OVOフルデジタルスピーカー * Linux
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OVOスピーカー
宮城県のJDSoundがクラウドファウンディングで資金調達して開発したポータブルスピーカー、OVO。 小型ながらシアタークオリティのサウンドを発すること、D/Aコンバージョンを含まないフルデジタルであることを売りとしている。
非常に高い期待値でかなりの資金を集めたのだが、デリバリーが極度に遅れたことと、度重なる仕様変更で相当不満が高まっており、全体でみればスタート時点で評判はあまり良くなかったように見える。
私のところには2018-10-31に到着した。
なお、念のために前置きしておくが、私はプロの音楽家であるし、 スピーカーも何種類かのポータブルスピーカー、手軽なPC向けのElecom, Creative, BOSEのスピーカー、全く手軽ではないSony, DENON, FOSTEX, YAMAHAのスピーカーを持っているし使っている。
基本的な仕様
サイズ的には十分にコンパクトで、2つのMicroUSB Type-Bポートを持つ。
操作系はレバーボタンがふたつ、表示系はLEDインジケーターが16個、 脚は裏側と天面にある。
なぜ脚が天面なのか、というのは著しく疑問だった。 単にひっくり返るだけではなく、ステレオスピーカーなのでひっくり返してしまうとLRが逆になる。 設定でLR入れ替えは可能なのだが、わざわざ天面に脚をつける必要は全くなかったのでは…と思ったが、やってみてわかった。 横置きしたときにやや手前に傾くように傾斜しているので、正しい向きで設置するとスピーカー下向きになってしまう。逆にすれば上向きになる。なるほど。
MicroUSBポートはそれぞれ“Audio”, “Power”と表示があるのだが、この表示も大変にまずい。 USB audio deviceとして扱う場合はAudioポートに接続し、Powerポートは補助電源となる仕様だが、アナログ入力する場合、逆に“Audio”を電源供給としてオーディオデバイスとは“Power”で接続する。 非常にわかりにくい。
ちなみに、 製品版ではADCを含まないためにそもそもオーディオデバイスとの接続自体できない 。 これは致命的であるように思えた。だが、実はそうでもなかったことについては後述。
操作方法は大変わかりにくい。 レバーボタンを押すと設定モードになり、レバーで項目移動、ボタンで決定する方式。 なんかBIOS画面っぽい。保存または取り消しは反対側のレバーで行う。
このわかりにくさを緩和するため、インジケーターが意味する設定を表示するシールが付属している。 これがあれば操作方法さえわかっていれば戸惑うこともないだろう。
OVOはフルデジタルスピーカーであり、その内容としてはDnoteを使っている。 Dnoteの詳細についてはDigital Audio Lab.で掲載されている。
Dtoneの基本的な特性は空間に余裕がない場合でも音量や音質を確保しやすいということだろう。 デジタルスピーカーそのものは昔から試行錯誤されてはいるのだが、いまひとつ実用には至っていない。 Dtoneが理想形というわけでもないと思うが、次世代の期待ということで刮目せざるを得ない。
LinuxにおけるOVO
基本的にダメだった。
PulseAudioから見ると-0.26dBでOVOのボリュームは0となり、-0.00dBで100になる。 あまりにもレンジが小さく、ボリュームコントロールが機能しない。 ちなみに、-0.26dbでOVOのボリュームは0になっているのだが、OVO自身はちゃんと信号を受け取っているのでインジケーターは適切に表示される。だが音は出ない。
また、USBバスパワーで駆動する場合(補助電源を使うとしても)ローパワーモードにしないとうまく動作しないかもしれない。
また、OVOはボリュームレバーでコンピュータ側のボリュームをコントロールするようになっているのだが、これはXF86VOLUMEキーとして機能するため、プライマリデバイスの音量が変更されてしまい全く機能しない。 さらにいえば前述の通り非常に特殊なボリュームレンジで動作することから、XF86VOLUMEDOWNしてしまうと-0.26dBよりも小さな音が設定され音がでなくなるため、仮にOVOをプライマリにしたところで何も解決しない。 この状態でボリューム・コントロールするにはデバイスボリュームではなくPulseAudioのアプリケーションボリューム側で絞って調整することになるのだが、これだと起動時にOVOから音を出すアプリケーションは音量設定前となり100%の音で出るし、OVOも100%で出すことになるから結構な爆音で出ることになる。ちょっと困る。
OVOの設定でローカルボリュームをonにした場合はちゃんと機能する。 恐らくLinuxで運用する場合は必須だろう。この場合はOVOのデバイスボリュームを100%に固定しておき、OVO側でボリューム調整が可能。 また、この状態であればデバイスボリュームを操作することでも音量調整ができる。
ただし、デバイス自体はやや不安定で、デバイスは接続されているが音が出ない、という状態に落ちたりすることがよくある。 また、ソースボリューム、というかソースのそのものの波形に影響を受けやすく、例えば随分音が小さいAmazon Videoなどはかなり小さな音で再生される。
OVOスピーカーのレビュー
音
試聴時にはわかっていたことだけれど、「ポータブルスピーカーとして無難なレベル」を出てはいない。
別に音が悪いということはないのだけど、表現力はそんなにないし、音が埋没しやすい。 標準設定ではLOW+2となっているのだけど、この設定はものすごく音がこもってしまい、ポータブルスピーカーの悪い音として普通のレベルになっている。
ただし、これは調整することで改善可能である。 HIGH+1またはLOW+1&HIGH+2が正しい音に近づくようだ。 LOWはBASSなのだが、HIGHはTribbleではなくヴォーカル音域あたり(2kHzかな?)である。
この状態であれば、確かにサイズからすれば驚くほどクリーンな音が出る、といっていい。
が、それはサイズ比、というか重量比である。 値段比で言うと製品版は2万円くらいするようなので、2万円くらいするスピーカーならもっといい音出せるからなぁ…と思ってしまう。
サイズ比でもやや微妙で、Victim Royaler Speakerというポータブルスピーカー(恐らく現在は入手不能)が非常に良い音を鳴らすのだが、体積的には2倍いかない程度、フットプリントは同等である。 ただし、重量に関してはこちらはOVOの比ではないほど重いので、重量比になると「すごくいい音を鳴らす」と言っていいだろう。
なお性質上筐体が非常に強く震えるのだが、そのために「置き方と置く場所」がすごく重要になる。 裏側を下にしてべったり置いたほうが響きやすいし、置く場所は板の厚い机の上がいい。 これで低音がぐっと強まり豊かな音になる。
難しいのは配置で、音がよく聞こえる位置というのは、「スピーカーを横置きしてスピーカーの上に頭をもってきたとき」である。 空間に対するスピーカーとしては非常に弱いニアスピーカーである。
また、音楽を鳴らしたときの話に限って話をしている。私は音楽家であって、特に映画フリークではないから、シアターシステムとしてどんな音声チューニングが好ましいか、ということはよくわからない。 ただ、低音はかなり出るし(そのかわりこもってしまうが)、高音を強調すれば越えも聞こえやすいので映画を見たりするのにはいいかもしれない。 実際、このスピーカーでアニメーション作品を見たところ、声優の演技は非常に聞きやすく、分離して邪魔にならない程度にクリーンに音楽が聴こえた。 OVOは元はGODJ OlusというDJシステムに内蔵されていたスピーカーであるため、DJ向きのチューニングなのかもしれない。 そう考えればこもった低音もある程度納得できる。
音楽を聴く上で大きなディスアドバンテージとなるのが中高音域の薄さだ。 ベースの際立ちはスピーカーとしては素晴らしい(スピーカーではベースはもわもわしてしまってベースの音は判別するのが結構難しい)のだが、アコースティックギターやピアノといった楽器がうまく響いてこない。Highを上げてやればこもってしまうことはなく粒立ち良く聴こえるのだが、粒立ちが良いために調和が悪く、広がりもないのであまり音楽的でない。多分根本的な問題は音の広がりがなさすぎることになるのだと思う。実際、スイートスポット小型スピーカーとしても非常に狭い部類で、ちょっと席を立つと音は一気に悪くなる。だから、もしOVOをでかいキャビネットに組み込んだらかなりいい音が出るのではないかとも思う。
音の広がり方という意味ではラップトップのスピーカーにすごくよく似ている。ラップトップのスピーカーでこの音が出てくれたら幸せなんだけど。
私はメインで使用しているコンピューターのシステムスピーカーとして4000円ほどのElecom MS-75CHを使っているのだが、 こちらは丸みのある音で疲れにくく、意外と音楽も聴けてしまう。それと比べると音は確実に良いのだが、音楽的に優れているかと言われるとちょっと困ってしまう。 もっとも、MS-75CHは極端にいいバランスを持ったスピーカーであり、ここまで使えるスピーカーはもっと高い金額でもないので比べるのは酷かもしれない。
19800円(税別)という価格はだいたいM-AUDIO BX5 D2と同価格である。これは35+35Wのスタジオモニターであり、かなり大きなスピーカーだが、音は素晴らしく良い。さすがにBX5と比べると、比べる意味がない程度には違う。 だが、BX5は設置場所も必要だし、ちゃんと鳴らすためには結構な音量が必要になるのでその点で見るとOVOに利点もある。デスクトップモニターのAV42(15000円くらい)にしても音は圧倒的に向こうが良いが、40Wクラスのデスクトップモニターは設置するためにはデスク自体をそれを前提として設計しなければならず、マルチディスプレイと組み合わせるのは相当難しいので、メリットはあると思う。
やはり価格に対する音という点ではどうしても気になってしまう。これで8000円くらいなら絶賛できるのに。 ラップトップと組み合わせやすいスピーカーとしても、同価格帯にTimedomain lightという強敵がいたりするため、ここでも明確なアドバンテージがない。 だが、「携行向きの」という条件をつけると話は大きく変わってくる。携行するときはまさかリスニングルームで聴くわけでもないので、これだけの音が出てくれれば、会議室のプレゼンテーションでも、騒がしい展示場でのデモンストレーションでも、彼女に家にお邪魔したときでも文句ない音を聴かせてくれる。
だからリスニングスピーカー(いわゆるオーディオスピーカー、あるいはモニタースピーカー)と同列で考えなければ素晴らしい音質なのだが、純粋に音質だけで勝負すると厳しいものがある。 基本的には音に不満はないし、OVOの使われ方を考えれば文句はない。リスニングという特別な条件を前提として純粋に音質だけを求めるなら最善ではないということだ。
もし家の中でステレオホームシアター的な使い方、あるいは音楽鑑賞用にスピーカーを求めているのであればOVOが最適解ということはないだろうと思う。 それはもっと大きいスピーカーのほうが向いている。 あるいは、固定的に使用されるラップトップ用スピーカーとしてもBOSE Companionもあることだし、実際私はBOSE MM-1も使っているけれどリスニング音質としてはこちらのほうがずっと良い。要はOVOの口上が過剰なのであり、「ポータブルスピーカー」という点を踏まえれば音は良いし、不満はない。だが、OVOがあれば映画館いらずなどというJDSound側の宣伝文句は鵜呑みにすべきではない
また、構造的理由から高サンプリングレートの音源はその意味を消されることとなる。 それが無意味なことだとは思わないが、ハイレゾ音源に本当に不可聴音域までの音を求めている人はこれでハイレゾ音源を再生すべきではない。
音量
デジタルスピーカーの潜在性という点で注目したい、「駆動電気量に比例するはずの音量がめちゃくちゃ出る」というのは事実だ。
Victim Royaler Speakerは音量も非常に大きいのだが、こちらは10+10Wである。 対してOVOは1Aと表示されており、USB給電は5Vであるため5Wである。 5W、この筐体でこの音量はすごい。机の上だとさらに大きくなる。(この場合筐体が巨大になったのと同じ話だが)
シアタークラス、とは言わないが、とりあえず防音のないマンションで聴く音としては限界以上に出る。 6畳クラスの部屋ではうるさすぎるほどだ。普通に20Wか30Wクラスの音量といった感じ。
ラップトップだとデモンストレーションするときに音量が足りない、というケースは非常に多いのだが、この問題はあっさり解決される。 音量だけの問題であればもっと小さなポータブルスピーカーでも良いのだが、音質的にもリスニングスピーカーとして選択する領域では言うほどのことはないだけで、BGMとして流しておくのになにも不満はない音であるため、プレゼンテーションやデモンストレーション用途には非常に良い。 実際、私はこの目的で購入したのでなかなか満足だ。
サイズと重量と携行性
サイズと重量に関しては携行性最優先で考えるとだいぶ不満がある。
コンピュータ系の仕事を外でするタイプの人は持ち運ぶ機材も多いので大きめのバッグを使っているだろうが、それでも結構なスペースを取る。 コンパクトなバッグを使っている人は収まらないかもしれない。
重量的にも気にならないほど軽いとはいえず、これひとつ持つことで重量感が変わる。 だから、「携行性が良い」とは言えない。
が、間違いなく「携行性はある」。 Victim Royaler Speakerは音も音量も大変優れているが、体積的にカバンの中では相当邪魔になる上に、重量がかなり重いのでよっぽどのことがない限り持ち歩く気にはならない。 音楽系のなにかをするときくらいのものだろうか。スタジオだとだいたいコンソール経由で音が出せるから、ダンススタジオでの練習なんかに使う程度な気がする。 だいたい、重量がありすぎて、無造作にカバンの中に入れてしまうと壊れそうだ。
OVOは常時携行する気にはならない重さだが、必要であれば持ち運ぶのが苦にならない程度ではある。 音質と音量、そして携行性のバランスを考えたときに、「ただ音さえ出ればいい」というわけではなく、きちんと音質も気にしつつ音量も出したいようなケースにおいては許容されるギリギリのバランスであると思う。
どちらかといえば気になるのは音の狭さだ。 音が狭いため望ましい設置を行うためにはキーボードの手前に置く必要があるのだが、そこまでコンパクトというか薄いわけではないので、すごく邪魔である。 ケーブルが出るのでなおさらだ。
製品版でADCが省かれたことは後退ではないかと考えたものの、実際のところ電源確保が別途になることも考えると、あまりポータブルオーディオと組み合わせるようなものではなく、そのような場合はまあまあ準備をするもので頻繁にある状況ではない、と考えると別に別途ボックスがあっていいか、とも思う。というか、そこまでしてOVOで聴きたいかが疑問。なんだか高価そうだし。
結論
「高い」「言い過ぎ」 これに尽きると思う。
携行性の良いポータブルスピーカーとしてAUKEYのスピーカーを持っているのだけど(これはメーカーからご提供いただいたもの)、音量はまぁまぁでるものの騒がしい空間だと流石に厳しいし、音質も「音楽も聴くに耐えないわけではない(ラップトップスピーカーよりはいくらかマシ)」という程度に留まる。
Victimのポータブルスピーカー(こちらはセラーにご提供いただいたもの)は音質も良く音量も出るが、重すぎて携行性に乏しい。
私がOVOに期待したのは、「講演とかプレゼンとかデモとかでちゃんと聴こえて、音質も添え物じゃなく惹きつけられるくらいのものだといいな」ということなので、その期待には100%応えてくれたから、私としては満足だ。
だが、それはクラウドファンディングで11000円ほどで手に入れたからであって、2万円は高い。
音楽鑑賞用のスピーカーとして見れば2万円の音ではない。ポータブルスピーカーであることを抜いてしまったら、そんなに音は出ていない。 まぁ、「動画視聴用」と強調しているので、オーディオスピーカーとして評価すること自体が間違っているのかもしれないけど。
そして、「映画館を完全再現」はできていない。だいたい、それはいくらなんでもスピーカーアレイをナメ過ぎだ。スピーカーアレイはモノもそうだが、その配置にはものすごくテクニックが必要になる。PAエンジニアをナメてはいけない。
だが、言っていることの中で間違いなく事実であるポイントがある。 それは「声が聞き取りやすい」だ。
私が持っているスピーカーは全てモニター、あるいはオーディオスピーカーなので、個人的なシアタースピーカー/AVスピーカーの経験はそもそもないのだが、 私が持っているどのスピーカーよりも声は聞き取りやすく、アニメでもYouTubeでもスピーカーにおいて常に感じるセリフの聞きづらさがかなり解消される。 確かに、「動画視聴用」程度のライトな感覚ならば文句の出ようがない。いや、それでも2万円は高い気がするけれども。
価値は間違いなくあると思うのだけど、絶賛するなら8000円、賞賛するなら15000円くらいで出してほしかったところだ。 そして、大言壮語に良いことはない。