Chienomi

ネットスラングLOL表現の変遷

文化(デジゴト・デジモノ)

どうもインターネット上を眺めていると、ネットスラングLOL表現について自分の育った環境下が全体であるように理解している人が多く見受けられ、そもそも知らない人が増えているようなので、ここで一旦まとめておきたいと思う。

なお、これらは私の手元にある集積的データベースにおいて確認されている情報であり、少なくともそれなりの信頼性はあるはずだが、必ずしも事実ではない可能性があることをご了承いただきたい。

LOL表現の歴史

(笑)

「(笑)」という表現は非常に古く、少なくとも1991年には既に見られる。 fjなどで見た記憶はないが、パソコン通信、ワープロ通信において黎明期から広く使われていたものと考えられる。

JIS X0208の括弧を使う「(笑)」は1998年頃から衰退。 1997年頃から入れ替わるように右括弧を省略する「(笑」が登場してくる。 1996年頃から「(爆)」「(涙)」「(泣)」といった表現が増えており、やがて右括弧省略形に発展するような形。

「(笑」のような右括弧省略形も割と息が長く、この表現の展は噂の「(暗黒微笑」なんかにつながっていく。

1997年頃にはサブカルチャー作品でこのようなネットスラングを使うキャラクターが登場する。

lol表現以外に様々な表現が可能なのがこの表現形式のメリットだが、絵文字の普及と共に廃れてゆく。

藁, ワラ

藁やワラといった表現が登場するには2000年頃から。 ローカルにはそれ以前から散見されるが、主には2chで流行している。

ちなみに、「(わら」を含めて「(笑)」を「わら」と読むようになるのは、1998年以降、ネットゲームにおいてであり、それ以前は(変換の都合もあるが)「わらう」と読むのが主流である。1999年頃になると対談記事などにおいても普通に「(笑)」が登場するようになるが、「わらう」とふりがなが振られている場合が多い。 (個人的には「わらい」と読んでいたが、やや少数派)

「わら」と読んでいたのは1999年以降の新参が多い印象だが、またたく間にこの読みが普及し、「わら」という音で表現されるようになる。

このことから藁、ワラといった表現が誕生する

wara, w

2chで使われるようになるより以前から、ネットゲームでは「わら」という読みが一般化しており、チャットでの変換の手間を省いて「わら」と表現されるケースが非常に多くみられる。

これは、チャットでのタイピングが行いづらいネットゲームの特性によるものだろう。一般的なチャットでは「わら」という読み及び表現は普及していない。

2000年以降に「w」が登場する。これはさらなる簡略化を求めて「w」だけを打ったものであり、「ローマ字入力変換なし」に由来するため、当時のMS-IMEに依存し全角である。

半角wが使われるようになるのは2003年以降。この頃にはネットゲームに限らず使われるようになっている。 特に若年層に浸透し、「(笑)」という表現は「ダサい」とされるようになる。

このときの若年層というのは基本的にケータイ(今で言うガラケー)ユーザーであるため、「w」を打つことは利便性がないどころか打ちにくいはずなのだが、広く使われていた。

この流行により急速に「藁」「ワラ」といった表現と廃れていき、また表記する場合でも括弧を伴わなくなっていく。

もっとも、若年層に浸透するよりも早く普及した2chにおいては「w」という表現は従来「(プゲラ」と表現されていたものに対応していたため、かなり強く嘲笑のニュアンスがあった。

ところが、2008年頃からこの事情は逆転していく。 つまり、「w」が徐々に(というより急速に)嘲笑としてのニュアンスなしに使われるようになり、逆に「(笑)」と閉じ括弧まで含めた形式が嘲笑のニュアンスで使われるようになる。

これはかなり複雑な経緯で、そもそも「(笑)と書くのはダサい」という風潮を前提として、(笑)という表現を馬鹿にして用いた、ということに由来し、これによって「(笑)と書くことによって馬鹿にしているニュアンスが伝わる」という状況が発生し、故に「(笑)という表現自体が嘲笑のニュアンスに見える」という変遷である。

これを踏まえてか、あるいは他の類推からか、括弧を伴わない「笑」という表現も増加する。 これが嘲笑のニュアンスなしに感情を伝える良い判断である、ということのようだ。

「w」を否定的に感じない人、というのは実のところ割と限られた文化圏であり、 一方でwや(笑)に対して嘲笑のニュアンスを取る人も意外と少ない。

とはいえ、「w」を重ねることで強く嘲笑のニュアンスを表現するということは今に言ったても行われているし、そのことを含めて「w」が「品のない発言である」と伝わること(こちらは嘲笑のニュアンスに関係なく、そのようにとる人が多い)も理解すべきであろう。 インターネットは自分の可視世界が全てではなく、公言することには責任がある。

草生える → 草

「wを重ねる」というのは、2ちゃんねるでも特に民度が低いとされた一部だけの文化だが、これに影響を受けたのがニコニコ動画である。

そして、ニコニコ動画において「wを重ねた状態」つまり「wwwwwww」が「草に見える」ことから、これを「草を生やす」と言われた。 あるいは、タイミングとしては判定しがたいが、2ちゃんねる内でそのような一部板以外で「w」を重ねることに対して「草を生やすな」という窘めが行われていることから、こちらが先行かもしれない。

いずれにしてもニコニコ動画が流行していた頃はユーザーは若年層が多く、「かなりの部分2ちゃんねるのユーザーとかぶっていた」ということであるらしい。

この場合の「草を生やす」は笑うことではなく、「wを重ねること」を述べているのだが、w自体が浄化された結果、「草生える」という表現が嘲笑のニュアンス関係なく(嘲笑の場合もあって)「笑える」「おもしろい」という言葉として使われるようになった。

これはそもそも感情にフィットする語感の良い言葉がなかったところへ、簡潔かつsound goodな言葉がついた形になる。

さらに発展し、「草生える=笑える」を「草」と表現するようになる。 草自体が「笑える」ことを示すようになると、「草を生やす」という表現は衰退。「草原」といった表現は減少しつつも、そのペースは「草を生やす」と比べると遅い。

ちなみに、この表現がoriginなわけではなく、これ以前の「ワロス」の置き換えであり、後には「こんなん笑うわ」(これも「こんなんわろてしまうわ」からの派生)も登場している。