーのようにタイトルだけで構成される場合には適さない。

フィード機能をもつアプリが希少になっているので嬉しくはあるのだが、それほどすごいなにかがあるわけではなく、メールのおまけ機能という感じ。

その他

これらのPIM機能を使う前提に立つと、Vivaldiにはかなり便利な機能がある。

まず、メモ機能だ。 テキストを残すだけの機能だが、ウェブページから簡単にクリップできるため、結構使いでがある。

そして、もうひとつがタスクリスト。 タスクリストはかなり便利で、単なるTODOとして使うこともでき、カレンダーに保存される。 カレンダーはデフォルトでアプリローカルなカレンダーを持っているため、ローカルに保存することもできるし、デフォルトのリモートカレンダーに登録することもできる。

タスクは単に登録した場合は単なるタスクになる。 1クリックで完了にもできる。 締め切りを設定した場合はその締切タイミングの予定としてカレンダーに載る。

この「タスク」は「予定」として扱うこともできる。 場所、繰り返し、終日などが設定可能だ。 これは、カレンダーに予定として載る上に、タスクとして消せるようになっている。 もっとも、これは使い勝手はそんなによくない。

送信メールから登録される連絡先機能も、がっつりVivaldiに依存するなら悪くない機能。

リーディングリストはウェブページ版「あとで読む」。 これもTODOの一種として使える。 一時的な登録でブックマークを汚さなくて良いのもメリット。 未読・既読のマークもつく。

がっつり使えばかなり魅力的ではある

実のところ、カレンダーやメールなど、基本的で些細なものに思えるが、Linuxでは案外難しい。

私のローカル保存されているすべての受信メールからカウントしたところ、Thunderbidが7151, KMailが1092, Evolutionが697, Claws Mailが360, Sylpheedが58, Gearyが32, Balsaが8, Mewが3, MH-Eが3, aercが1, Mutt, Vin, Himaraya, Astroidが0だった。

実際、Thunderbirdを使う人が圧倒的に多いけれど、別にThunderbirdに大いに満足しているわけでもない、というのが私の印象だ。

Thunderbirdを使う場合、カレンダーにLightningを使うという選択肢がある。 これは、デスクトップに対して中立であり、結構良い選択肢に見える。 しかし、Lightningはしばらく起動せずにまとめて予定を逃した場合の挙動が結構面倒だったりするし、Thunderbird自体メールの保存方式がMBoxでやや微妙さを感じる。

KDE Plasma環境の人はKDE PIMを使えば良いと考えられるし、GNOMEデスクトップの人はEvolutionを使えば良いだろう。

ただ、KDE PIMもEvolutionも、現代のPIMとしてスマートフォンと連携しようとするのが結構嫌な感じがするし、KDE-PIMはKDEの中でもかなり深いアプリだし、EvolutionはGNOMEに完全に依存している。 単なる「アプリの選択」にしては重すぎる。

だいたい、KMailもEvolutionも、メーラーとして完璧かと言うとそんなこともないと思う。 どちらも魅力的な要素はあると思うけど、正直私はメインで使っていこうと思えない。

またカレンダーについては、KDE Plasmaを使っている場合はKDE PIMの一部であるKOrganizerを使うことができるし、GNOMEの場合はEvolution、あるいはGnome Calendarを使うことができる。 これについてはだいたい満足できるかもしれないが、それ以外のデスクトップを使っているユーザーにとってカレンダーもあまり有力な選択肢がないアプリのひとつだ。

私はメールクライアントはClaws Mail、カレンダーはLightning、TODO管理はSleekとそれぞれのアプリを使い分ける方式でやってきたが、十分に快適とは言い難い。 Claws Mailには満足しているが、他が厳しい。

こうした状況下で、Vivaldiの機能は非常に有力なレベルにまで育っていると思う。 実際に私宛でVivaldiでメールを送ってきた人は0だったが、移行する選択も十分にあると感じた。

実際、私は今回検証してみて、カレンダーはVivaldiに移行することを決め、ついでにSleekで管理していたTODOもまとめることにした。

ただ、eメールについてはClaws Mailに留まる方針だ。 主な理由は次のとおり。

  • IMAPログインがPLAINにしか対応していないし、IMAPは993番ポートのIMAPs固定なので、そもそも使えないメールサーバーが結構ある
  • PGPに対応していない。必要な場面は多々あり、メインとして使っていけない
  • リンクを問答無用でVivaldiで開いてしまう。セキュリティ管理的な意味で、これは危ない
  • アカウントごとに通知を管理できない。メーリングリストやニュースレターで通知されるとしんどい
  • 任意のアプリで開く機能がない。仕方のないことかもしれないけど、ダウンロードになってしまい添付ファイルの扱いが面倒
  • メールのコピーができない

あくまでブラウザだなぁ、と思わせる部分ではある。 補助的に使うだけなら、そこそこ便利。

結局のところウェブメールの拡張版というようなものに過ぎず、本質的にメールを追求したソフトウェアとはかけ離れている。 そして、Vivaldiがメール機能をそのようなものとして作った以上、将来的にもfull featuredなメールクライアントとして発展することもないだろう。 このため、Claws Mailのようなソフトウェアを求める層には刺さらないだろうし、要件をもとにThunderbirdを使っている人にも代替としては使えないだろう。

メールはこのような問題もあってスタンスに依存するが、それ以外については「Vivaldiをいつもメインで使っているか」言い換えれば「Vivaldiはいつも起動しているか」によって大きく違ってくる。

ウェブブラウザのすべてをVivaldiに依存し、Vivaldiを中心に生活しているなら便利な機能だろう。 わざわざVivaldiを立ち上げてVivaldiを使うことで機能にアクセスする必要がなく、常にVivaldiは起動しているはずだからだ。 Vivaldiアカウントでの同期の恩恵も受けられる。

一方、普段Vivaldiを使っていない、あるいはブラウザプロファイルを使い分けているといったことことがあるとPIM機能のためにVivaldiを起動することになり、Vivaldiが重いプログラムであることもあってそんなに嬉しくない感じがする。 ウェブリンクをそのまま開けることもむしろデメリットになる可能性もあるし、メモ機能など多くの機能が別にVivaldiについてても使わないということになりかねない。

メールのカスタマイズ

メールのUIでフォントが気に入らないケースがある。 というか、文字が小さい。

メール本文に関しては、最小フォントサイズによる制限を受ける。 フォントファミリーも、デフォルトのものが使われる。

他の部分についてはvivaldi://experiments/Allow CSS modificationsを有効にした上で、設定の「外観」からCSSフォルダを指定し、そこにCSSファイルを置く。

パネル部分のフォント制御は#mail_panelに対して当てれば効く。

メールヘッダー部分は.mail-details > *に対して当てれば良い。

メール一覧は.mail_entryに対して当てれば良いのだけど、日付には当たらず、日付に当てるためには.mail_entry *を指定した上で!importantまで必要。 しかも、これに関しては大きくすると表示が崩れる。

なお、UI部品のID/クラスを探すには、--debug-packed-apps --silent-debugger-extension-apiオプションをつけて起動することでUIアイテムも検証可能になる。