Chienomi

ThinkPad X1 Carbon Gen8 * Linux

Live With Linux::hardware

私は新しく会社に就職したので1、PCが支給された。 Lenovo ThinkPad X1 Carbon Gen8 Premium. Core i7-10510U, 16GB RAMという最強モデルである。 実はMacbook Proが支給されるはずだったのだが、私はMacが嫌いでMacのキーボードがめちゃくちゃ嫌いなので、Linuxを使いたいという理由もあってThinkPad X1 Carbonをお願いしたところ、お願いが「そのまんま」通ってしまったのである。

これまでThinkPad X1 Carbon Gen5 (2017年モデル)のシルバーモデルを使ってきたが、思った以上に色々と違った。

なお、Gen5のほうは私の私物で、主にMimirで使っているもので、Gen8のほうは会社用なので、用途的に完全に分かれており、Gen5を置き換えるわけではない。

また、少し前提として述べておくこととして、色々なところで言っていることではあるが、普段私は非常に性能の高いメインデスクトップワークステーションを使う(現在はThinkStation P720)ため、これをメインとして使い、ラップトップはあくまでサテライトである。 Mimirの仕事で使う関係上、様々な状況に対応し、多彩なデモンストレーションを行えるようにかなり多くのパッケージを導入しているが、データの量は少なく、基本的にミニマル運用である。SSHによるワークステーションとの連携を重視しており、計算量が重い場合はワークステーションで行うようになっている。 ラップトップはMercurialによってデータを外に持ち出し、帰宅したらワークステーションに戻す方式で、なんならGUIすらいらないのではないかという運用をしていることが多い。

このことから、基本的にラップトップに処理性能を求めることは少なく、リソース的に不足にならない程度で、マイレージ性能やポータビリティが高いことを重視する。だからこそ、Gen5はCore i5が選択されているし、1TB SSDに換装されているが、マイレージ性能を重視してSATAを使用している。 また、非常に打つ文字数が多い(ブログやドキュメント、小説を書くのに使うから)ため、キーボードは非常に重要となっている。

一方、会社で使うものは基本的にそれ単独で開発を行うわけで、より多くのメモリや処理能力が必要になる。Dockerを使ったりするし、まぁまぁ重い開発になる可能性が予想され、性能が開発効率に直結する可能性が低くなかった。できればデスクトップを使いたいところだが、そうもいかないので性能の高いラップトップをリクエストしたわけである。

Archwiki

Linuxでの運用についてArchwikiに記事があるが、現時点でGen7までで、Gen8のものがない。 ただし、基本的にはGen7のものがそのまま適用できるようだ

ただし、情報が日本語訳は当初のまま放置されているため、英語版を見る必要がある。

ThinkPad X1 Carbon Gen8のハードウェア

Gen7からUHD(4k)モデルが登場した。 Gen5のときもWQHDモデルがあったりしたのだが、2018年はXPS13がUHDになっていて、UHDは先を越され、ThinkPadにUHDはないのかな、と思ったのだが、しっかり翌年には投入してきた。

UHD液晶はXPS13同様、非常に綺麗な発色を持つHDRグレアパネルとなっており、MacBook Proのようにグラフィックアーティストに向けたワークステーションモデル的な側面を持つ。 さらにUHD液晶モデルは天板がカーボン地にクリア塗装という仕様で、めちゃくちゃかっこいい。 Gen6から入ったX1ロゴはGen7でThinkPadロゴと同じ位置に移動した。

カーボン地のトップパネル

サイズはGen5と比べてほんのわずかに大きくなっている。前後方向に0.5mm、幅方向に2mm程度。また、厚みも奥側は同じだが、手前側は<0.3mmほどではあるが増している。 重量はGen5が実測で1116g、Gen8が1102gと、Gen5はいくつかステッカーを貼っているので誤差の範囲か。Gen5のほうはWWANなしモデルなので、気持ち軽くなっているのだろう。 65Wの付属アダプタは300g。Gen5に付属の45Wアダプタは233g。 Gen5で大幅な小型化・軽量化を実現したが、そこからさらなる小型化・軽量化を推し進める方向にはない。非常に小さく軽いLG Gramと比べると14インチとはいえ驚異的に軽いというわけではない。だが、超軽量ウルトラブックに慣れていない人、特にMacしか知らない人が驚愕するくらいには小さく軽い。

Gen5までは至って質実剛健といった印象だったX1 Carbonだが、Gen7ではDolby Atmosステレオ(2+2)スピーカーとサラウンドマイクを搭載、コロナ禍が襲いかかるよりも前からビジネスチャットなどのリモートワーク、オンラインワークを重視した仕様となっており、非常に豪華だ。PCwatchの記事では

しかし、昨今では働き方が多様化し、オンライン会議で活用したり、ビジネスチャットをしたり、共同作業を行なうといったことが増えています。PCのはたす役割が変化し、生産性だけでなく、コラボレーションツールとしての役割も重視されるようになってきました。

そうした新たな使い方に対応するために、2019年モデルで重視したのがオーディオ機能です。Dolby Atmos スピーカーシステムと4つの内蔵マイクを搭載。コラボレーションをするためには、最高のオーディオとボイス機能を実現しました。

じつは、これまでのThinkPadの開発においては、スピーカーは、一番後に考えていた要素でした。生産性向上を追求するノートPCにおいては、スピーカーはあまり重視されませんでしたし、むしろ、そのスペースにはバッテリを広げるなど、別の部品に使いたかったからです。確かに振り返ってみますと、お客様の声を聞くと、ThinkPadのオーディオ機能に対する評価は低いものでした。

しかし、コラボレーションツールとしての役割を考えれば、オンライン会議のさいに、鮮明な音声を聞きとることができ、しっかりと音を拾うことかぎできるオーディオ/ボイス機能は、きわめて重要な要素になります。

今回のThinkPadでは、一番後に考えていたスピーカーを最優先に考え、レイアウトについても、スピーカーの位置を決めてから、基板やバッテリ、ファンなどを配置することにしました。キーボード面にツイーターを、筐体底面にウーファーをそれぞれ2つずつ配置しています。

と語られている。 実際、ThinkPadのサウンドは2004年から(遡って言えば1996年モデルから)使っている私から見ても常に悪い。むしろ、Aptivaですらバリバリ割れたサウンドを奏でるようなもので、「IBMは音に関心がない」というのが基本的な理解だった。

ただし、「音がいい」と考えてしまうのは早計だ。 例えばhpのSpectreやEnvyはBang & Olufsenのスピーカーが搭載されており、特にクアッドスピーカーを搭載したモデルはかなりいい音がするため、それと比べると明らかに劣る。ただし、めちゃくちゃ音量が出る上に臨場感があり、ラップトップの潰れたような音ではなく、ちゃんとスピーカーから鳴らしている音がする。キーボード全体から鳴っているような感覚であるため、特にラップトップにかぶさるようにしていると特に臨場感がある。 それでも音質としては5000円くらいの安いスピーカー、あるいは2000円くらいのほんとに安いPCスピーカーをつけたほうがいい音がするから、音質にこだわるならあまり意味はないと思うのだが、ThinkPadから普通に音楽も聴けるような音がするのはちょっとした感動である。 特に音楽ではそうでもないが、動画だと臨場感が素晴らしい。そもそもDolby Atmos自体が動画向けのものだし、コンセプト的には正しいのだろう。

しかし この魅力はLinuxの場合ほぼ消滅する。 Linuxではsof-firmwareを導入することでこのクアッドスピーカーを鳴らすことができるが、音質は悲しいものである(ラップトップスピーカー全体から見て通常のThinkPadのように特別ひどいというわけではないが)。Dolby Atmosがないからだろうか。

基本的なインターフェイスは変更なく、Thunderboldが2つ、USB-Aが2つ、HDMI、TSSR 3.5mm、Ethernetとなっている。 EthernetはGen5よりも口が大きく、アダプタに互換性がない。 また、電源ボタンが側面右手前にかわっている。最初ちょっとわかりにくい。

カメラオフ機能が加わっているが、これはスイッチがスイッチの左側まで板が伸びており、スイッチをスライドすると板がカメラをふさぐ、という思いっきり物理的な仕様。

給電は変わらずType-CのUSB PDだが、付属アダプタは45Wから65Wにかわっている。 その原因になっているのかもしれないが、Gen5と比べて発熱が大きく、消費電力も多い。 これは4kモデルであること、SIMの挿さるモデルであることを考慮しなければならないが、このThinkPad X1 Carbon gen8のマイレージはがんばっても6時間台である。特に輝かしいグレアパネルであるため、輝度高めで使わざるをえない面がこれを悪化させている。ちなみに、私のGen5のほうはCore i5で、SSDもSATAを使うなど省電力を意識した構成であることもあるが、マイレージは短くても14時間、がんばれば20時間以上を確保できる。

USB PDによる給電はかなり効果的なので、一日のどこかで電源のあるところに行けばよく、6時間のマイレージで決定的に困ることは少ないだろうが、これは「アダプタを持ち歩かざるを得なくなったため重くなった」という側面が大きいように感じる。もちろん、Anker PowerPort Atom III 45W Slimとかを使うという方法はあるが。

ディスプレイ出力はHDMIが搭載されているが、2つのThunderbolt3がDisplay alternativeになっており、3つのHDMIインターフェイスを持つ。つまり、最大4画面が可能。

キーボードはGen5よりもストロークが詰められており、打ち心地は少し悪化している(ちなみに、Gen5自体がGen4と比べて少しストロークが削られているため、打ち心地はベストではない)。 ただし、まだちゃんとストローク感もクリック感もあるものになっており、他のキーボードと比べればずっと良い(もちろん、歴代X1ユーザーには不満があるだろう)。私としては及第点。比較して語るなら非アイソレーションのIBM時代のThinkPadのほうが打ち心地がよかったわけで、重量や厚みとのバランスで言えば今のThinkPadキーボードも悪くない。そして、アイソレーション型のThinkPadキーボードという点で言えば「単体のトラックポイントキーボードⅡほど良くはない」という話になろうか。

TSSR端子はGen5は右だがGen8は左。左のほうが圧倒的に使いやすい。

手触りはいつものピーチスキン。シルバーモデルは金属感のあるさらっとした手触り(実際に金属ではない)だったので、滑らないしっとりとした手触りは久しぶりで少し戸惑ってしまう(その前の赤いThinkPad e440もピーチスキンではなく、あちらは至ってプラスチッキー)。

BitLocker

Gen8は デフォルトでBitLockerがかかっていた。 Windows10 Homeなのに、だ。

これではLinuxを導入できないため、解除したが、解除するとBitLockerの設定項目自体が消滅してしまう。

なお、Linux導入にあたっての設定は、Secure Bootの設定だけでOKだった。

with Linux

Linuxにおける目立った問題は3つ。

  • オーディオデバイスが認識されない
  • 指紋認証ができない
  • 一部のUIが小さい

オーディオデバイスはsof-firmwareを入れれば認識されるようになる(PulseAudioの設定も必要)。 ここはGen7のArchWikiの通り。

load-module module-alsa-sink device=hw:0,0 channels=4
load-module module-alsa-source device=hw:0,6 channels=4

この状態だと音量がやたらと小さい。この問題はPulseAudioではfixできず、alsamixerによってmasterボリュームを上げる必要がある。

指紋センサーはfwupdを入れてファームウェアアップデートをかけることでfprintdで扱えるようになる。これはGen7だけでなくGen8でも同様だ。 なお、Gen5のほうは一時期限定的に動くようになっていたのだが、fprintd2になってパッチがlibfprint2に対応していないため動かなくなっている。

UI部品が小さいのは仕方ない。 Manjaro Cinnamon community editionだと最初からscalingはdoubleになっている(ちなみに、今の最新のCinnamonはfractional scalingに対応している)ので基本的には問題ないのだが、fcitxのアイコンが小さかったりとか、Grubのインターフェイスが小さかったりとかする。 これは仕方のないことだ。だって4kだから。

Linuxからファームウェアアップデートが可能になるなど、Lenovoは以前よりもさらにLinuxに対してフレンドリーになったという印象となっている。指紋センサーが動作するものは希少だ。

総評

ThinkPadは質実剛健、面白みはないが機能性はある。 それが私のイメージだが、Gen7, Gen8のThinkPad X1 Carbonは一味違う。

より幅広い使い方に耐える全方向の機能性に強化が加えられている。 今までThinkPadはライター、プログラマ、ハッカーなどに人気があるモデルであり、どちらかというと「ダサい」と言われることの多いものであったが、今やX1は映像クリエーター、フォトグラファー、音楽家にとっても愛用できるワークステーションに進化した、という印象だ。

性能的にはCore i5-7200Uを搭載するGen5が

xz -e -c -T 0 Capella.mp4 > /dev/null  31.84s user 0.29s system 280% cpu 11.468 total

Core i7-10510Uを搭載するGen8が

xz -e -c -T 0 Capella.mp4 > /dev/null  24.64s user 0.22s system 291% cpu 8.541 total

というところで、順当に上がっているとも言えるが、3年の進化とi5とi7というグレード違いがあることを考えるといささか物足りない。特にバッテリー持ちに非常に大きな差がある2ことを考えると、Gen5の所有者が「性能アップ」を求めて購入するのはちょっと微妙かもしれない。 ただし、4kやスピーカーなどパワーアップした面もあり、

一方、それ故にLinuxでオーディオデバイスが扱いにくくなってしまった。Linuxで動作させる方法はあるため問題ないとは言えるが、Dolby Atmosが使えなくなることよりWindowsと比べデバイスの魅力に差が出てしまうのは残念なところ。(もっとも、それはLinuxで使う上での魅力を下げているわけではない)。

一方、LenovoがLinuxに歩み寄ったことでいくらか使いやすい面も出ている。

4kディスプレイは非常に美しいグレアで、ものすっっっっごく見づらい。もちろん輝度を上げればあまり気にならなくなるが、できればノングレアにしてもらったほうが使いやすい。4kを求めるのは映像クリエイターだったりするからグレアが求められる、ということだろうか。プログラマだって4k使いたいのに。 実際、X方向146dpiのGen5(FHD)でも相当美しく、デスクトップの画面が見てられなくなるくらいのものだが、4kのGen8を使ったあとに使うと「ぼんやりしてるなぁ」という印象である。

洒落て豪華なワークステーションへと進化した印象はあるものの、結局使ってみればいつものThinkPadであり、使い勝手のいい、質実剛健なラップトップだ。マイレージの短さは痛いものの、4kディスプレイであるという点が非常に大きいので、FHDのディスプレイを選択すれば純粋により高機能化された最強のThinkPadとして使えるだろう。