Chienomi

P+Eコア28Wは現状理想的 dynabook RZ/MW

製品・サービス::hardware

ThinkPad X1 Carbon Gen8の後継となる会社の貸与品として、私はdynabook RZを指名した。

私が知らないうちに東芝からDynabook株式会社になっていたdynabookだが、もとは東芝のラップトップブランド。 背中がまるっこいフォルムとぺちぺちキーボードが特徴的なものだ。

ヒンジ部分があまり強くなく、キーボードが打ちづらく、他に取り立てて良いところが見当たらない――というのが私のこれまでの印象で、1台持ってはいるが、積極的に選びたいとは考えていないものだった。 だが、実際にラップトップ選ぶを行ったところ、価格面から却下されてしまったgramを除けば、有力な候補はLavieとdynabookに限られた。

最終的に、前世代の15Wプロセッサ(U)を採用するLavieではなく、現行世代の28Wプロセッサ(P)を採用するdynabookを指名した。

その実力のほどは先に掲載した記事にテスト結果を載せているが、ここではもっと掘り下げて触れる。

概要

dynabook RZ/MWはDyanbookの16:10 14インチウルトラブックである。

Intel Core i5-1340P/Core i7-1360Pプロセッサを搭載、メモリは16/32GB、SSDは512GB/1TB/2TB。

重量は940gと軽量。 ビジネスユースを意識してか、EthernetポートやHDMIポートを持つ。 Ethernetポートは普段は薄くボディの厚みを抑えているが、使うときは広がる仕組み。底面はゴム足があって少し浮くようにできているので、使っていても接触はない。

ダイレクト限定モデルで、ボディ色は紺のみ。

処理性能と消費電力

「Pコア+EコアというSMPはどう作用するのか」というのが私はすごく気になっていたのだが、どうやらかなりうまく動いているらしい。

前提として認識すべきは、Eコアは「高効率コア」であって「省電力コア」ではないということだ。 もともとIntelのCPUはAMDのCPUと比べ、アイドル時の消費電力が低いという認識だが、その基準で考えたときにEコアで動作する状況で際立って省電力であるという印象はなく、どちらかといえばハイパフォーマンス時の消費電力が多いのに対し、低負荷時は従前とあまり変わらないという印象である。

このため、省電力性に大きな発展があったようには見えないが、Pコアによる性能面では目を瞠るものがある。

RZ/MWに搭載されるCPUはCore i7-1360Pであり、Pコア4, Eコア8の計12コアを持つ28Wプロセッサである。 省電力CPUとして一般的に採用されるUシリーズが15Wであるため、消費電力は多いが、その分性能も大幅に高い。

テスト結果では、極めて高負荷となるVP9テストこそ奮わなかったが、それ以外においては(65Wデスクトッププロセッサである)5600Xを上回り、(105Wのハイエンドデスクトッププロセッサである)5950Xに迫る性能を見せることすらある。 特にシングルスレッド性能が高く、ウェブブラウザでは5950X並であった。

対してそれに伴う消費電力は、powersaveで11.75W、performanceで36.54Wである。 performanceの値はラップトップとしては非常に高いが、powersaveのAntutu HTML5 Benchmarkの値が58637に達しているため、powersaveで基本的に不足を感じない。 powersaveの消費電力は悪くなく、常時powersaveでかなり快適に使える。

基本的にIntelのP+Eコア構成は、ピーク時性能を(消費電力と引き換えに)高めつつも、それで犠牲になった電力効率を高効率のEコアで補うことで実効的なワットパフォーマンスも狙う、というものだと理解している。 確かに、近年プロセッサは「過剰に」高速になっていて、ほとんどの場合ユーザーはその性能を求めない。そのために高性能プロセッサよりも高効率プロセッサのほうがユーザーにとって望ましいものになってきているが、これがピーク性能が不要だという意味ではなく、またピーク性能が低くてはマーケットへの訴求力も問題が出る。 同一アーキテクチャで性能の異なるコアを複数搭載するのは、効率的な省電力から高いパフォーマンスまでをスムーズにつなぐものだと理解している。 そして、まさにそれは現代において求められる性能でもあるだろう。 もともとはブーストテクノロジーがそれを実現する手段のようなものだったが、コアから変えてしまうほうが良いのは確かだ。

すべてを最高性能のコアにした場合と比べて、失われるのはCPUをフルで使うような並列処理、あるいはCPUがいくらあっても足りないような処理を並列では走らせる場合の性能だ。 一般的には高負荷の処理をしている場合でも多数のプロセスは軽量であるため、省電力なコアの存在が活躍するが、一般的にはあまりないケースであるそのようなマルチスレッド高負荷条件下では、同じ量のタスクをプロセッサ別に分散したときには1プロセッサによって完了までの時間が長くなり待ち合わせが伸びるし、性能の低いプロセッサが数だけあってもいつまでも終わらない状態になるため、いまいち弱そうに見える。

だが、実際はxzのスコアはかなり良好である。マルチスレッドで動作する高負荷なタスクも別に苦手ではないようだ。 しかし、xzは5600Xより上だが、ffmpegは下回る。

もちろん5.1fpsという値は、ラップトップとしては驚異的なのだが、5600Xは6.8fpsともっと高い。 注目すべきは、3つ目のffmpegを起動したときの挙動である。 オプションのないlibvpx-vp9は基本的に2スレッドで動作する。つまり、2つのffmpegは4スレッドで動作するわけだ。 対してCore i7-1360Pは4つのPコアと8つのEコアを搭載するもので、4つのスレッドでffmpegが動いている場合、それはPコアに収まる。

とろこが、3つ目のffmpegを起動する、つまりPコアで収まらなくなると、すべてのプロセスが大幅に低速化する。 5プロセスでは5.0fpsまで回復するが、どうもEコアにまで負荷がかかっているときはPコアもそこまでは速くなさそうだ。

つまり、ユーザーが使い方まで配慮する必要はないのだが、性能を引き出すという面ではおよそターボブーストテクノロジーのすごい版といった感じである。 さしづめ、スーパーターボテクノロジー2か。

別の見方をすると、Pコアフル稼働と、全コアフル稼働のパフォーマンス差がないように見える。 だが、試しにxzのスレッド数を変動させたところ

Threads Time
1 2:55.56
2 1:29.88
4 52.876
6 45.451
8 38.068
12 27.990
0 (16) 23.843

さすがにそんなことはなかった。 だが、1→2がほぼ半分なのに対してブーストの効く2→4も短縮幅が少し狭いが、4→6は短縮幅が大きく減っている。 その上で、12(物理コア数)→16(論理コア数)でもしっかり伸びているので、xzではCPUが完全に使い切れていないのかもしれない。

このことから、状況によるが、PコアEコアをユーザーが意識する必要はなさそうである。 厳密に処理速度を求める場合はPコア数に限ったほうが速い可能性もないではないこと、Pコア数だけでもパフォーマンスが稼げるのでEコアをあけてPCを使える状態にしておく選択肢がそれなりに取れることを覚えておくくらいか。

私は以前から「シングルスレッドが速いCPUのほうが使い勝手は良いが、それなりにコア数がないとレスポンスが悪くなって体験が悪い」と言っている。 それを考えると、このIntelのCPUはなかなか理想的なのではないだろうか。 もちろん、「すべてにおいて速く、なおかつ省電力性が優れていれば解決する」ではあるが、色々兼ね合いがあるものだから、一般利用におけるアプローチとしては非常に正しく見える。

例えばだが、GEEKOM MINI IT13はCore i9-13900Hを搭載している。 これは、ゲーミングノートなどで使われるハイパフォーマンスモバイルプロセッサで、45Wプロセッサである。 このようなミニデスクトップ(別にi7でも良い)は、一般ユーザー、そしてハイパフォーマンスを求めるヘビーユーザーの一般ユースに対して、何の文句もなく応えるだろう。そして、純粋な計算力が大量に必要なのであれば別途Ryzen9 7950Xを搭載したデスクトップを(なんならヘッドレスでも良いので)用意すれば完璧なのではないか。 もちろん、ラップトップを好むユーザーは、Core i7-1360Pを搭載したラップトップとRyzen9 7950Xデスクトップでもいいし、次世代、Meteor LakeとZen5プロセッサで構築すればもっとおもしろいことになるだろう。

かなりおもしろいプロセッサで、私のテンションは上がった。 そもそも、ラップトップのプロセッサは、昔(それこそSkylakeやKabyLakeくらいまで)はラップトップとデスクトップのプロセッサの性能差が大きすぎて、どうしてもラップトップにしたい理由がなければデスクトップが良かったし、別途デスクトップを持つことは必須であると考えていた。 それがラップトップのプロセッサの性能が大きく上がったことで(主にApple M1に触発されて)、メインPCをラップトップというのもなくはないと考えるようになった。

だが、Ryzen7 5700Uは確かに速いことは速いのだが、やはりラップトップの体験には変わりないなと感じた。 デスクトップのプロセッサに比べて明らかに遅く、レスポンスが悪い。特にpowersaveはかなりストレスフルで、schedutilならかなり良くはなるが、5600Xにもあるもたつきが発生し、5950Xとは体験の差が大きい(5600Xも異様に体験が悪い。私の個体の問題かもしれない)。

ところが、Core i7-1360Pはものすごく体験が良く、powersaveでもパワー不足は感じない。 5950Xのようにストレスフリーな体験であり、そしてWi-Fi接続であるにもかかわらず、ウェブ系のレスポンスは不思議なほど良く、5950Xよりも優れているようにすら感じる。curlで計測するとそんなことはないのだが……

グラフィックス性能

Unigine Heavenの結果を見ると、Ryzen7 5700Uに対しては明確なアドバンテージがあり、Quadro P400よりは高性能であるが、Radeon RX580との差は大きく、「画面が出る」以上の意義はとぼしそうに見える。 本当に軽いゲーム(特に2Dゲーム)ならやれそうだが。

ただ、以前のIntelのグラフィックスと比べれば性能は上がっている。 この差に恩恵があるものかは分からないが。

キーボード

キーボードはストロークは短めだが、ペタペタするほどではなく、クリック感がそれなりあるので相対的にはまぁまぁ打ちやすい。

しかし、ThinkPad X1 Carbon Gen8比で打ちやすいかと言われると微妙。Gen5よりは明らかに悪い。 基本的には薄いキーボードが好きな人向き。

ただ、アクチュエーションフォースはちょっと大きめで、硬めのメンブレンキーボードのように「ぽこっ」と潰す感覚がある。 最近のラップトップの中ではマシの方とはいえ、タイピング精度はいまひとつ高められない。

タイピングミスの原因は今までのところすべて「打ち損ね」であり、指を載せただけでは入らないアクチュエーションフォースの大きさと、キーの薄さがうまく噛み合っていないように感じる。

まぁ、絶対的に言えば「タイピングフィールは悪い」なのだが、最悪と比べればよく、タイピングに集中できていれば気にならず、そもそもこれよりもフィーリングの良いキーボードを持つラップトップが現行ではあまりないので、このキーボードを「悪い」と評してしまうのはちょっと難しい。

トラックパッド

トラックパッドは大きく、操作しやすいが、そこに難点もある。

というのも、クリッカブルなのだが、クリック可能なのは下端だけで、トラックパッド操作時に指を乗せる位置から遠すぎるのである。 親指が自然に届く位置にないのはイマイチ。しかも割と重い。

素直にタップを有効にしたほうが良さそうだが、大きいため意図せぬ操作も発生しやすく微妙。

感度は非常に適切である。

充電とバッテリーもち

本体としてはPD 65Wに対応する。 付属充電器があるが、会社かりの貸与品ということもあり、私は付属充電器ではなく、手元のPD充電器を使っている。

チェッカーを用いて確認したところ、2.46〜2.49/20Vで充電された。 ちゃんと20.0Vに到達するのはエライが、65W仕様で50Wに到達してないのはややイマイチ。 まぁ、普通にPD充電器で充電できるのは良い。 バッテリーがでかいのか、充電速度は遅く感じるが。 私はラップトップをあまり使わないので基準がわからないが、SCUD製のバッテリーを1つ積んでいて、バッテリーサイズは50Whである。

バッテリーもちは注意が必要。 performanceにしている場合、要求されたパワーに対してかなり電力を消費して応えてしまうため、ゴリゴリ減る。 例えば、performanceでvivaldiを立ち上げているだけ(ページは開かない)でも、2〜3時間でなくなってしまう。 powersaveなら普通だし、powersaveでもウェブページでもたつき感はないので、基本的にpowersaveで運用するようにしたほうが良い。

performanceの場合に消費電力が激しいのは、そもそも1360Pプロセッサは28Wプロセッサで、ターボパワーは64Wにも達するためである。

ストレージ

512GBモデルのストレージは、Phison C-E80T512G4-P3D3B3E13だった。

Phison自体聞かないメーカーだが、コントローラでは他メーカーで採用例があるものの模様。 基本的には市販されていない品のようで、OEM品か。 安いことがウリである模様。

システムディスクとして使われているものをちゃんと計測すると大変なので、計測はしていない。 16GBのファイルを書き込んでみたところ、299MB/sだった。 使い物にならないというほどではないが、ちゃんと高速なものを選択すれば換装する価値はありそう。

ディスプレイ

よくない。全体的に白っぽくて見づらく、TN液晶っぽさがある。というか、TN液晶かもしれない。 IdeaPadのものよりはいくらかマシ。

明確な欠点だが、ノングレアの14インチ液晶に選択肢があるわけでもないため、選択肢から除外できるようなポイントではない。

カメラ

悪い。

全体的に白っぽく、ものすごい血色悪く見える。

可能なら別途カメラを用意したほうがいいと思う。

ボディと重量

キーボードまわりは少したわむが、タイピング中に気になるほどではない。 (そんなにしっかり打鍵できるキーボードでもないという影響もある)。

重量が軽いため、端っこを持ってもたわまない。 ボディ側フレームはかなり固そうで、下面のたわみはかなり少ない。

天板側はやわいので、開いた状態で落とすとマズいかも。

とはいえ、IdeaPadみたいなペナペナではないし、LIFEBOOKみたいなやわやわでもない。 重量が軽い割にかなりがんばっていると思う。

重量自体は1kgを切っている軽量モデルだが、普通に持ったときの重量感が割とあるタイプで軽く感じない。 バッグに入れたら軽い。

With Linux

概要

Dynabookとしては「Linuxを入れた時点でハードウェアサポートもなくなる」という姿勢。

実際に入れてみたが、基本的なところは動くが、割と問題は多い。

目立った最大の問題は、多くのホットキーが動作しないことである。 そのほとんどはxevでイベントを拾うことができないため、どうすることもできない。

セキュアブート

Manjaroのイメージはセキュアブートによりブロックされる。

UEFI settingsのSecurity -> Secure Bootでオフにできる。

ブート時のキーボードレイアウト

ブート時はキーボードレイアウトがUSになっているため、LUKSパスフレーズの入力に支障がある場合がある。

これはUEFI settingsのAdvanced -> System Configuration -> Keyboard Layoutで変更可能

ディスプレイバックライト

システムではディスプレイバックライトの制御ができるが、ホットキーが効かない。

これは、ホットキーがそもそもキーイベントとして送られてこないという問題なので、輝度設定自体は普通に問題なく可能。 ユーザーレベルで設定する場合はsys/class/backlight/intel_backlight/brightnessに書くのが楽。

max_brightnessの値は、驚いたことに89302(一般的には15)である。

キーボードバックライト

キーボードバックライト制御は効かない。

ホットキーも効かないし、従来だったら存在した最終手段である/sys/device/LNXSYSTM:00/LNXSYSTM:00/TOS620D/kbd_backlight_modeも存在しないため対応できない。 ただ、切り替えではなく、恒久的な変更を望む場合は、UEFI Settings上で設定できるため、問題ない。

音声デバイス

デフォルトではマイク/スピーカーともに動かない。 sof-firmware導入で対応可能。

ヘッドセットジャックと排他なのに別デバイスになるので、だいぶ扱いにくい。 RealTek製のデバイスだったので大丈夫かと思ったのだが、駄目だった。

マイク、スピーカーの音質はともに意外と良いが、スピーカーは出力が小さく、オンラインミーティングではPulseEffectで音圧上げしないと聞こえない。

Ctrl Alt Delete

起動時のLUKSパスフレーズを入力するタイミングでCADが効かない。 間違えた場合は電源ボタンで対応する必要がある。

その他気になったこと

ミュートランプ

スピーカーミュート, マイクミュートともにランプはないため、ミュートされているかどうかがわかりにくい。 まぁ、あるほうが珍しいのかもしれないけれど、ThinkPadにはあるため、少し気になる。

そのため、microphone mute controlを改修した。

#!/bin/bash

export LANG=C
declare -i CHECK_INTERVAL=5
MIC_NAME=$(pactl list sources | grep -F 'Name: ' | grep 'source' | sed 's/^\s*Name: //' | tail -n 1)

MENU_COMMAND='Toggle!pactl set-source-mute '"$MIC_NAME"' toggle|Mute!pactl set-source-mute '"$MIC_NAME"' true|Unmute!pactl set-source-mute '"$MIC_NAME"' false'

pactl set-source-mute $MIC_NAME true
notify-send "Microphone Mute Controller is running, set mute."

microphone_status() {
  while sleep $CHECK_INTERVAL
  do
    if pactl get-source-mute $MIC_NAME | grep -qF yes
    then
      echo "icon:microphone-sensitivity-muted"
      echo "tooltip:MUTED"
    else
      echo "icon:audio-input-microphone"
      echo "tooltip:MICROPHONE ACTIVE"
    fi
  done
}


microphone_status | yad --notification --image=microphone-sensitivity-muted --listen --menu="$MENU_COMMAND" --command="pactl set-source-mute $MIC_NAME toggle"

なお、Linuxではスピーカーのほうのファンクションキーは効くが、マイクは効かない。

カメラの物理シャッター

カメラの物理シャッターは、存在はしているが、だいぶチャチだ。壊れそう。 また、カチッととまるようにはなっていないので、持ち運んでいる間にシャッターの状態が変わってしまうことがある。

スリープ時のバッテリー消費

スリープで一番置いといて翌日開けたときに結構バッテリーが減っている。

スリープ時のバッテリー消費が多いようで少し気になる。

指紋センサー

指紋センサーは電源ボタンに内蔵されているらしいのだが、そもそも指紋デバイスそのものがLinuxからは見えない。

総評

項目 評価
プロセッサ 非常に良い
ストレージ やや悪い
キーボード 良くはない
トラックパッド やや良い
ディスプレイ 悪い
カメラ 悪い
マイク やや良い
スピーカー 音質はやや良いが出力不足
ボディ やや良い
携行性 良い
マイレージ あまり良くない
充電 ふつう
インターフェイス とても良い
Linux相性 やや悪い
コスパ 良い

私のCore i7-1360P, 16GB RAM, 512GB SSDというモデルは、セール品というのもあってだいたい16万円ほど。 高い安いの評価は少し難しく、各社ベーシックな(だいたいぺらっぺらな)モデルと、付加価値をつけた高級モデルというラインナップになっていて、基本的なところがしっかりした普通のモデルというのが減っている。

だが、比較対象にできそうなものを考えると、NEXTREME CARBONのCore i7モデルは第12世代UでOCNで24.5万円。LG Gramは14インチのi7モデルはOfficeつきしか選択できず、Amazonで24.5万円。ThinkPad X1 Carbonは1355Uモデルが23.1万円、1370Pモデル(32GB RAM)が28.0万円。Lifebook UHは1360P/16GB/512GB構成で17.3万円。

比較対象が少なく、バラけているので基準が置きにくいが、かなり安いのは間違いない。 UHはキーボードが馴染めなかった(タイプミスが多すぎた)ので、私は候補にしなかった。UH自体は構成豊富だ。

まぁいずれにせよ、

  • Pプロセッサ搭載
  • モバイル
  • 14インチ
  • ノングレア

という条件の時点で選択肢はほとんどない(それでも、14インチがThinkPadしかなかった以前と比べれば広がった)。 なので、もう少しふわっとした条件で探していると仮定する。

本当にパワーのいらない作業しかしないという確信があるのでなければ、Pプロセッサの選択価値はかなり大きい。 本当にコンパクトなものを求めているのでなければ、14インチはやはり使いやすい。 1.5kgクラスのラップトップは重すぎて辛い。

実際に使ってみて、Pプロセッサは非常に良いものだと感じた。 私個人では重いウェブサイトにはアクセスしないため、Core i5-7200Uでもギリやれているのだが、会社のだとGCPだのAtlssianだの、無駄にめちゃくちゃ重いサイトにアクセスすることになる。今まではConfluenceにドキュメントを書けとか言われると、まず開くまでがめちゃくちゃ長く、書くときは1文字ごとに1呼吸おかないといけなくてストレスMAXだった。 それが、パッと開いてすぐ書けるというのは素晴らしい。Googleスプレッドシートは普通に書くとフォーカスが行方不明になるから、結局1文字ずつ魂を込めて打鍵する必要があるが。

だが、本製品の「良さ」は大部分はこのPプロセッサが優れているという部分に由来し、スペックが優れているから快適だ、というところに留まる。 スペック以外の面では、軽量で剛性の高いボディくらいしか称賛できるポイントがない。 特にLinuxにおいては割となにもかもが微妙で、「別に良いPCではないな……」という感想である。

しかし、このプロセッサの性能と、基本部分はしっかり動作すること、そしてなにより他にこれといった選択肢がないことから低い評価はつけがたい。

というのも、これまでのThinkPad X1 Carbon Gen8はIntel Core-i7 10610Uプロセッサを搭載しながら、あまりにも重すぎて作業に大きな支障をきたしていた。 また、頻繁にポインターの挙動がおかしくなったり、マイクのミュートが暴走したりといった問題があり、「どうすることもできない」問題に悩まされてきた。

その点からすれば、基本性能が高く、基本機能に問題がないため、別途キーボードやマウス、あるいは場合によってはディスプレイをつないでしまえば全く不満なく使うことができる。 今は基本的には在宅なのでそれでも問題ないし、あるいは仮にラップトップとして持ち歩くとしても、持ち歩くこと自体は大変ではないので、「ちょっとみづらいディスプレイ」「ちょっと打ちにくいキーボード」「ちょっと操作しにくいトラックポイント」あたりを我慢すればよく、やや効率が悪く、それゆえにイライラする部分もあるが、それが頻繁でないのであれば辛抱できる範疇だ。

そして、これより良い選択肢というのが、(ちょっと高い)LG Gramか、(かなり高い)Let’s Noteくらいしかない。 そのことを考えると、たとえ不満があったとしても「ちょっと駄目だ」とは言いづらいのだ。

少なくとも「最高のラップトップ」ではないのは確かだが、プロセッサパフォーマンスが優れており、しっかり使えるため、「ラップトップにコストをかけたくないが、ストレスのない使いやすいやつがほしい」という人にとっては悪くない。 コスパ!素晴らしい!大阪の血が湧き上がる!でも会社貸与品ならもっといいのでもよくないか!

Linuxとの親和性が低いこと、Linuxのインストールを許さないという姿勢であることは非常にネガティブに映る。 その姿勢のままだと、Linuxユーザーにとって日本のラップトップは選択肢にならないということでしかないので、改めてもらいたいものだが。