フットプリントのおはなし
情報技術
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序
先日フットプリントの話題になったのだが、いまいちピンとこない人が多いようだったので、 情報技術におけるフットプリントについて解説する。
フットプリントとは
フットプリントは匿名の活動記録である。 それ単独の情報が固有である(ID代わりに利用できる)ものはフィンガープリントというが、フットプリントは単独の情報としてはそれほどの意味はない。 もちろん、統計上の価値はあるのだが、フットプリントという場合には、異なるアクティビティをつなげることを前提としている。
典型的なのはユーザーエージェントとアクセス元IPアドレスである。 IPアドレスは場合によっては固有であることもあるが、一般的には(普通のユーザーは)固有ではない。 よって、これらの情報は特にフィンガープリントとしては機能しない。
ただし、私の場合割と珍しい条件を揃えている。
まず、私のUAはMozilla/5.0 (X11; Linux x86_64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chrome/72.0.3626.122 Safari/537.36 Vivaldi/2.3.1440.61
である。あまり特色がない、と感じるかもしれないが、(X11; Linux x86_64)
の記載がある時点でだいぶ絞られる。さらにいえば、UbuntuやFedoraや(Vivaldiの場合どうかはわからないが)ディストリビューション名が入ったりするため、さらに絞られてしまう。
そして、私はIPアドレスも、固有ではないがかなり珍しい。 私の観測範囲においてはこの組み合わせを持つユーザーは他にいない。「観測範囲ではいない=活動範囲ではいない」であるため、逆に私の活動圏においてはこのUAとIPアドレスの組み合わせは私である、ということがわかってしまう。
これは割と珍しい例だ。例えば@NiftyでWindows 10のGoogle Chromeを使っているユーザーなんてたくさんいるだろうし、Softbank mobileのiPhoneユーザーもたくさんいるだろう。 ではこれらは全く特定できないか?というとそんなことはない。
まず、ある瞬間に同じIPアドレスを持つのは、同一のNAT内にあるコンピュータだけである。 ユーザーエージェントは意外と一致しない(ログをソートしても異なるユーザーで全く同一のユーザーエージェントを示すケースはかなり少ない)ので、連続的にアクセスしていた場合、そのユーザーの「特徴」を掴むことで同一人物であることを特定でき、またIPアドレスの変わり際はその「微妙に違うIPアドレスと行動の連続性」によって特定できてしまうので、追跡することができる。
IPアドレスとUA以外にも
- 通信速度
- 反応を返すまでの応答時間、ラグ
- コンテンツ中のロードする内容
- 滞在時間の傾向
- 選択するリンクの傾向
- ページロード中にページを離れる率とタイミング
- タッチデバイスでの操作か否か
- 表示領域のドット数とウィンドウのドット数
- スクロール速度と量
- スクロールを止める箇所
- ページをクリックや反転させるクセがあるかどうか
- ブラウザで有効化されている機能
などなどフットプリントとして機能するものは非常に多く、本気を出せば人物の同定は非常に簡単である。 避けることはできない。
もっとも、現実にはこのようなケースではトラッカーを使うほうがずっと簡単であるため、このような高度な行動分析は行われない。 このような高度な行動分析を必要とするのは、どちらかといえば私のように行動と心理に関する情報を必要としている者だ。
ちなみに、安心してほしい。 私はトラッカーが死ぬほど嫌いなので、私が提供しているサイトにはトラッカーはないし、不要にクッキーを使うようなこともしていない。1 統計的情報としての範囲を越える利用は全くしていない。
横断する恐怖のトラッキング
このようなフットプリントはローカルに持っていて、そこにとどまるのであればそれほど怖いものではない。 だが、横断すると話は全く別である。 横断すればその人がとっている一連の行動がわかる。ずーっとインターネットにおける活動を監視しているのと同じだ。期間が長くなってくれば、次の行動も予測できるようになる。
かなり大きいのは、Tポイントカード、Dポイントカード、楽天カードといったポイントカードの利用と、Suicaなど交通系ICカードの利用である。 これらはかなり利用を避けがたいのだが、ここに残っているフットプリントは結構致命的な内容である。 TポイントやDポイントやSuicaの内容がほいほい第三者に利用されていることについて、人々はもっと強く危機感を持つべきではなかろうか。
私は防衛型のハッカーなので、「まず自分が攻撃することを想定し、次にどのようにすれば防衛できるかを考える」という手順を取る。 これに則って考えれば、情報へのアクセス難易度や行動上の条件によって阻まれない、という前提のもとであれば、その人物が「どこに住み」「どのような生活サイクルで」「どのような手段でどこへ移動し」「どのようなクセを持っていて」「どのような行動を取るか」ということが把握できる。 どこに勤めているか、どのような生活をしているかはもちろんのこと、日用品が足りないのではないか、食料を買いにいかなければならないのではないか、ということも、次にどのタイミングでスマホでどのサイトを開くか…というのも手に取るようにわかるわけだ。 ここまで分かれば煮るなり焼くなりという状態である。ピンポイントにメールを送るも良し、フィッシングサイトで釣り上げるもよし、あるいはエンカウント数分前着程度の滞在時間で人気のないところで待ち伏せるもよし、である。
そんなまさかと思うかもしれないが、諜報機関ではこれくらいやる。 北朝鮮の拉致だって、今ならこのレベルでやるかもしれない。 というか、私で具体的方法を含めぱっと思いつくのがコレなのだから、ガチ勢はもっとやばいと思ったほうがいいだろう。
そして、このような横断してフットプリントを集めるという作業は日常的に行われ、私達は日常的に目にしている。 そう、ターゲティング広告だ。
「目立つフットプリント」は匿名化以上の損失になりうる
個人情報に紐付かないフットプリント の対応として適切なのは「森に入る」であり、なるべく紛れることである。
例えば匿名化ウェブプロキシでアクセスすると、身元が隠蔽されるため安全である、と考えるかもしれないが、実際のところ匿名化プロキシでアクセスしてくる人というのは非常に少ないので、大変に目立つ。 匿名化プロキシの効果でそれが誰であるか完全に特定できなかったとしても、そのようなものを使う人自体が大変少ないので、使っていること自体によってかなり絞り込めてしまう。
そもそもフットプリントから追跡対象を決めるときは「特徴によって決める」のが普通なので、目立つフットプリントはそれだけで目をつけられる可能性が高い。
検閲による効果は、検閲を回避する者にまで及ぶわけである。
特徴的な行動、少数派などは、フットプリントによる追跡からの防衛という観点から言えばなるべく避けたいのだ。
防ぐことの難しさ
正直なところ「祈るしかない」とは言える。
例えばテクノロジーに疎く、ケータイも持っていなくてSuicaも使わない、という人であれば追跡できないかというと、そんなことはないのが現代社会だ。 情報を過剰に収集している上に、あまりにもそれを濫用している。
現代社会においては極めて知悉した上で、細心の注意を払い、非文明的暮らしをすればフットプリントを限定的にできる。 だが、それはそれで「追跡しづらい、謎めいた人物」というフットプリントが浮かび上がってしまい、マークされることになるかもしれない。
このような不躾な追跡は、それが例え私の研究の進展に寄与するとしても、人の平穏な暮らしという観点から到底許されるべきではないと、私は思っている。
WordPressを使っているサイトはWordPressが使っているかもしれない。それには私は関知していない。↩︎