(OSS系) フリーフォントの昨今 2019 商用フォントの話もあるよ
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収録文字数のおはなし
「グリフを揃えることが大変」であり、そもそも「アウトラインフォントを使うことで使用可能な文字が減る可能性がある」という状況は当たり前だった。
ちょっと収録文字数の話をしよう。 なお、ここでのカウントはttfdumpの出力に基づいている。
まず、JIS X0208の文字数が6355+524で6879文字。 JIS X0201の可視文字は191文字であり、Shift JIS的には7070文字があれば表現できる。
MSCP932だと7864文字まで増える。 これでも、割と使える文字は限定的だったので、あまり問題になることはなかった。
ただ、Windows的なフリーフォントだと文字が出ないことは普通にあった。
ちなみに、デザイン系のフォントは商用でも今でも普通に7000字に届いておらず、人気のあるフロップデザインのフォント (私も持っている) は4112文字にすぎないため、日常的な文章でも普通に出ない。 そもそも、JIS X0208には「割と日常的に使うのにない文字」というのが存在していて、これは「よく使うのに教育漢字じゃない」「よく使うのに第一水準漢字じゃない」というのと同じような構図になっている。 MSCP932だとそのようなことはあまりないのだけど、それでも思わぬところで使えない文字があったりする。
これを踏まえてのJIS X0213に関しては11233文字に拡張されていて、フルサポートするハードルが大変上がった。
フォント | 収録文字数 |
---|---|
IPAゴシック 003.03 | 12,728 |
源ノ角ゴシック 2.000 | 17,933 |
さざなみゴシック | 13,584 |
VLゴシック | 17,317 |
M+ | 8,892 |
Migu | 13,866 |
梅ゴシック | 15,563 |
梅明朝 | 15,563 |
さわらびゴシック | 6,973 |
さわらび明朝 | 4,295 |
花園明朝 A | 52,008 |
Cica | 18,189 |
モトヤLシーダ 等幅3 | 7,574 |
DF談楷書 | 8,815 |
UDヒラギノ丸ゴ Pr6N W4 | 23,058 |
MSゴシック 5.1 | 16,104 (公式資料) |
メイリオ | 20,684 (外部資料) |
游ゴシック | 約23,000 (Wikipedia) |
小夏 | 15,572 |
みかちゃん | 15,572 |
ちなみに、ttfdumpを使うと、「実際にはグリフがない (空白や〓になっている) 文字もグリフが登録されている以上カウントするため、4,114文字しかないフロップデザインのフォントも15,444なんてカウントされてしまう。 ただ、これはデザイナ的な文化で、FontConfig的にはグリフが存在しない文字にグリフを登録するのは明確な悪なので、オープン系フォントでそれはないと思う。
歴史の転換点
収録文字数を必要とする場合、有力な選択肢であったのが花園フォントである。これは現在は収録文字数が5万字を越えており、「だいたいの文字は出る」レベルである。 そうでなくても、広く利用されていた東風ゴシックは13584文字を収録している。 (さざなみゴシックでカウントしたので、少し違うかもしれないが)
だが、問題はそう簡単ではなかった。 さざなみフォントはグリフが決して綺麗ではなかったし、あまり思い出したくないほど、東風フォント、和田研フォントなどは利用に際して様々な問題を抱えていた。
この問題は主にはベクターフォントは贅沢品であるという認識、 さらにフォントは印刷系との結びつきが強く、そもそも素人が手を出せるようなソフトウェアではなかったということなどがある。 そもそもフォントは写植時代のものが長く引き継がれてきたし、写植なんて一般人には縁遠かったから印刷屋と一部研究者のものだった。 スクリーン上でリッチな文字表示をすること自体が難しかったこともあるし、一般ユーザー的には「年賀状ソフトを買えばフォントは手に入る」みたいな感じだったから、フリーフォントは貧しいままの文化だった。
という説明は多分、肌感覚との乖離から文句が出ると思う。
Unix系ではもともと和田研フォントが使われていたけれども、自動生成フォントであることもあり品質的な問題もあったし、ライセンス的な曖昧さもあった。 Linux的にはビットマップの東雲フォントが標準の時代(2000年まで。和田研フォントも使われていた)から東風フォントが標準となり(2003年まで)渡邊フォントのデザイン剽窃問題によって東風代替フォントからのさざなみフォントという時代があり(2003年から2004年)、この頃M+ OUTLINE, VLゴシック, 梅フォントが登場しフリーフォントに選択肢が出てきた、というのが実際のところだろう。 実はもうちょっと選択肢は存在していた (戸越フォントとか、Kandataとか、和田研細丸ゴシックとか) のだけど、あまり広く使われることはなかった。これは、ライセンス的都合も大きかったと思う。
そんな中IPAフォントが公開された。 これに関しては実は色々あった。大きいのはライセンス的理由で、当初は「単独再配布不可、成果物同梱のみ可」なんてライセンスだった。 ライセンス問題は延々と続き、2009年に一応オープンなライセンスになったものの、SIL Open Font Licenseより余計なものがくっついているようなもので、依然として問題が残っている。
だが、少なくともこのような高品位なフォントというのは今までLinux界隈にはなかったものだったし、衝撃も大きかった。 しかしその割に肯定的に受け入れられなかったのは、そのライセンス問題に加えて、それより先にM+ OUTLINE及びVLゴシックが登場したことが大きいだろう。
「スクリーン向けの可読性の高いアウトラインフォント」というのは従来のフォントにはない新しい概念だった。これは、メイリオにまで影響を及ぼしたように思う。 対してIPAフォントは(横組を前提としてデザインされている)TB明朝/TBゴシックをベースとしており、本明朝ベース、及び本明朝ベースの明朝をベースにしているMSフォントと比べればモダンだが、それでも新時代の丸ゴシックを体験した後ではちょっと古くさく思えてしまったのだ。 だが、これは好みだったから、意見はすっかり二分されることとなった。実際、ディストリビューションの採用フォントもIPAフォント派とVLゴシック派に割れた。
ただ、大きかったのは「高品位で文字数が揃っているフォント」が登場したことである。 これによって「グリフを揃えるのが大変な漢字部分をIPAフォントで補う」という手法が生まれた。その代表格はM+ OUTLINE FONTとIPAゴシックを組み合わせたM+IPAGフォントである。 このフォントは現在はMiguと呼ばれている。
しかし、そこまで流行らなかった、とも言える。 VLゴシックは漢字部分はM+のもの、自作のもの、さざなみ由来のものを組み合わせているし、ライセンス的な不自由さもあり、そのような手法がより一般化したのは2009年以降だ。
インパクト面では源ノ角ゴシックのほうが大きかった。 こちらは2014年に登場。Adobeによる圧倒的高品位なフォントである。 さらに2017年には明朝も登場している。ライセンスはSIL OFLであり、IPAフォントより扱いやすい。
最近は「不足グリフを補う」というスタイル(Mgen+, みずき明朝, Meguriなど)よりも、そもそもIPAフォントやSource Hanフォントを改変していくスタイルのほうが流行しているようだし、 ベースがグリフ数が揃っている高品位フォントということもあって、刮目すべき素晴らしいフォントが次々に誕生している。
実際、積極的にIPAフォントを採用する話はLinux界隈以外ではあまり聞かないのだが、1 Source Hanフォントはかなり人気があって、WindowserもMaccerも積極的選択がよく見られる。
逆に嫌われているのがWindows, Macともに標準採用となった游ゴシックである。 高品位フォントの代名詞のように扱われているヒラギノフォントと同じく字游工房が作ったフォントなのだけど、モダンなヒラギノに対してどちらかといえばレトロにデザインされているせいなのか、嫌う人が大変多い。 いや、私も好きではないのだけど。
次の話の前置き
私は結構商用フォントも買う方で、
- ダイナフォント
- モリサワ
- モトヤ
- フロップデザイン
- フォントアライアンス
を持っていたりする。
やはりフォントの品質的にはモリサワが一番いいのだけど、モリサワはデザイン性が高すぎて本文やスクリーンフォントとしてはちょっと使いにくい。 一番使いやすいのはモトヤフォントで、UDアポロが非常に使いやすいので単独フォントでUDアポロ買おうかなと思っているし、逆にモリサワパスポートの更新はあまり考えていない。
源暎フォントのすゝめ
おたもんさんが源ノ角ゴシックベースに作っているのが源暎フォントである。
このフォントは今すごく熱い。全体で見ればよりレトロな方向性に思える。
- 源暎こぶり明朝 ―― 本文向け明朝。 小がな化、オーソドックスなグリフ化(特に欧文)、縦書きに最適化、濁点つきかな/カナの専用グリフ (NKS)
- 源暎ちくご明朝 ―― 本文向け築五系の明朝。オールドスタイル化、角立て、濁点つきかな/カナの専用グリフ (OKL)
- 源暎アンチック ―― アンチック体(漫画で一般的な形状)かな+ゴシック体漢字のアンチゴチフォント。 漫画でオーソドックスな形式で漫画向け。実際最近は漫画でも使われる
- 源暎Nuゴシック / 源暎ゴシックKL ―― 漫画の強調セリフ向け特太ゴシック。 かなも大きく調整。
- 源暎ラテゴ / 源暎ラテミン ―― アポロやフォークのような方向性のアンチック体のかなに源暎ゴシックの組み合わせ。ラテミンは機械的に漢字を横太に調整
- 源暎ロマンのーと ―― リガチャ対応のfantasy系欧文フォント
- 源暎ゴシック ―― テロップ向けに源ノ角ゴシックの癖のあるスペーシングを調整
縦組み長文で読みやすいモダンな「源暎こぶり明朝」、格調高い小説に使える「源暎ちくご明朝」、漫画で実用的な「源暎アンチック/源暎Nuゴシック/源暎ラテゴ」と創作物に非常に使いやすい。 実際に創作物(同人を中心に)に使われることも増えているのだけど、元が商用フォントを差し置いて使われることも増えている源ノ角ゴシックだけに、とにかく品質が高い。
源暎ラテミンはおまけ、とのことなのだけど、うちでは本文用フォントとしての人気が大変高く、さすがにUDアポロのほうが評判は良いものの、 「アンチ明朝」である元陽逆アンチックと人気を二分しており、手持ちライセンス的にはフォークも使えるにもかかわらず、私はPDF文書は主に源暎ラテミンで出している。2